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春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~流されるままに~

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第0部 4章 1節 27話

ウルスの頭の中で、けたたましいサイレンが鳴っていた。

危険!危険!危険!

目の前にいる男は危険な人物だと本能が告げる。

その本能に逆らうかのように、理性が本能の説得を試みる。

「待て、彼は今、僕を救おうとしてくれたんだ。

殺された奴は海賊で、マラッサの街を襲っている大悪党だ。

奴らは、街の住人を殺しているんだぞ?

見ただろ?

ミサイル攻撃で吹き飛んだ住人たちを!」

その声で、先ほどの路地での惨状が脳裏に映し出された。

四散した身体や大量の赤い血に染まる路地。

そう、目の前の男はそんな凶悪な人物から、

ウルスを救ってくれたのだ。

理屈ではわかる。

だが・・・。

エアバイクの運転手は、未だこちらに気付いておらず、

路地に入ってきただけの無防備な状態だった。

恐らく彼は自分が殺されたことも理解しないまま、

地面に叩きつけられたのであろう。

そんな無防備な男を、平然と撃ち殺したのである。

そしてウルスは当たり前の事に気付く。

その男は、殺された男と同じく、

「海賊」

なのだ。

あまつさえ、国の王子という重要人物を誘拐するような

凶悪な男なのだ。

一緒に行動するようになって忘れていたが、

彼は凶悪犯なのだ。

もし同行者が軍の関係者、護衛であれば、

どうだったであろうか?

最終的には戦闘になっていたかもしれない。

結局、銃で応戦し、同じように殺していたかもしれない。

だが、見かけただけで撃ち殺したりなどはしないであろう。

こちらに気付いてもいない無防備な男を、即座に撃ち殺したりはしないはずである。

どちらが正しいのか?

ウルスは、そのような場面に出くわした事がなく、

その時にどのような行動をすべきなのか教えてもらったこともない。

冷静に考えれば、ルーパが正しいのであろう。

もし、直ぐに撃ち殺さずに王子を守る事を優先したならば、

相手に見つかる可能性はあるし、

見つかってしまえば、仲間を呼ばれる可能性もある。

相手がルーパのように、即座に撃ってくる可能性だってある。

それはウルスにも理解できた。

この場面での正解は、ルーパなのだと。

だがしかし。

同行者がブレイク伯であったならば、どうしたであろうか?

ウルスを守るように身を隠し、見つかったとしても、

マラッサの街の住人であるフリをして、なんとか逃げようとしたであろう。

決して即座に撃ち殺したりはしない。

断言できた。

ブレイク伯は決してやらない。

それをやってしまう男が目の前にいるのである。

それも、平然と、無表情で、

まるでいつもやっている日常の動作のような無駄のない動きで、

簡単に、そう簡単に人を殺す男が目の前にいるのである。

彼は、プロだ。

それもプロ中のプロだ。

人殺しのプロなのだと、ウルスは実感した。

そこまで考えた瞬間、また別の声が聞こえてくる。

「何を言っているウルス?

お前は助けてもらったんだろ?

殺された奴は、殺されて当然な奴だったんだ。

見ろよ、マラッサの街を。

街は今どうなっている?市民は今どんな状況に置かれている?」

思考が巡る。

今を受け入れるべきなのであろう。

受け入れ、行動を継続すべきなのであろう。

だが、このウルスの胸の中で熱く訴えかける感情が、

理性を凌駕する。

この男は危険なのだと。

否、危険だからこそ、今のこの状況では頼もしいのも事実だった。

一緒にいるのがブレイク伯であったら、

この危機を乗り越えられたかもわからない。

危険な男だからこそ、命を預けることが出来た。

それはわかっている。

わかっているが、危険なのだ。

一緒にいてはいけない男なのだ。


どうすればいいのかわからなかった。

今までウルスは、王の息子として

周りの期待に応えるべく、いい王子であろうと努力してきた。

節度を守り、我侭を言わず、大人達が望む子どもを演じてきた。

英才教育も受けてきた。

王になるために、素晴らしい王になるための勉強もしてきた。

だが、こんな状況でどうすべきか?は習っていない。

正解が何かわからなかった。

正解があるのかさえわからなかった。

少年ウルスはどうすべきなのだろうか?

