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春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~無色王子~

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第0部 5章 1節 37話

シェルター前の路上では、段々と人々が加熱していった。

それまでダンマリを決め込んでいた大人達も怒鳴りだしている。

収集がつかなくなる中、遂にマーガイアが一線を超える。


「ジジイは邪魔だって言ってんだろうが!」


バシッという音と共に、老人の頬を叩いたのだ。

老人が道に倒れこんだ瞬間、

一人の男性がマーガイアの胸元を掴みにかかると、

周囲の男たちが全員身構えた。


「やろってのか?」


マーガイアが捕まれながら不敵に笑う。

乱闘になればこっちのものだとでも言わんばかりであった。

実際、彼らは元々暴力でこの場を制し、

実力行為でシャルターに乗り込む算段だったのである。

人数は15人とはいえ、13人は19歳から35歳ぐらいまでの

腕っ節の強いメンバーが揃っており、残りの2人の女性も、

守られるようなお嬢さんではなく、気の強そうな面々である。

老人や子ども、女性を含んだリュカらは不利だった。

自警団の人間はいたが、リュカ側であるとは言いがたい。

同じ市民同士の乱闘である。止めに入るのが誠意一杯だろう。

ウルスはこの状況を完全に読みきった。

リュカらが負け、この場はマーガイアたちに制圧されるだろう。

そしてお互いしこりを残す結果になることまで考えたのである。

だからであろうか。

ウルスは再び前面に出る。


「待ってください!」


凛とした力強い声だった。

ウルスの叫びにリュカは既視感を抱いた。

ついさっきも同じような光景を目にした気がする。


「どちらも落ち着いてください。

シェルターを奪い合いあう必要なんてないんです。

2週間分の酸素があれば、十分です。助かります。」


ウルスの声は、まだ変声期を迎えていない子どもらしく

甲高く、周囲に響いた。

民衆の視線がウルスに集まる。

まず口を開いたのはマーガイアだった。


「あん?お前誰だよ?なんで助かるって言えるんだよ?」


「ぐ・・・軍の艦隊がこの近くまで来ています。

軍が助けてくれます。2週間も必要ありません。

数日で救助が来ます。」


ウルスは前もって考えていた台詞を言った。

もちろん、この後に言うことになるだろう台詞も用意してある。


「軍が?なんでお前がそんな事知ってるんだよ?誰だ?おめぇ・・・。」


ウルスは大きく息を吐いた。


「僕は・・・。」


ウルスは先ほどのグランベリーとのやり取りで一つだけ判った事がある。

それは自分自身に何の力がなくとも、使える武器を持っているという事だった。

それは、剣よりも銃よりも、火力の優れた兵器よりも、

対人戦においては絶大な破壊力を持っていた。


「僕は、スノートール王国の王カルスの息子、ウルスです!

この星にはお忍びで視察に来ていました。

僕を迎えに、宇宙艦隊が近くまで来ています。

皆さんは助かりますっ!」


ウルスの言葉に、周囲が静寂に包まれた。

口をポカンと開けてウルスを見ている者もいる。

この場にいる全員が硬直していた。

ウルスの話を理解することが出来なかったのである。

そうした空気の中、一人の老人がウルスの目の前に歩み出てくる。


「おお・・・。」


ウルスの顔を見るなり、信じられないという表情で、彼は静寂の中

小さな声を発した。


「おお・・・まさしくウルス王子じゃ。

ウルス王子じゃぁ。」


老人は急に地面に膝をつけると、上半身をまるで折るかのように、

地面にひれ伏した。

ウルスは国の王子である。

メディアに顔を出さないという事はなく、知っているものが居ても不思議ではない。

老人に続き、何人もの市民が地面にひれ伏した。

リュカもマーガイアも、何が起こったのかわからず呆然としていたが、

大人達が次々に地面にひれ伏すのを見て、目の前の少年が

本物の王子であることを悟る。


スノートール王国は民主王政であり、王族の権威が強いとは言えない。

だが、それは王都や大きい都市での話であり、

ノーデル星のような地方惑星では滅多にお目にかかることができない存在である。

言わば、雲の上の存在だと言えた。

特にノーデル星は国に見捨てられたような辺境惑星であったので、

王子が目の前にいるなどという事は奇跡にも近い現象である。

王都では「無色王子」と蔑まれているウルスだったが、

それでも彼は王族だった。

この地では崇められる存在だったのである。

ウルスはそれを利用した。

グランベリー相手に交渉ができるほどの価値が、王子という肩書きにはあったのである。

ウルスはそれを理解し、最大限に利用したのだった。

また、グランベリーとの対峙で気持ちが昂ぶっていたのもある。

なんにせよ、ウルスは王子をいう肩書きを説得の道具として使ったのだった。


凛として立つウルスにマーガイアもビビリだしていた。

彼はそもそも小心者であり、権力に弱い。


「本当に、軍は来るんだろうな?」


声がかすかに震えている。仲間の手前強がってはいたが、

ここから逃げ出したいというオーラがウルスにも感じ取れた。

だからこそ、ウルスは自分の作戦が成功したと手応えを得る。


「ええ、軍が自分を見捨てるはずがありません。

必ず救助隊は来ます。安心して自分のところのシェルターに帰ってください。」


ウルスの言葉に完全に気圧されたマーガイアは一歩下がる。


「お、おう。皆、行くぞ!」


マーガイアの行動は早かった。言い終わる前には踵を返し、

さっさとこの場を去ろうとする。


「ちょっと、マーくん待ってよぉ!」


マーガイアの取り巻きの女性がまず反応すると、

彼に付いて来た男たちも後に続いた。

彼らは全員、去っていく。

残されたのは、呆然と立ちすくむリュカたちと、

地面にひれ伏す大人たちだけとなった。


「さぁ!皆さんもシェルターに避難しましょう。

さ、立って!」


目の前の老人に手を差し伸べるとウルスは言った。

ちょっと恥ずかしくて、リュカとは目が合わせられそうにない。

だが、既にグランベリーと対面した後のウルスにとって、

市民相手にタンカを切るぐらい些細な事だった。

なんてことない事だった。

気がかりがあるとすれば、ここに妹のセリアや幼馴染のゲイリが居なかった。

と言う事ぐらいである。

大人相手にタンカを切ったなど彼らが知ったら、

冷やかされていただろう。

彼らしくないと笑われていただろう。

2人がいなくて良かった。と苦笑するウルスだった。


4/1 ゲリラ更新!!!( ゜д゜)ノ

本日、3話更新しまーすw

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