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春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~それぞれの立ち位置~

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第0部 6章 2節 48話

「やりやがった・・・。」

轟沈し、沈みながら黒煙が立ちこめる海面を見ながら

ルーパが言った。

彼の想像以上の戦果である。

ガルパン砲の発射を止めるどころか、

旗艦「ノーライフデス」を轟沈させた。

しかも、ブリッジは跡形もなく吹っ飛び、

恐らくキャプテン・グランベリー諸共消し飛ばしたのである。

グランベリー海賊団にケンカを売った以上、彼らは

今後グランベリーと敵対する可能性が高かった。

海賊同士の抗争に発展する可能性が高かった。

だが、ここでグランベリーが死んだとなれば、

短期間で大きく成長したグランベリー海賊団は

跡目争い、内部抗争へと向かっていくであろう。

必然、彼らピュッセル海賊団への攻撃は弱まる。

弱まるどころか、協力を望んでくる勢力もあるだろう。

ルーパは「やりやがった」と言う台詞には、

事を成し遂げた男への感嘆の意味も含まれていた。

だが、そう考えているのはルーパだけだった。

ウルスとカエデは単純に行方の消えた男を捜す。


「ブレイク伯ー!」


ウルスの声が真っ黒な海面に響いた。

海面には船から脱出したグランベリーの船員らが、

ウルスらに助けを求めていたが、それを助ける道理は彼らにはない。

物理的にもエアバイクの2台では助けられようもなかった。

だから助けたいと思う一人だけを探していたのだが、

光の無い海面での捜索は難航を極める。

いや、救助されるべき相手に意識があればそれはそう難しい事ではなかった。

海面から手を振ってくれれば、見つけることは可能だった。

しかし、ウルスらの目に探し人は写らない。

カエデとルーパは既に絶望を覚悟していた。


一人、諦めずに彼の名を呼ぶウルスの声だけが無情に暗闇の海に響く。

ルーパは周囲を確認した。

ガルパン砲は威力を大分落としていたが、発射された。

ただし、方向は船の前方にではなく、右側から、右後方に向けてである。

最終的には真後ろのブリッジを直撃するまで180度回転しながら、

その高エネルギーの粒子を放射した。

それは、マラッサの街を覆う外壁に大きな傷を付けていた。

満足な状態での発射ではないはずであったが、その威力は甚大で

壁を抉り取るように大きな跡を残していた。

そして、ブリッジを直撃した先の外壁には大きな穴を開けている。

それを見たルーパは違和感を感じた。


「お嬢!?」


ルーパは信じられないという感じでカエデを呼んだ。


「どうした?」


カエデの問いにルーパは、ガルパン砲の最終直撃地点を指さした。

そこには、大きな穴が開いている。

穴の先は真っ暗な空間であったが、その先に小さな明かりの点がいくつか見えた。


「あれは・・・まさか・・・。」


それが何かわかったカエデは絶句する。

それは、星。だった。

夜空に浮かぶ星だった。

岩石をくり抜いた中に作られた街、マラッサで天然の星を見る事は出来ない。

それが見えるということはどういう事なのか?

