第0部 4章 2節 30話
リュカらと行動を共にすることにしたウルスらは、
避難民の列を離れた。
リュカらは総勢12人ぐらいのグループらしい。
現在、大人顔負けの行動力で街の状況を調査している。
「リュカー!こっち。」
また新たなメンバーがリュカに声をかける。
「ヘイゼルじいさんだって!?」
声の主にリュカが返すと、リュカらと同年代の少年は
建物を指さした。
「ケガはないようだけど、建物に挟まれて身動きが取れないみたいだ。」
「サッキ、ギャブ。頼む。
ウルスは周りを見ていてくれ。特に上空な。」
リュカがテキパキと指示を出した。
サッキとギャブの2人は、指を指された建物のほうに走っていく。
その先には更に3人ほどの少年達がおり、合流して何やら相談を始めた。
ウルスはリュカらと合流したものの、まだ流れには乗れていない。
彼らの行動についていけていなかったが、
リュカがこのグループのリーダーらしきものとは予想できた。
彼の指示で皆が動いている。
「リュカ、僕も救助を手伝うよ。」
ウルスが言う。
一緒に行動させてもらっているため、何かしら役に立ちたいと思うウルスだった。
だが、リュカは指を左右に振り、ウルスの申し出を断る。
「ウルス。見張りは大事だぜ。
救助できなくても、ヘイゼル爺さん一人が助けられないだけだけど、
ミサイルが降って来たら、皆が死んじゃう。
大事なところだ。しっかり頼むよ。」
リュカは真顔で不謹慎な事を言う。
だが、彼らは救助隊ではない。
恐らくだが、ここにグランベリー海賊団がやってきたら、
ヘイゼル爺さんを見捨てて逃げ出すであろう。
そしてその選択は正しい。
彼は自分の仲間を守る事を第一としていた。
今、街を調査しているのも、海賊に連れ去られた仲間を救助するためであり、
ヘイゼル爺さんを救助するのはその片手間である。
捨てるものと拾うものをしっかりと判断していた。
ウルスはその考えに賛同できる立場ではなかったが、
リュカの確固たる意思に気圧されている。
同じぐらいの年齢だというのに、ウルスとリュカには
精神的年齢の差があるようだった。
ウルスは言われた通り、赤く染まる空を見上げながら
リュカに話しかける。
「リュカ、君は凄いな。」
呟きにも感じられた台詞だったが、その声はリュカに届く。
ウルスはついさっきルーパと別れた自分の決断に
後悔していた矢先であったので、
次々に迷い無く指示を出すリュカを眩しく思ったのだ。
後悔するような決断をしていないように思えたからだ。
「皆で協力しあってるだけだ。誰が凄いとかじゃないさ。」
リュカが謙遜する。
そうしている間に、瓦礫を撤去していたサッキとギャブが手を振って
こちらに合図していた。
「大丈夫みたいだな。」
リュカも両手を振って応える。どうやらヘイゼル爺さんを救出することが出来たらしい。
救出されたヘイゼルは他のメンバーと共にリュカの元へと歩いてきた。
「良かったなぁ。爺さん!」
相手が大人であるに関わらず、リュカはまるで友達と話すかのように
ヘイゼルに声をかける。
「お前らに助けてもらう事になるとはなぁ。
感謝するぜ。リュカ。」
リュカはドヤ顔でヘイゼルを見た。
「ケガはないんだろ?こっからは一人で避難所へ向かってくれるかい?」
「なんでぇ?お前らは避難所に行かねぇのか?」
ヘイゼルは不思議そうな顔でリュカを見る。
電気系統が死に、街から酸素がどんどん減っている状況である。
避難所に向かわないのは自殺行為に思えたからだ。
「緊急電源は動いているみたいだかなら。まだ持つさ。
それに、俺らがこうしてるから、ヘイゼル爺さんを助けられたんだぜ?」
「そりゃ間違いねぇ。」
ヘイゼルは豪快に笑うと、リュカとハイタッチし、避難所へ向けて歩いて行った。
大人とも対等に会話するリュカを改めて尊敬の眼差しで見るウルスだった。
「でも、連れ去られた子どもを助けるって・・・。」
どうするんだろう?とウルスは思う。
ヘイゼル爺さんを助けたようにはいかない。何故なら子ども達は
海賊に連れ去られたのである。
助けるためには、海賊をどうにかしなくてはいけなかった。
「海賊が子どもを攫うってのは、珍しいんだ。
大体は労働力目当てなんだろうけど、リスクがある。
反抗的な子どもだったら、手に負えないからな。」
ウルスの言葉にリュカが反応した。それを聞いたサッキが
「リュカのような奴だったら、船の内部で反乱起こしちゃうからな。」
と言うと、一同に笑いが起きる。
フン!と周りの声を無視するかのようにリュカは話を続けた。
「だから、いきなり船の内部には連れ込ませないで、
どっかで選別するはずなんだ。使える奴と使えない奴のさ。
今回はそこが狙い目になる。」
へぇとウルスは関心した。
「なんでも知ってるんだね?リュカは。」
「これはさっき、クックルさんに聞いた受け売りだけどな。」
リュカが応える。その名詞にウルスは反応した。
「クックルさん?ピュッセル海賊団の!?
一人だった?側に女の子はいなかった?」
クックルは妹のセリアを連れて、避難所に向かっているはずである。
会っていたらとしたら、セリアも一緒なはずであったが。
「いや、一人だったぜ?港に向かうって言ってた。」
リュカの代わりにサッキが答えた。
クックルが一人で港に向かっているって事は、
無事セリアを避難所に避難させたのであろう。
ウルスは安心したようにため息をついた。
しかし・・・とウルスは思う。
クックルって、しゃべれたのか?
ウルスらと一緒にいるときは一言も発しない寡黙な男だったので、
彼が会話が出来るという事にウルスは驚いていた。
その位の余裕がウルスには生まれつつあった。
それはリュカという頼りがいのある仲間に出会えた事が大きかったのであろう。
相変わらず自分の中で行動への指針は見つかっていなかったが、
ウルスは彼らと行動を共にすることで、少しずつ
頭の中を整理する余裕が生まれてきていたのだった。
ピュリン!
リュカの持つ通信機が音を上げる。
リュカは通信機を覗き込むと、眉をしかめた。
何やら文章で通信が送られてきたようである。
「皆のいる場所がわかったぜ!
アンドゴル公園だ。やっぱりだ。
奴ら、船に連れて行く前に選別するつもりだ。」
ゴクリとウルスは唾を飲み込む。
ウルスだけはリュカらと違う判断をしていた。
海賊団が探しているのは労働力ではなく、
ウルス自身である。確証はない。
だがウルスはそう決め付けていた。
だから選別というのは、ウルスかウルスではないか?の二択である。
ウルスではないとばれた時の子ども達がどうなるのか?
知識の乏しいウルスにも想像がついた。
「行くぞ!アンドゴル公園だっ!」
リュカの一言に周りのメンバーの拳に力が入る。
彼らとは違った意味で、ウルスも強く拳を握っていた。
次は3/20(土)
更新予定です( ゜д゜)ノ




