第0部 4章 2節 31話
グランベリー海賊団の旗艦「ノーライフデス」の艦橋に座るボスの
グランベリーは目の前に広がるマラッサの街の様子に満足げだった。
マラッサの街は、グランベリー海賊団の傘下に入ることを拒んでいた街である。
海賊向けに商売をしている街とは言え、マラッサは全ての海賊を
受け入れてきた。一つの勢力下に組み込まれることを
良しとしなかったのである。
自分の勢力下に置きたかったグランベリーとしては、
傘下に入らないマラッサの街が燃える事に何の躊躇もなかった。
片手に持つグラスを目の前に掲げ、中の氷をカランと鳴らす。
「さらば、マラッサ。」
男はグヘヘといやらしい笑みを浮かべながら言った。
余韻に浸るグランベリーに部下が歩み寄って来る。
「ボス!通信が入っています。」
グランベリーは眉をしかめる。
「ん?誰だよ。こんないいときに?」
「仮面の人です。」
「ああん?あー。そうか・・・。」
グランベリーは面倒臭そうに通信機を手に取った。
「おう、俺だ。」
画面に相手が映る。
画面越しの相手は仮面を被っていた。正体がばれないようにだろうが、
グランベリー自身は彼の正体を知っている。
だが、通信が傍受されたり、ハッキングされることを危惧しての
変装だった。
従って、彼の名前は「仮面の人」である。
「ノーデル星を襲撃しているらしいな?
お前に頼んでいたことはそんな事ではないはずだが?」
仮面の男が言う。
グランベリーは顎をポリポリとかきながら、めんどくさそうである。
「王子の確保だろ?わかってるさ。
マラッサの街にいる事までは掴んでるんだ。心配しなさんなよ。」
「マラッサの街にいる?
では何故、マラッサを襲撃している?
私は王子の身柄の確保を依頼したはずだぞ?
死体では困るのだがな。」
男が剣幕でまくし立てた。
「数日前まで、殺そうとしてたじゃねぇか。
死体でもいいじゃねーか?
それとも何か?児童愛好家にでもなったかい?ぐへへ。」
その言葉に仮面の男は反応しない。
「今回は王に恩を売っておいたほうが
今後のためになると判断したまでだ。
貴様にアレを貸し出してまで依頼しているのは伊達ではないんだぞ。」
「へいへい・・・。今、炙り出しの最中なんだ。
任せておけってよ。」
グラスに注がれた液体を口に運びながら、グランベリーは答えた。
正直、彼は王子の生死などには全く興味がない。
彼がこの依頼を受けたのは、むしろ仮面の男の弱みを握るためである。
王子暗殺という重犯罪の片棒を担ぐことで、
仮面の男に、自分と一蓮托生であると思わせることが大事だった。
従って、王子が生きて帰ろうが、死体で運ばれようが関係ない。
むしろ、死体のほうが都合が良かった。
「貴様の行動のせいで、軍がノーデル星に突入すると言っている。
時間的猶予はないと思え。」
「あんたでも抑えられなかったってわけか。大将・・・。」
「減らず口をっ。」
「ま、せいぜい頑張ってみますさぁ。では。」
ブッ!!!グランベリーは通信を一方的に切った。
生きたまま救出・・・めんどくさい話である。
当初からそんな依頼だったら、受けてないがな。とグランベリーは思う。
「どうせ、いつかはやるんだろ?
今でもいいじゃねーか!なぁ・・・?」
グランベリーは隣にいた部下に話しかけた。
「街にいた高貴そうな子どもは、何人か連れて来ています。
ミサイル攻撃でおっ死んでなきゃ、捕まってますよ。」
部下はそう返した。
「死んでたら死んでたで、救出途中で死んじまった事にすればいいんだ。
いや、もう全員殺しちゃって、努力はしましたよ!ってのも手だな。
それが一番手っ取り早い。」
またグヘヘと笑う。
「いい考えです、かしら。
だけども、あいつに貸しをつくれる内は
作っておくほうがいいんじゃないですかい?」
部下の提案を、ボスは鼻毛を抜きながら聞く。
「ま、努力はするか。」
「はい。子どもらはアンドゴル公園に集めてます。
トマソンらが王子の写真を持って、確認に行きやした。
いい報告を待ちましょや。
そこら辺のガキと区別がつかねぇほどの
普通のガキだって噂なんで、見つかるかはわかりませんが。」
部下の言葉にグランベリーは何か閃いたようである。
椅子から立ち上がると、通信機を投げ捨てた。
「いーや、待つのは俺の趣味じゃねぇ。
俺も行くぞっ!自分の目で確かめる。」
部下の返事も聞かず、グランベリーは歩き出した。
彼は直情的な男であり、言い出したら止められないことは
彼の部下なら誰でも知っていた。
部下が反応する前に矢継ぎ早に指示を出す。
「出るぞ!アンドゴル公園だ。5・6人付いてきやがれ!」
グランベリーの大声が艦橋に響いた。
艦橋にいた数人が同時に立ち上がると、ボスの後に続く。
「ぐへへ・・・。無色王子か。
会えたらいいなぁ。なぁ。」
グランベリーは王宮で囁かれるウルスの蔑称を口にした。
キャラが強すぎるこの男にとって、
没個性と揶揄されるウルスに興味が沸いた。
そして、生きてグランベリーと対面するようなことになるのであれば、
命を助けてやっても良いと考えたのである。
彼は運や運命という言葉を信じるタチだった。
ウルスの悪運ってやつを試してみたくなったのである。
( ゜д゜)ノ次は3/22(月)更新予定です




