第0部 2章 1節 8話
ノーデル自治星。
この時代、それなりの大きさを持つが、大気層を持たない惑星を
中惑星と呼んでいる。
大気層の存在がなく、地表に移住地を作る事は難しいので
ドーム型のコロニーか、地下に移住地を作る事が多い。
ノーデル自治星は地下に移住コロニーを持つ中惑星である。
大気層がない中惑星は重力が軽いため、宇宙に出る事が容易であり、
宇宙艦隊の基地や、交易の中心都市として、
また、宇宙海賊の拠点としてなど人類と宇宙を繋ぐ橋としての役割を持つ。
地下への入り口が、そのまま宇宙港として発展しているケースが多く、
惑星の名をかたって入るが、地上か宇宙かのどちらであるか?と言えば
宇宙の分類に属する。
ウルスらは、商業船が使う一般の港から
ノーデルに入港した。
軍事基地や海賊の拠点となっている場合、
一般の商業船と軍艦の入港は出入り口を分けている場合が多い。
船が一般用の港に入港したということは、
商業船であるという証であった。
もちろん偽装の可能性もあるのではあるが。
ウルスもセリアも、中惑星に降り立つのは人生で
初めての経験だった。
大気層がない惑星は基本的に地下資源などの発掘によって
経済が成り立っており、住人のほとんどは採掘労働者である。
貴族や王族が来る場所では本来ない。
下船したウルスら一行は、そのままノーデルの中心都市へと向かった。
通路を抜けると、吹き抜けの大きな空間がある。
「わぁ!すごーい!」
ゲートを抜けてまず声を上げたのは、それまで黙っていたセリアだった。
岩石に覆われたノーデルの外壁を目視してた彼女は、
内部にあるその巨大な空間に、街があるとは思ってみなかったのである。
街があり、家が建ち、空がある。
遠くには海のようなものも見えた。
全て人工で作られたものであるが、
一見して、これが地下だとは思えない光景が広がっていた。
中惑星ノーデルの中心都市であるマラッサは半径約75キロにも及ぶ巨大な空間に
建設された都市であり、人口は118万人ほどである。
中世ヨーロッパ的な石作りの家が立ち並ぶ古風な都市であったが、
天候や気温は人工的に調整されているため、大気のある惑星の地上に住むよりも
快適だという人も多い。
貧しい星だと聞いていたウルスは、もっと貧民街のようなものを想像してたが、
レトロチックだというだけで、貧しさは感じなかった。
もちろん科学力がほとんど浸透していないこの街並みこそが、
この星の貧しさを物語っていたのではあるが、
王子と王女はまるで本の中にある異世界に来たような
気持ちになったのであった。
「カエデねーさんー!帰って来たんだ!
なんか買ってってくれよー。」
街に入ったウルスらは早速地元住民の歓迎を受けることとなった。
一緒に下船したカエデを見つけると、少年が走ってくる。
かなり遠くに居たはずであるが、一目でカエデを認識する辺り
視力はいいようである。
少年は年齢でいえば、ウルスと同年代ぐらいか。
布製の古びた服を着た少年は、それこそ
ファンタジーの物語に出てきそうな身なりだった。
「今はまだ仕事中なんだ。後で寄る。
フリュフトばあさんにもよろしく言っておいてくれ。」
カエデは少年に応えた。
「ふーん・・・。で、こいつら何者?」
少年はこの町に相応しくないウルスとセリアを
いぶかしげな視線で見つめていた。
観光都市でもないこの街で、部外者は目立ってしまう。
それが海賊であればお得意さんだったが、
ウルスやセリアのような子どもは海賊ではないのは明白だった。
そして、部外者に寛容でもなさそうだった。
「私たちのお客さんだ。失礼のないようにな。」
カエデは少年に笑顔で返す。
「よろしく!ウルスという。」
ウルスは、同年代の少年という事もあり、警戒心なく右手を差し出した。
握手というより、タッチを求める感じではあったが、
少年はそれに応えなかった。
いつもは海賊などを相手にしている少年である。
ウルスとセリアは毛色が違いすぎた。
「街を出歩くんなら、着替えたほうがいいぜ。
どこの坊ちゃんか知らないが、そんな格好だと身包み剥がされても
文句言えねぇぞ?」
口は悪いが、人当たりは良さそうである。
「そうだな。リュカの言うとおりだ。
服を買いに行こう。」
カエデが割ってはいった。
誘拐犯であるカエデたちの立場からしても、
ウルスが王族であることは内密にしておきたい事である。
だがリュカ少年の言うように、確かにこの地にこの2人は悪目立ち過ぎていた。
「ドルパ!2人の、いや、3人の服を頼む。
私たちは先にホテルに行っている。」
お付の1人にそう言うと、カエデはリュカの肩を叩いた。
3人と言ったのは、ウルスとセリアに加え、ブレイク伯の事を指している。
「後で買い物してやるから、このことは内緒にな!」
リュカは大きく頷くと、「じゃ、後でね!」と言い残し、
元来た道を戻っていく。
「彼は働いているのか?」
リュカが見えなくなってから、ブレイクがカエデに尋ねた。
「この街じゃ、あの歳で働くのはそう珍しい話ではないさ。」
カエデが特に感情を交えず答えた。
「そうか。」
社会経験の豊富なブレイクといえど、貧しい星の状況を
全て把握しているわけではない。
ウルスと同じ歳で既に働いている少年を見て、
何も感じないではなかった。
「ノーデルからの移民が上手くいけば、あの子たちが
学校に行けるように手配しよう。
約束する。」
ブレイクの言葉に反応したのはルーパだった。
「けっ!出たよ。上から何様だって話だ。」
その言葉にブレイクの眉が潜む。
ルーパは気にせず続けた。
「リュカはなぁ。今まで学校なんか一度も行った事がないんだ。
いきなり学校なんか行ったって付いていけるわけないだろうが!
お偉いさんはいつもそうだ。
自分たちが良い事をしたって自己満足に浸ってるだけで、
世の中の道理を何もわかっちゃいねぇ。吐き気がするぜ。」
「ルーパ、よさないか。
伯も悪気があって言った訳ではない。」
見かねてカエデが制止した。
ブレイク伯は何も言い返さなかった。
彼の言い分も一理あると理解したからである。
次は月曜(2/1)更新予定です( ゜д゜)ノ