誘拐の被害者ウルスはどうすべきなのだろうか?

王子ウルスはどうすべきなのだろうか?

王位継承権1位の王太子ウルスはどうすべきなのだろうか?

そんな回答は習っていないし、考えた事もない。

ましてや今、その回答の決断を求められている。

実はウルスの中では、既に回答は出ていた。

それは、このままルーパに付いていくことである。

ルーパがやった行動は正しく、

恐らく最善の手を実行したのだ。

エアバイクの運転手を殺し、エアバイクを奪う。

奪ったエアバイクに乗り込み、この場所から逃げ出す。

グランベリー海賊団に見つかる危機も脱し、

最速でカエデたちと合流できる最善手。

ウルスもそれに乗っかるべきである。

「文句は後から聞く。」

とルーパは言った。

文句があるなら、後で言えばいいだろう。

答えは出ていた。

答えは出ているはずだった。

なのに。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


ウルスは走り出した。

ルーパから遠ざかるように、今まで進んできた道を逆行する。


「おいっ!ウルっ!」


後方でルーパの声が響く。

走りながらウルスは、ルーパが追いかけてくると信じていた。

行動と思考が矛盾していたが、ウルスは逃げながら

ルーパがエアバイクでウルスを捕まえにくると信じていた。

捕まってエアバイクに乗せられ、強引に連れて行かれる。

それがベストだと考えた。

だから、ウルスは全力で逃げた。

これはウルスの思考放棄である。

自分で考えることを止め、無理矢理な展開に流される事を望んだ結果である。

ルーパは逃げ出したウルスを見て、エアバイクのアクセルを回す。


「クソガキがっ。」


エンジン音が路地に反射する。

エアバイクが空中に浮かぶ。

子どもの逃げ足である。

捕まえるのは容易い。

だが、ルーパの後方で声が聞こえた。


「何してる!お前っ!」


声の主が、エアバイクの所有者の仲間だと気付くのに時間はかからない。

ルーパは空中でエアバイクを反転させると、今度は左手に構えた銃で声の主を打ち抜く。

バゥ!

またしても見事な射撃で、男を射抜いた。

男が地面に倒れるが、ルーパは自分の失敗を悟る。

仲間は一人ではなかった。

倒れた男のそばに、もう一人いたのである。


「チッ!」


ルーパは舌打ちと同時に銃をもう一人の男に向けるが、瞬間遅かった。

小さな銃声が次の標的を捉えたが、同時に白い閃光が上空に上がる。

閃光は上空でバンッという音と共に白く輝いた。

信号弾である。

辺りが白く照らされ、赤く染まった街並を塗り替える。

最悪なシチュエーションだった。

信号弾はグランベリー海賊団の船員たちを呼び寄せるだろう。

ここにはウルスがいて、生意気にもあのガキは、ルーパの指示に従わず、

逃げ出している。

ウルスを捕まえに行く間に、グランベリーの奴らは集まってくるだろう。

ウルスを抱えて逃げるにしても、それは危険に感じられた。


「クソガキ!あとでお仕置きだっ!」


ルーパはエアバイクを上昇させた。

信号弾にシルエットが浮かび上がる。

そしてハンドルをAゲートに向けた。

それはウルスが逃げた方角とは真逆の方向である。


「いたぞ!あいつだ!!!」


下のほうから声が聞こえてきた。

グランベリーの仲間だろう。

ルーパはエンジンを回し、一気にBゲートへとバイクを走らせた。


「逃がすな!追え!!」


「追ってこいっ!!!」


もはや聞こえない声に、ルーパは応えるのだった。

次は3/13(土)

更新予定です

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