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春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~無色王子~

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第0部 5章 2節 39話

ウルスはシェルターに入るため、並んでいる人たちの

列に入った。

救出されるという安堵感は子ども達にも伝わったようで

笑顔が見られるようになる。

凄惨な現場を経験してはいたが、この惨劇を思い出すのは

数日経ってからであろう。

今はむしろ極度の緊張感から逃れるため、

明るく振舞う事に逃げているようである。

ウルスはリュカの隣に並ぶと、一大決心をリュカにぶつける。


「リュカ、さっき僕が手伝って欲しい事があるって

言った事なんだけど・・・。」


その言葉に、リュカは眉を吊り上げて反応する。


「ああ、そんな事言ってたな。なんだ?」


リュカはいつものように深く考えずに言葉を返したが、

言った後でそれが早まった事に気付く。

手伝うと言っても、相手は王国の王子である。

リュカに手伝える事などあるはずがなかった。


「リュカ、ここを脱出したら、王都に来ないか?

一緒に学校に通おう。」


ウルスは無邪気な顔で大胆な事を言ってのけた。


「は?王都の学校って!!!?

俺、学校なんて通ってたこと、もう何年もないぜ?」


「そこは、家庭教師をつけよう。

父は僕が説得する。」


「いやいやいや、待てって。」


リュカは珍しくたじろいだ。

しかしウルスは引き下がりそうもない。

こんなに押しが強い奴だとはリュカも思っていなかった。


「なんで俺が王都に行く必要があるんだよ?

それにおれはこいつらの面倒を見なきゃいけねぇし!」


リュカは周りを見た。確かにリュカの仲間達は彼を慕っている。

しかし、ウルスはそこも折り込み済である。


「だからさ。君が王都に来て口利きすれば、

彼らの待遇も良くなる!

側に居て何が出来るって言うのさ。

王都に来て、父や貴族に援助を頼むんだ。

絶対そのほうがいいって!」


ウルスは言い切る。

そこには、王子であるウルスも彼らのために動くという決意もあった。

ウルスは父である王や、養育係であるブレイク伯を説得する自信があった。

ウルスが王道へと進むために、リュカが必要であると

力説するつもりなのだ。

ウルスは自分自身が王宮以外の世界を知らないということを今回の件で

痛感していた。知らない世界が沢山あり、もっと視野を広げる必要がある事を

実感していた。そのためには、リュカが隣にいてくれる事が

ウルスにとってとても重要な事だと彼は確信したのだ。

だからリュカの存在が必要なのである。


「いや、待てって。急に言われてもよ。」


リュカはウルスの押しにタジタジであった。

側で2人の会話を聞いていたギャブが、リュカのうろたえる姿を

ものめずらしそうに見ている。


「決めちま・・・。」


それは突然やってきた。

軍に救出されるという安堵感から、警戒心が緩んでいたのかもしれない。

ウルスは浮かれていたし、リュカはうろたえていた。

周りの子ども達は、王子が側にいる事で油断していたし、

避難所の列に並ぶ大人たちは、そもそも警戒していなかったし、

自警団の面々は、王子の身に粗相がないかと、子ども達に注視していた。

それでも最初に気付いたのはリュカで、

それが間に合わないと判断したのもリュカだった。

リュカは一瞬空を見上げると、ウルスの身体に覆いかぶさるように動いた。

その動きを見て、ブッキが空を見上げる。

それは突然やってきた。

少なくとも、ウルスには何が起きたのか、まったく理解できていなかった。

大人たちも子どもたちも、多くが気付いていなかった。

だが今は、決して油断できる状況ではなかったのである。

グランベリー海賊団の旗艦「ノーライフデス」から放たれた

無差別のミサイルの一発が、ウルスらの並ぶ列に着弾し、

光が、爆風が、轟音が、彼らを包みこんだ事を理解できたものは、

ほとんど居なかったのである。


爆発は、ウルスらの場所から20Mほど離れた場所で起こった。

眩しいほどの光が視野を奪い、強烈な爆風が辺りを吹き飛ばした。

爆発の中心地には列にならぶ大人たちがいたが、

彼は何が起きたのかわからないまま、光に包まれたであろう。

ブッキは着弾に気付き、瞬時に身を屈めたが、

仲間達の多くは、無防備にその爆風に肌をさらした。

リュカは力任せにウルスの身体を引っ張り、地面に倒すと

そのまま上に覆いかぶさった。

ウルスは何事かと、リュカに視線を泳がせた瞬間、

リュカの背後に光が走り、凄まじい爆音と空気が膨張して走る音が聞こえた。


「え?」


と思ったときには、隣に立っていた少年の首が吹っ飛んでいく。

ドガガガガガッガガガガガーーーン!!!!

という音が、耳に響いた。

遅れて土煙が周囲を包む。

地面に倒れこんだウルスは、腰を強打したがそれは大した問題じゃなかった。

爆風が落ち着き、辺りはグレーで染まる。

大量に撃たれていた焼夷弾ではなかったのが幸いし、

火の手は上がっていない。

焼夷弾であれば、一面火の海でウルスも炎に巻かれていただろう。

ウルスはキーンとした耳鳴りの中、自分の上に覆いかぶさるリュカを見た。


「リュカ!リュカ!」


自分の声も聞こえない。だが、ウルスはリュカの名前を呼んだ。

ピクっ!とリュカの腕が動く。


「リュカ!大丈夫?リュカ。」


リュカが生きていることを確認したウルスは、更にリュカの名前を呼んだ。

ようやく周りの声もウルスの耳に入ってくる。


「助けてくれ~。」


「ああああ・・・。」


何人かは生きている。だけど。

ウルスはリュカの背中に手を回すと、彼を横にどけようとした。

が、背中に回した手に、生暖かい感触が伝わる。

ウルスは反射的に自分の手を見た。

真っ赤な鮮血に染まった掌を見て、血の気が引いていく。


「リュカ!リュカー!」


ウルスはリュカを横にずらし、上半身だけ起こす。

そして何が起きているのかを把握した。

リュカの背中は爆風で火傷状態の上、無数の破片が刺さっており、

真っ赤に染まっていた。


「リュカー!!!」


少年は真っ赤に染まった掌で、リュカの顔に触れる。

ぬるっとした感触が、ウルスの胸に突き刺さる。

ウルスはリュカの全身を見る事が出来なかった。

怖かったのである。

彼の身に何が起きたのか?確認することが怖かったからである。

少年はリュカの顔だけを見て、必死に名前を呼び続けた。

ただ、名を呼び続けることしか出来なかった。

それに意味があるかどうかもわからずに。

ゲリラ更新( ゜д゜)ノ

次の40話は「おまけ」なので

同時更新!


次は4/3(土)41話更新です

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