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春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~王太子誘拐~

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第0部 1章 2節 6話

「カエデさん!」


「お嬢っ!」


彼女は部屋の中に歩み寄ると、男とブレイク伯の間に立った。


「ルーパ。あんたがこの作戦に反対なのは知っている。

だけど、今回は好きにやらせてもらえないか?」


カエデは男に言った。

男は罰が悪そうに目線を逸らす。


「ブレイク伯爵。何度も言うが、こちらは危害を加えるつもりはない。

協力してくれれば、無事にお城に帰すさ。」


彼らは誘拐犯である。襲撃者である。

しかし前に出るこの女性に悪意は感じなかった。

カエデは嘘をついているようには見えない。


「で、何を君たちの要求はなんだ?

君が今回の犯行の主犯なんだろう?」


ブレイクは、カエデの目の前に進む。

距離を詰めたのである。

周りの部下たちが身構えるが、カエデは手で彼らを制止すると、


「惑星カンド…の話は聞いたと思う。」


力ない声で、そう言った。


「ブレイク伯!」


カエデとは対照的に語気を強めたのは、ウルスだった。


「その話、私も気になります。

先ほどの話ですと、王国が、父が、

民衆の無差別攻撃をしたと聞こえたのですが!?」


その問いにブレイクは俯き加減に瞼を閉じた。


「王子、国と言うものには、暗部というものが存在します。

もちろん、スノートール王国とて例外ではありません。」


ブレイクはウルスらのほうを一切見ず、話を続ける。


「20年前、王国は宇宙海賊に悩まされていました。

そこで、宇宙海賊の資金源である、麻薬の生産地と工場に目を付けたのです。

当初は地上部隊を派遣し、制圧する計画でしたが、

最終的には衛星軌道上からの惑星攻撃という手段を取りました。

私は当時、軍の参謀本務に勤務しておりましたが、

軍としてはその攻撃に最後まで反対しておりましたし、

王子の父上、カルス王も難色を示しておいででした。

王国議会による決定を覆すことができなかったのです。」


「そんな言い訳が通じると思っているのかな?

都市という都市が焦土と化し、死者は15万人を数える虐殺事件だぞ?」


後ろに控えていたルーパが口を挟む。


「スノートール王国は王政を敷いてはいるが、民主王政であり、

議会の決定には、王といえど逆らえないのだ。」


ルーパの言葉にブレイクは黙ってしまう。


「ですが、承認したのは父上のはずです。」


応えたのはウルスだった。

それにはブレイクも反論出来なかった。

今、ブレイクは誘拐犯のみならず、ウルスからも責められている立場だった。

それまで黙っていたカエデがウルスに向き直る。


「いや、王子。

その件はこちらでも調べあげ、誰が攻撃を主導したのかを

突き止めている。貴方の父親は、責任がないわけではないが、

そこまで目くじらを立てることじゃない。」


「ですがっ!!」


ウルスの声をカエデは目で制した。


「当時の、現在もだが、王国議会を牛耳っているのは、

メイザー公爵。

スノートール王国王家は、統治はすれど君臨せず。

王族に力はなく、王とは名ばかりで有力貴族どものほうが、

その特権と財力を背景にのさばっている。」


カエデの説明に、チッっと舌打ちしたのはブレイク伯だった。

その舌打ちは、カエデに向けられたものではないのは確かだった。


「いえ、スノートール王国は、王族のみならず、

貴族にも制限を加えています。

父、いえ、王を差し置いての決定など貴族は出来るはずもありません。」


「ぼっちゃんだねぇ…。」


またしてもルーパが口を挟んだ。


「惑星カンドは、攻撃のあとメイザー公爵の領地に編入され、

再建された。地下に眠っていた膨大なレアメタルの産地としてね。

その利益を得ているのはメイザー公爵だ。

これがどういう事か、ぼっちゃんでもわかるだろう?」


ルーパはいやらしく笑う。

ウルスは黙った。

ルーパの発言の意図を正しく汲み取れたか不安だったからである。


「そんな・・・まさか・・・。」


ウルスの脳裏に最悪のシナリオが組み立てられていった。

メイザー公が、自身の私欲のために、

カンドに眠る地下資源の権利を得るために、

軍や王を利用して、カンドにおける大量虐殺を主導したのではないか?

というシナリオだった。

そしてそれは、カエデはおろか、ブレイク伯でさえも黙っているところに

ウルスは恐怖を感じた。

沈黙は肯定を意味する、最悪なシナリオの肯定に他ならなかったからである。

父親の関与は薄いとは言え、今のメイザー公爵家は現王の父、

ウルスのおじいさんに当たるクルスティン2世の次男が、

公爵家を継いだ事より始まる。

つまりは、親戚なのだ。

次男を可愛がっていたクルスティン2世は、次男に王位を継がせない代わりに

貴族の権威を大幅に強化した。

王になれなくても、次男が苦労しないようにという配慮であったが、

質素を第一とするスノートール王国貴族の有様が変化するキッカケになった。

そうして、メイザー公爵家は王家をしのぐほどの

力を蓄え、今や貴族社会で影の王と言われるまでの勢力になっていたのである。


後世スノートール王国史を著した歴史家ホーリーは

「スノートール王国が滅亡へと進む要因として、クルスティン2世の

メイザー公爵優遇政策が占める割合は大きい。

後を継いだカルス王は、メイザー公爵家の台頭を阻止すべく

いくつかの手を打ったが、それが全て失政に結びついた。

カルス王は無能ではなかったが、先代のツケはそれほどまでに

大きかったのである。」

と述べている。

カルス王の弟でもあるルット・メイザーは平凡な男で

多くの人間に好かれ、民衆にも人気があったが、いい人過ぎて、

詐欺に騙されることもあった。

それが逆に、メイザー公爵家を優遇する政策の後押しとなったのである。

誤算だったのは、彼の息子が王国史に名を残すほど有能な政治家だった事による。

王弟であった父の後を継いだ現メイザー公爵家当主であるルイは

経済力を強化し、貴族院を手中に収め

王国議会を意のままに操った。

彼が王になっていれば、王国は繁栄しただろうというのは、

歴史学者共通の認識であるが、運命はそう導かなかったのである。

ウルスの父であるカルス王が、息子の教育係に

軍の有力者であるブレイク伯を選んだのも、

ウルスの後ろ盾に軍を付けたかった王の思惑であるという見方が一般的であった。

それほどの力をメイザー公爵家は持っていたのである。

本日は、もう1話投稿~( ゜д゜)ノ

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