街の外壁から宇宙まで穴が開いたという事だった。

話には聞いていたが、改めてガルパン砲の威力に2人は戦慄する。

そして、カエデらの位置からではわからなかったが、

宇宙にまで穴が開いているということは、

重大な危機を物語っている。


「空気が漏れている。

酸素がなくなるとか、そういう次元じゃない。」


カエデが呟いた。

恐らく穴の周囲では、気圧差によって大量の空気が穴に吸い込まれていっているであろう。

カエデたちはまだ気付かないが、空気の密度がどんどん減っているはずであった。


「潮時だ。お嬢、ウル。」


ルーパはウルスを見る。

ウルスも状況が飲み込めたらしく、絶望の顔をしていた。


「そんな、伯がまだっ!?」


ウルスはもう一度辺りを見渡す。

ルーパはエアバイクのハンドルを切り、方向を変えた。

アクセルを吹かす。


「伯が・・・まだ・・・。」


ウルスの力ない声はエンジン音にかき消された。


エアバイクは、Aゲートを目指した。

ウルスはルーパの背に顔を埋めるようにうな垂れている。


「ぼ・・・僕が殺したんだ・・・。」


その声は、背中を通してルーパにも聴こえてくる。


「僕が指示をしなければ、伯は・・・。

でも、仇は討てた。あいつらは許されない事をした。

リュカの仇だったんだ。

伯は僕の代わりに仇を討ってくれたんだ。

でも、でも・・・。」


その声を聞きながらルーパは黙っていた。

12時間前は、気楽に会話していた仲であったが、

今の2人にはそのような気配はない。

ただ少年の呟きが続くだけだった。


「ゲイリ・・・悲しむかな。

お父さんが亡くなったって知ったら、悲しむかな。

セリアは口を聞いてくれなさそうだ。」


幼馴染で、ブレイク伯の次男である友人の名前と、妹の名前を出した。

実のところ、養育係として長年ブレイク伯爵家で育ったウルスであったが、

ブレイク夫妻の事を父親や母親のように感じた事は

ウルスにはなかった。

理由としては、実の息子であるゲイリが居たからなのが大きいであろう。

ウルスは彼に遠慮し、ブレイク夫妻に甘える事はなかったのである。

だが、妹のセリアはブレイク夫妻を本当に両親のように接していたし、

ゲイリをウルスと同じく兄と思っている節がある。

従って、まず考えるのは二人の事であったし、

自分自身については、一定の距離間を持って考えていた。

それを他人が見れば冷たく思うかもしれない。

現にウルスの独り言を聞いていたルーパは

先ほどの変容の事もあり若干ウルスのことを理解しがたくなってきていた。

だからであろうか。

彼は公園に戻ると、一旦エアバイクを中央広場に止めた。


「なぁ、ウル。

どうするんだ?」


エンジンを止め、静かにウルスに問う。

いきなり問われたウルスは、何を聞かれているのか

一瞬戸惑った。


「こっちには来ないんだろ?」


突き放した言い方だった。

だが、ウルスの先ほどの意思を尊重しているとも言える。


「あ・・・。」


ルーパの問いの意味を理解する。

先ほどは、ルーパたちと決別する意思があった事を思い出す。

だが、状況は変わっていた。

側にブレイクがいない。という不安がウルスを襲う。

彼は別にブレイク伯を頼っていたわけではなかったが、

彼がいるからこその決断だったのは確かだった。

彼が居ないとなると、ウルスは一人でこのマラッサの街から

脱出することになる。

軍に救出されても、身柄を確保されるだけで、

そのまま保護され、何も出来ないであろう。

ブレイク伯が居れば、彼をツテに何か動くことができたのである。

マラッサの街の住民の待遇にも意見を言う事ができたであろう。

だが、彼が居ないのでは、ウルスには何も出来る事はない。


彼は王宮では、無力な少年なのだ。

それがわかった。


「あ・・・あの・・・。」


とそこまで口にして、ウルスは止まった。

いいのか?と自問する。

今まで彼は、時代の流れに添って生きてきた。

今またブレイク伯を失った事で、自分の決意を翻意する事は、

今までと同じく、ただ流れに添って生きているだけなのではないか?と思った。

そして、ウルスは中央広場の脇に並べられた死体に視線を移す。

そこには、この広場で命を落とした人々の死体が並べられていた。

そこには見知った顔がある。


「サッキ。」


グランベリーとの対峙で命を失ったサッキの姿があった。

そして、彼はリュカの事を思い出す。

リュカならどうしていたであろうか?

不毛な自問である。

何故なら、リュカは王族でもなければ、王の息子でもない。

だから彼は自由だ。

自由に、自分の感じるままに決断するはずだ。

ウルスとは違う。

だけど・・・。

うん。と一つ頷くと、ウルスはルーパの顔を見た。

まっすぐな瞳に、ルーパはウルスの決意を悟る。


「ありがとうございました。」


ウルスはそう言うと片手を差し出した。

ルーパは口元を少し吊り上げる。


「いっぱしの顔になってよ。」


2人は握手を交わす。

言葉は必要なかった。


「おっと、お嬢だ。

お別れ言っときな。」


ルーパの言葉に、ウルスは遅れて広場に向かってくるカエデを見つける。

彼女のエアバイクが広場に着陸した時、

ルーパは逆にエンジンに手をかけ、エアバイクを発進させた。


「ちょっと!ルーパっ!」


慌ててカエデが叫ぶが、彼はそれを無視して上空に飛んだ。

残されたカエデがウルスを見る。

2人の距離は5M。

近いようで遠い距離が、2人を隔てていた。

次は4/21(水)

更新予定です( ゜д゜)ノ

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