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春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~流されるままに~

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32/51

第0部 4章 2節 32話

宇宙暦980年5月27日午前2時55分


アンドゴル公園にウルスらは到着した。

もちろん正面入口から堂々と中に入ったわけではなく、

暗闇にまぎれて、彼らは侵入した。

リュカの話によると10人近くがここに集まっているらしい。

彼らは通信機のチャット機能で連絡を取り合っている。

一見無謀な行動に思えるが、銃などの武器も用意されているということだった。


「銃を扱えるんですか?」


その話を聞いたウルスの目が点になる。

同じ年頃だというのに、彼らとウルスの間には

どれほどの差があるのだろう。


「銃っても旧式の火薬を使うタイプだけどな。

火力も殺傷力も足りないが、威嚇にはなる。」


リュカが答える。

ウルスは「そういうことではなく」と言いたいところだったが、

口には出さなかった。

いや、考えるのを止めたと言っても良い。

ここは異世界でもなく、外国でもなく、

ウルスが住む国の話だった。

つまり、ただ単にウルスの知っていた世界が狭すぎたのである。

自分が将来治めるべき国がどういう世界であるのか?

ウルスは受け止める必要があった。


ピッ!リュカの通信機が反応する。

リュカは通信機を覗き込むと、ウルスら3人に合図した。

そして草むらの影から前方を指差す。

アンドゴル公園の中央広場。

かなり広い開けた場所に人影が見えた。

中央には、子どもが8人ほど固まっており、周りに大人らしき影は3人。

リュカは通信機に文字を打ち、仲間と連絡を取り合った。

姿の見えない文字だけの世界で、やり取りする彼らを見て、

ウルスは、どれほど相手に信頼があるのだろう。と思った。

口調もわからない、表情もみえない。通信なのに

海賊相手に、仲間の奪還作戦を実行しようとしているのである。

信頼関係がなければ不可能な事だ。

だたし、このウルスの考えは一種の傲慢である。

何故なら、ウルスら貴族階級の人間が、文字だけの通信を行う機会は

ほとんどないと言っていい。

貴族階級であれば誰もが3Dホログラム映像が出る通信機を所有していたし、

逆にリュカらは、そんな高性能な通信機を持っていない。

従って、ウルスの感想というのは技術力が劣る文化への

皮肉でしかなかったのであるが、ウルスは本気で

彼らに感心していたのであった。

そんなものを当てにして奪還作戦を実行する。

リュカらの普通と、ウルスの普通が違うということを

物語っている一端である。


リュカは通信を終えると、3人に近付くように合図し、

小声で今回の作戦を説明する。


「噴水広場の周りを俺ら、グル、サンダース、モックが囲んでいる。

グルとサンダースのグループが発煙弾を打ち込んで

奴らの視界を奪う。

それに便乗して、俺らとモックらのチームで救出作戦を実施する。

ウルス、君には逃げ道の見張りを頼むよ。」


リュカはウルスを見つめた。

先ほども見張りを頼み、一度は拒んだウルスである。

今回も拒むのではないかとの心配であった。


「うん。わかった。大丈夫。ちゃんと見てるよ。」


ウルスは即答する。

彼らとは住む世界が違うのだ。

差別と言われるかもしれないが、それは事実として

しっかりとこの世界にあるのだ。

もしウルスがこの救出作戦に加担したところで、

発煙弾の煙の中で上手く立ち回ることが出来ず、

足を引っ張るであろう。

仲間との連携も上手く行くはずがない。

恐らくであるが、リュカら地元の子は今回のようなことをするのは

初めてではないのであろう。

意地が悪い言い方をすれば、発煙弾で視界を奪いつつ、

窃盗や強盗など、やってきた経験があるのであろう。

それほど、彼らは自分達がやろうとしていることに、

何の疑問も不安も持っていないようであった。

ならば、ウルスの立ち位置は一つである。

「彼らの邪魔にならないこと」

そして知るのだった。

人には向き不向きがあり、出来る事と出来ない事がある事を。


「リュカ。」


「ん?」


ウルスの呼びかけにリュカは優しく反応する。


「いつか・・・大人になったら、僕を手伝って欲しいんだ。」


「ん~?」


リュカにはウルスが何を言っているかわからない。

だが、ウルスの瞳を見て、それが本気なのを感じ取った。


「ああ、いいぜ。俺らはもう仲間だからな。

だがまずは、ここをクリアしてからだ。」


リュカは深くは聞かずにウルスにそう答えた。


「うん。」


ウルスも頷く。

今はその意味を説明する必要はないとウルスも感じていた。

彼が居れば、リュカがいれば全て上手く行くような気がしている。

彼が右手になってくれれば、世界を変えられる気がしていた。

人にはそれぞれ役割がある。

そしてウルスの役割は、王になる事である。

世界を導く責任がある人間になる事である。

その隣にリュカが居てくれる未来。

リュカたちを見ていて、ウルスは自分自身が何者なのかを感じ始めていたのだった。


「あと2分で突入するぞ!」


リュカが時計を見ながら言う。

その言葉にウルスとギャブは頷いたが、サッキは反応しなかった。

逆にリュカに上空を見るように合図する。

サッキの指さした方角から、小型のランチが飛行してくるのが見える。


「奴らの仲間か!?」


ギャブもランチに気付く。


「まずいな。一旦、作戦は中断したほうがいいんじゃないか?」


ギャブの言葉にリュカは通信機を取り出し、仲間に連絡を送る。

ランチはまっすぐアンドゴル公園の中央広場に向かってきては、

集められた子ども達の側に着陸した。

周りの大人達が慌ててランチに駆け寄る。

ハッチが開き、タラップが降りると大柄の髭むくじゃらの男が姿を現した。


「よぅ。おつかれさん。」


男は階段を降りながら、周りの大人達にねぎらいの言葉をかけた。

その姿を見たリュカたちの表情が強張る。


「グランベリー・・・。」


リュカがその男の名前を呼んだ。


「間違いないよ。グランベリーだよ・・・。」


サッキが続く。

そしてウルスはその言葉の意味を理解した。

グランベリー。その名の通り、グランベリー海賊団の棟梁。

グランベリー。そうこの街を業火の炎に包ませた張本人の名前である。

その親玉が、ウルスたちの前に現われたのであった。


( ゜д゜)ノ次は3/24(水)

更新予定です

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