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春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~それぞれの立ち位置~

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第0部 6章 2節 51話 ~最終話~

ウルスの決断は一種の賭けである。

彼は郵便局横のシェルターに向かっていたが、今も空きがあるとは限らない。

空きがあったとしても、もう扉は閉じられているかもしれない。

そこに向かうというのは、冷静に考えればギャンブルでしかなかった。

しかし、ウルスはもう一度会いたかったのである。

身を挺して自分を守ってくれた彼と。

ただそれだけだった。

もしシェルターが空いていたのならば、それはラッキーである。

彼の目標は、もう一度彼に会い、しっかりとさよならをする事だった。


「はぁはぁはぁ。」


息切れするほど全力で走り続け、彼は郵便局前に到着する。


「ウルス!」


少年の名を呼んだのは、ギャブだった。


「良かった。間に合わないかと思ってた。」


彼はウルスの顔を見るなり、大きく手を振る。

ウルスはシェルター前にたどり着くと、前かがみで息を整える。


「はぁはぁ。待っててくれたんだ。

ありがとう。」


その声にギャブはウルスの頭をはたいた。


「急にどっか行きやがって、ハルビンさんに待ってもらうように頼むの

大変だったんだぜ。ほら、行くぜ!」


王子の頭を気安くはたくのである。このギャブも流石リュカの仲間だと

ウルスは思った。


「うん。待って。お別れしてくる。」


ウルスの言葉にギャブも真顔になる。

気持ちが伝わったのだ。

ウルスは、路上に倒れたままのリュカの側まで歩く。

周りは今も血の池が広がっているように赤い。


「リュカ。行って来るよ。」


そういうと黄金の髪をなびかせる。

子どもながらに切なそうな瞳は、少年から無邪気さを取り除いた。

これから旅行に行くのではない、ただシェルターに避難するだけの少年であったが、

彼は「行く」と称した。

そしてその表現は、ウルスにとっては正しい。

彼はこれから向かうのだ。

王という道へ。

その覚悟を伝えに戻ったのだ。

そして少年は大きく頷くと、ギャブの元へと戻る。

ウルスとリュカの付き合いは長くない。

別れの時間も短時間ではあったが、それは2人の距離を物語るものではなかった。

リュカはどうか知らないが、ウルスにとって彼はヒーローだった。

ヒーローへの憧憬は、時間の長さで決まるものではなかった。


晴れ晴れとした表情で、シェルターの扉を潜る。

中はすべり台のようになっており、一気に地下深くへと沈む。

ウルスの後にはギャブも続き、二人は50Mほど滑り降りた。

着いた先で見たものは、ウルスの想像を超えていた。


「シェルターって・・・。」


眼前に見えるのは、ポッド型の宇宙船だった。

ウルスは知らなかったが、このような岩石をくり抜いた中惑星のシェルターは

実のところ宇宙船である。

惑星内で何かが起きたとき、そのまま宇宙に出れるようになっていた。

緊急脱出用の宇宙船だったのである。


「殿下!ご無事で!」


宇宙船の前で、ハルビンがウルスに声をかける。


「発射しますぞ。早く中へ。」


彼らはグランベリー海賊団の船が轟沈したことを知らない。

宇宙に出たとしても、彼らに襲われる危険性があったので、

早く出港し、この場から立ち去ろうというのである。

ウルスは急ぐ必要がないことは知っていたが、黙って彼の指示に従う。

宇宙船の中は無数のベッドが並んでおり、酸素供給機や栄養補給用の点滴が

用意されていた。このベッドで救助が来るまで待つという必要最低限のものしか

ここにはなかった。


「これが、シェルター?」


ウルスの問いにギャブは頷く。

宇宙旅行に慣れたウルスからしてみれば、娯楽のない船であったが、

マラッサ生まれのマラッサ育ちであるギャブからすると自慢の代物らしい。


「さ、寝た寝た。出港するぜ。」


自分が運転するわけでもないのに、ギャブはウルスをエスコートする。

王子は、言われるがままにベッドに横になり、自分の身体を固定した。

ギャブもウルスの横のベッドに倒れ掛かる。


「ここはなぁ天国だぜ?栄養満点の点滴に、寝てるだけでいいってもんだ。

疲れた大人とか、一週間ぐらいシェルター旅行に出る奴もいるらしいぜ?

リュカの夢が宇宙船を1隻買うことだったからなぁ。

こういう船がいいって俺は言ってたんだ。」


浮かれたようにギャブが言う。

彼も幼馴染のサッキや仲間のリュカを失い、悲しいはずであったが、

それをウルスには見せなかった。

彼がそれを狙ったのかどうかは知らないが、ウルスは救われた気分になる。


「そしたらリュカの奴、なんて言ったと思う?

寝てるだけじゃ宇宙旅行の気分を味わえないだろ?だってよ。

考え方が、凡人なんだよ。あいつ。それにさ・・・」


まくし立てるギャブに、ウルスは小さく頷きながら時折微笑みを浮かべつつ、

身体中の力が抜けていくのがわかる。

今日は色んな事がありすぎた。

出会いもあったし、別れもあった。

知らない世界を沢山見てきた。

今日は色んな事がありすぎた。

そして彼の記憶はここまでだった。

一気に疲れがきたのか、安心したのか、緊張感が切れたのか。

少年は、めまぐるしく変動した一日を夢に見ながら、

深い眠りにつくのであった。


外伝なんで、サクッと終わりですw


本編執筆中。近々公開予定です

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