表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~それぞれの立ち位置~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/51

第0部 6章 1節 46話

マラッサ上空を飛行するブレイクは、エアバイクの上から

双眼鏡を覗き込んだ。

海に浮かぶ旗艦「ノーライフデス」の上空には

まだ数台のエアバイクが警戒のため周回していたが、

カエデの言うように、全体的には撤収しているように見える。

だが、ブレイクは旗艦「ノーライフデス」にこそ違和感を感じた。

船の船首に巨大な砲塔ようなものが出現したからである。

ゆっくりと船内のハッチからその姿を現そうとする砲塔に、

ブレイクは危機感を感じる。

それが砲塔だからなのではない。

見覚えがあるからだった。

そしてそれが何か確信したブレイクは戦慄する。

慌ててハンドルを切ると中央公園に戻った。

カエデとウルスの間に着陸したブレイクはヘルメットを取ると叫ぶ。


「カエデ殿!直ぐに船を出港させるんだっ!

やつら、港ごと船を吹き飛ばすつもりだ!」


ブレイクの言葉に回りはキョトンとした表情だった。

それは至って普通の仕草であろう。

ここから船のあるAゲートまではかなりの距離がある。

Aゲートはピュッセル海賊団で押さえてあったし、

今更グランベリーに何が出来るのか?と考えるのが普通である。

しかし、物事を知らないからこそ、動ける人物がいた。

ウルスである。


「ブレイク伯。どう言う事だ?

何を見た?」


ウルスは物事を知らない。

だから何が起こり得て、何が起こり得ないかを知らない。

知らないからこそ、ブレイクの発言を信じることが出来たのである。

ブレイクは深呼吸をすると、王子を見た。


「殿下・・・。

スノートール王国には対海賊用の決戦兵器と呼ばれるものがあります。

それはガルパン砲と呼ばれ、射程距離は短いですが、

要塞化した海賊の拠点を殲滅するほどの火力を要した兵器です。

これは国家機密の兵器であり、王国にも3門しかありません。

一つは国王親衛隊、一つは軍、一つはメイザー公爵軍・・・。」


ブレイクの言葉にウルスの眉が寄った。

一見関係ない台詞のようであるが、ここでその兵器の名前が出るという事の理由を

察したからである。


「まさか、その兵器を!?」


ウルスの問いにブレイクが頷く。

カエデたちもその会話を聞いていたが、理解するのに時間がかかる。


「ガルパン砲をここから撃てば、ノーデル星の外壁にまで大きな穴を空けるでしょう。

そしてその照準は、Aゲート。ピュッセル海賊団の船が入港している港へ向けられている。

このままでは港ごと、ピュッセル海賊団は消し飛ぶぞ!」


ブレイクの説明に流石のカエデたちも事の重大さを理解した。

にわかに信じがたい話ではある。

中惑星とは言え、外壁に穴を空けるほどの破壊力の兵器の存在など、

情報通のカエデたちでも知らない情報であった。

だが、一つ懸念点はあった。

今の話を聞いて誰もが感じる疑問であろう。それを代弁したのはルーパだった。


「そんなものをなんでグランベリーの野郎が持ってる!?」


それは辛辣だった。

何故なら、国家機密の兵器を海賊が所持しているという事は、

王国と海賊が手を組んでいるという事実に他ならない。

いや、薄々カエデたちも感じていた事ではあった。

次々と海賊が軍に討伐される時代の中で、

何故グランベリーが短期間に急速に勢力を拡大したのか?

その答えが今、明かされそうになる。


「殿下。先ほども申しました通り、王国が所有するガルパン砲は3門。

それぞれに識別コードがあります。

それを確かめれば、出所がわかります。」


「わかるのか!?」


「近くまで行けば。」


ブレイクは言った。

彼は可能と言った。だが、敵の旗艦の近くまで行くと言う事が

どれほど危険なのか、それは不可能に感じられる。

ウルスは唇を噛んだ。

ブレイク伯は、ウルスに何かを決断させようとしている。

12歳の少年に、決断できそうにない事を決断させようとしている。

そうウルスは感じたのである。

しかしウルスは悩んだ。あまりにも酷な決断だったからである。

そんな2人に対してカエデは狼狽していた。


「出港させることは出来る。でも、今はまだ退避中で

船外にいるメンバーも沢山いる。

港へ続く通路を先行している奴らはどうなる?

彼らを見捨てろと言うのか?

ルーパ、どうしたらいい?どうすればいい?」


うろたえるカエデをルーパはさして驚かなかった。

彼女はいつも余裕のある素振りをしているが、

実際は、普通の少女である。

いくつもの修羅場を潜ってきた一流の海賊ではない。

ルーパはそれを知っていた。

だから、うろたえるカエデに驚きもしなかったし、失望もしなかった。

彼はアドバイスを彼女に与えるだけである。


「この場合は、見捨てるしかありませんな。

船が墜ちればどの道、皆助かりません。」


正論であった。

船が墜ちれば、カエデたちは惑星ノーデルから脱出する術を失う。

カエデたちはシェルターに避難し、命は助かるかもしれないが、

軍に救助されれば、その身は拘束されるであろう。

ましてや王太子を誘拐した身である。

軍に捕まる事がどう言う事かは、カエデにも理解できた。


「しかしっ!だけど!それは・・・。」


頭のいいカエデである。ルーパの言う事は理解できる。

だが、その決断をするには、彼女はまだ甘すぎた。

彼女は純粋すぎた。

2人のやり取りを聞いていたウルスは、ならば!と思う。

カエデ、彼女に決断できないのであれば、他の者が決断しなくてはならない。

そしてその業を背負うのは、背負う責任がある者だ。


「ブレイク伯!」


「ハッ!」


恭しくブレイクが頭を下げる。


「ガルパン砲とやらの出所を調べてくれ。

可能ならば、発射を阻止して欲しい。」


それはブレイクにとって、死刑宣告とも取れる命令だった。

この場で、海賊船に近付き、識別番号を確認し、

更にその発射を阻止する。

少なくとも命がけの任務である。

それをウルスは「やれ!」と命令した。

その意味を、ウルスもブレイクも理解している。


「ハッ!ガルパン砲が流出したとすれば、

それは王国の恥。あってはならないことです。

命にかけて、阻止します。」


ブレイクはエアバイクのアクセルを回す。


「ちょっと待ってくれ。

阻止するって一体どうするんだ!?

ブレイク伯、待ってくれ!

ウルス!止めてくれ!」


カエデの悲痛な叫びが公園に響く。

だが、エアバイクのエンジン音は無情にもその声を遮った。

もちろん、カエデの願いはここにいる皆に届いていた。

ウルスにも、ルーパにも、ブレイクにも。

だが、3人が3人ともその言を無視する。

ウルスは、リュカの敵を討ちたかったし、

ルーパは仲間を救いたかった。

ブレイクは海賊となあなあな関係になっていた自分を恥じていた。

三者三様の思惑が交錯し、ブレイクの乗るエアバイクは上空に駆け上がる。


「ブレイク伯ーー!」


今度こそ、カエデの叫びは爆音に消されるのであった。

次は4/17(土)

更新予定です( ゜д゜)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