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春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~無色王子~

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第0部 5章 1節 36話

ウルスとリュカは全力で走っていた。

後ろを振り返る余裕もなく、ただひたすら走っていた。

公園を抜け、最初の路地を右に曲がった辺りでようやく一息つくと、

少し走るスピードを落とす。

最初に口を開いたのはリュカである。


「バカヤロウ!無茶しやがって!!!」


その怒声はウルスに向けられたものであったが、

その声で緊張感の取れたウルスはリュカが想像もしていないような

行動に出た。


「あはははははは!ごめん、あはははははは!」


笑いだしたのである。

そんなウルスをポカンとリュカは見る。

一瞬気でも狂ったのかと錯覚した。


「ごめん、ごめん。あいつの間の抜けた顔を思い出したらさ。」


飛来してきたエアバイクからの銃撃を受けた瞬間のグランベリーの表情のことを

言っているのだったが、そんなに楽しい話ではない。

そもそもウルスが笑ったのは、そんな理由からではなかった。

それは、初めて自分から選択し、行動した結果で、

リュカを救うことができたという達成感による。

彼は今まで人の顔色ばっかり伺ってきた。

人の言いなりに行動してきた。

それを打破した気分だったのである。

しかし、20秒ほどの笑いの後、ふと、神妙な顔つきに戻る。


「ごめん。心配かけた。それに、サッキは・・・。」


ありえない方向を向いて公園の地面に倒れたサッキを思い出して、

ウルスは笑いを自重した。


「運が悪かっただけさ。」


リュカが慰める。

そして、ウルスとリュカは自分たちの運が良かっただけなのを自覚する。

あの場面でピュッセル海賊団のエアバイクが来なかったら、

ウルスは連れ去られていただろう。

運が良かったとリュカは思う。

一方のウルスは、運が良かったとは違う感覚も感じていた。

ウルスが中央広場に姿を見せなければ、リュカはすぐさま殺されていただろう。

自分が姿を現し、時間を稼いだことでリュカの運命が変わったのである。

これを言ったらリュカは怒るであろうが、ウルスの行動が

リュカを救ったのである。

それも「自分自身が決断した結果によって」だった。

少年は自らの行いが世界を、歴史を変えることを実感したのであった。

ウルスの小さな身体で、世界を動かすことが出来る事を実感したのだった。

それがわかって、ウルスは笑ったのだ。

自分が歴史を動かす快感に触れたと言っても過言ではない。


「郵便局隣のシェルターはもうすぐだ。」


2人は目的地の近くまで来ると、ふぅとため息をついた。

緊張感がようやく解ける。

曲がり角を曲がると、沢山の人たちの中に、ギャブが見えた。

ギャブは2人を視認すると慌てて駆け寄ってくる。


「遅ぇよ。何かあったのかと心配したじゃねーかっ!」


本気で心配してくれていたのであろう。

息切れするほど全力で駆け寄ってきてくれた。

リュカはウルスに視線を一瞬だけ移すと、コクリと頷き、

ギャブに向き直る。


「すまない。ヘマをした。」


そういうと、瞼を一度だけ深く閉じ、観念したようにギャブを見つめる。


「サッキがやられた。すまない。」


ウルスは知らないことであったが、サッキとギャブは幼馴染であり、

兄弟同然に育った仲である。

リュカがギャブに謝るのは、そういう経緯からであった。


「そっか。3人とも捕まったんじゃないかと心配してたから、

2人が無事ならそれでいいさ。」


ギャブは気丈に言った。


「それはそうと、リュカ、来て欲しいんだ。

西地区のマーガイアと揉めてるんだ。」


「マーガイアが?」


「うん。西地区のシェルターは酸素が2週間しかもたないだろ?

