第1話 異世界転生ならぬ異世界転職します。
世界的に人類の人口が増え過ぎた。
平均寿命は100歳を超え医療技術の発達と細胞活性化処置により死に難い人類が誕生している。
西暦2147年3月の春を迎えた。
日本の人口も医療の発達で平均寿命は120歳となり、2億人を超える現状になった。
私が大学を卒業する頃にはAIによる技術発達と機械化の推進により、就職困難に拍車をかけた。
そして、人工知能AIの飛躍的進歩により人間の労働力は不必要になって来ていた。
企業は人件費を削る為に更に機械化を推し進めたからである。
私は如月朋美。
西暦2122年5月2日生まれ、24歳。
東京都世田谷区で育った。
幼い頃から頭は良く、高校も大学もそれ程苦労なく進学できた。
大学は国立大学で経済学を学び、一流の企業にも就職した。
会社は制服も可愛かったし、学んだ事も活かせる職種で満足している。
しかし、機械化の波に呑まれて若い私でも希望退職枠に入れられる事となった。
このまま会社にしがみ付くのも考えたが、人事部の課長から異世界就職の案内を貰って、少し考える事にした。
異世界就職は50年ほど前に、ゲートの開発に国が成功すると、それまではアナザーワールドとされて居た時間軸のずれで発生する世界を実際に認識できる事となった。
ゲートを使って違う世界に行く事が可能になったのだ。
夢がある話だと言えばそうかも知れないが、全く危険が無い訳ではない。
私にその選択が来るとは思ってなかったけど。
国からの異世界就職斡旋事業が国会で法律化されたのが20年前。
私も会社の人事部から職業安定所への紹介状を渡された。
早速、水曜日に有給休暇を取って行く事にした。
職業安定所なんて、来るのも初めてなので不安要素しか無い。
施設に入ると、沢山の求人がモニターに映し出されている。
「あなたも異世界で魔法を使ってみよう。」
何の求人だ?
魔法使い募集ですか?
そのまま中に入るとパソコン端末が並んでいて、奥にはカウンターがある。
デジタル案内のロボットが近づいて来た。
「どの様なご用件ですか?」
機械的な案内ガイダンスが流れる。
「会社からの紹介状を持って来たのですが。」
ロボットが案内状をスキャンすると。
「こちらへどうぞ。」
案内されたのは異世界就職斡旋事業部と書かれたカウンターだ。
「どうぞ。お座りください。」
「はい。」
椅子はオフィスチェアでそこそこ触り心地が良い。
「会社からの紹介状を見せてください。」
紹介状を受付の男性に渡した。
男性は歳の頃は50代くらい。
良い感じでハゲている。
特にてっぺんは気持ちがいいくらいハゲている。
「確認しました。
リストラの対象に成られたのですね。
それはご心中お察しいたします。
この部署は異世界への転職を斡旋している国が定める事業でありまして、いろいろな職業がございます。
ご希望の職種はありますか?」
「そうですね。
一様知識として異世界での仕事は理解はしているのですが、平和で安定している仕事が良いですね。」
ネットで実際に異世界就職した人達の動画も見た事がある。
良いことばかりでは無い事も理解している。
「では、適正スキャンをさせて貰って宜しいでしょうか?
適正スキャンとは貴方の異世界での適性を調べる装置なのですが、人体への影響は全く無いのでご安心ください。」
「はい。
お願いします。」
部屋の隅にその機械は置かれている。
一見ショップにある更衣室の様な形で、カーテンは付いて居ないが入るとガラス戸が閉まる仕組みになっている。
そして、青い光が頭の部分から足先までスキャンし終わるとガラス戸が空いて外に出た。
「お疲れ様でした。先程の席でお待ちください。」
「はい。」
先に戻ると周りには結構沢山の求人を求めて異世界就職斡旋事業部に来ている事に気がついた。
昔は異世界転生とか憧れる人も多かった様だが、実際に異世界に行けるとなって現実になると、それを夢だと思う人は居なくなった。
異世界は危険な場所もあるし、魔法が使えてもそれが普通になると夢では無くなる。
手が届かないからこその夢なのだ。
「お待たせ致しました。
適正スキャンで貴方の異世界でのステータスが判明しましたよ。
お客様はお美しいのでやはり魅力はズバ抜けて高いですね。
知性も流石かなりの数値です。
意外に高いものがありまして、器用さがズバ抜けてこれも高いですね。
あと女性には珍しく勇敢さが基準値を大きく上回っていますよ。
どうぞ、ご覧ください。」
渡されたタブレットでスキャン結果を見てみると言われた通り魅力と器用さ、それに勇敢さは凄く高い数値を示している。
そして、その他は大体平均的な感じで悪くない。
最後にオススメの職業が挙げられている。
それが、魔法使い、勇者、召喚士、回復士、受付嬢、商人、交易商、アイドル、冒険家、ガイドなどが出ている。
「どうですか?
ご希望の職種はありますか?」
「ん〜、そうですね。受付嬢って企業の受付ですか?」
「それは多分ギルドなどの受付でしょうね。
受付嬢もいろいろありますよ。
募集を見ますか?」
「はい。」
見せて貰うとハンターギルドの受付嬢やいろいろなギルドの受付嬢、流石に異世界で一般の企業さんは無かった。
「受付嬢でしたら、安全で安定してますし女性には人気の職種ですね。」
「そうなんですね。」
「お客様は美人ですから、人気者に成れると思いますよ。」
何となく美人ですからと強調してくる人だな。
まあ、就職を斡旋したいのだろうけど。
確かに受付嬢なら危険は無さそうだけど。
楽しいかと言われると平凡な仕事の様に感じる。
「しかし、勇者も適正あるようですね。」
「絶対に嫌です。
だって、勇者って魔王と戦ったり魔物討伐を強制的にやらされる仕事ですよね。
そんな何の見返りも無いのに危険に身を投じる人の気が知らないです。
人生平凡で安定が1番です。」
受付のおじさんは私が勢いよく話したので少しビックリしている。
「あ、ああ、そうですよね。
まあ、危険はありますよね。
ちょっと勇者適正は見たこと無かったので珍しいなぁって思ってしまいました。」
「受付嬢でお願いします。」
と言うことで、給料は月給で固定。
休みは週休2日ある。
労働組合もあるようだし、一年に2回賞与も貰える。
特に危険な事もない。
条件の1番良い募集に応募した。
面接がある様だが、ダメならその時は別な仕事を考えれば良い。
と言う事で異世界転生ならぬ転職をして見ようと思います。