だからこっちのシェルターにいれろって、15人ほど連れてきてる。」


ギャブは郵便局を指さした。

確かに大人達がもめているような気配がある。


「行こう。」


リュカたちは歩き出した。

歩きながらウルスが尋ねる。


「酸素が2週間でもめるってどういうこと?」


「こっちのシャルターは酸素が一ヶ月持つんだよ。

いつ助けが来るかわからないからね。出来るだけ酸素がもつシェルターに

入りたいってのはわかる。だけどこっちのシェルターに

西地区の住人まで受け入れるスペースはないんだ。」


ギャブの説明にウルスは安堵感を覚えた。

ウルスはこの問題の解決策を知っているからである。

酸素が2週間分しかないというのは、今回に限っては

何の心配にもならない。

何故なら、ノーデル星の空域まで軍の艦隊が既に到着しているからである。

救出されるまで酸素があれば良いというのであれば、

2週間は十分過ぎる期間だった。

いざとなればそれを説明するだけで物事は解決する。

とウルスは思ったのである。


3人は郵便局の周りに集まっている人だかりに到着した。

人の固まりを掻き分け、シェルターの入口前まで進む。


「だからぁ。俺らのような若者を優先的にこのシェルターにいれるべきだろうがよ!」


中央でなにやら叫んでいる男がいた。

19歳ぐらいの若者で、一見してガラが悪そうに見える。


「黙れよ!アーガイア!」


リュカが前に出る。叫んでいた彼がアーガイアらしい。


「また、お前かよ。リュカ。

ガキが出しゃばるんじゃねぇ。」


アーガイア自身も周りから見れば十分ガキなのだが、

マラッサの街では、19歳も大人の範疇である。


「ここはセントル地区の住人専用のシェルターだ。

自分たちのシェルターに帰れよ。」


リュカは動じていない。

7歳ほど歳が離れた相手に、対等な口調で応戦しているところを見ると、

なにやら因縁がありそうではあるが、れっきとした大人相手にも

敬語を使わないリュカである。

これが普通なのかも知れない。

リュカの台詞にアーガイアは怯まなかった。


「だからぁ。もうすぐくたばるようなジジババを

あっちのシェルターに入れればいいんだろうが。

酸素が切れる前に寿命でお迎えがきそうな奴を

ここに入れる意味があんのかよっ!」


アーガイアは周りにいた老人を睨んだ。

睨まれた老人はビクッと震える。


「リュカ、お前らもこっちに入ろうぜ。

若者は大事にしなくちゃなぁ。

国の宝だぜ?若者はさぁ。」


アーガイアは自分たちが連れて来た取り巻きを扇動する。

「そうだ!そうだ!」と彼らが叫ぶ。

なるほど、アーガイアが連れて来た15人というのは、

皆それぞれ若い。

一番年上でも30歳ぐらいであろうか。


「待てよ!ここのシェルターの建設費や維持費を払ってきたのは、

セントルの住人たちだろ。彼らが優先で入る権利がある。」


リュカの言葉に、今度は地元の中年が続く。


「そうだ。盗人どもがっ!お前らこそ去れ!」


続けて、この地区の人間たちが騒いだ。

シェルター前は騒然とする。

自警団のメンバーとも思われる人間も数人はいたが、

如何せん数が少なく、この場を収められそうにない。

ウルスはリュカらから離れると、自警団の人間っぽい男に話しかける。


「全員は入れそうにないんですか?」


ウルスの言葉に男は頭をかいた。


「5人分ぐらいなら空きがあるが、15人ともなるとな。」


「そうですか。」


ウルス自身もこの地区の人間ではないのだが、5人分の空きがあるなら、

アーガイアたちが引き下がれば入れるという事である。

リュカたちはそれを見越して、ここを避難場所に選んだのだったが、

アーガイアたちが来たせいで話しがややこしくなっていた。

ウルスは周囲を見渡した。

喧騒は収まりそうもなく、むしろ次第にヒートアップしている。

ウルスは軍が近くに来ているので、アーガイアたちをこちらにいれ、

彼らの言う老人たちを他地区のシェルターに向かわせても

全員が助かることを知っているが、それを知らない住民たちは

必死であった。

自分たちの命がかかっているのである。必死なのは当然であったし、

宇宙に住むという事が如何に危険であるか?という事でもある。

そして宇宙に住む人類にとって、強力なリーダーシップ、

王という存在がどれだけ大切なのかを、ウルスはこの後知る事になる。




次は4/3(土)

更新予定です( ゜д゜)ノ

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