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春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~マラッサ炎上~

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第0部 3章 2節 25話

ウルスとルーパは、大通りに出た。

夜中の22時過ぎであるにも関わらず、大通りは

人で埋め尽くされていた。

ほとんどの者が、町の中心部から郊外へと歩いている。

彼らの多くは地下シェルターに向かっていた。

地下シェルター自体は、マラッサの街の至るところにあるが、

街の中心部に行くほど、シェルターの規模は小さい。

郊外ほど大きく、大量の人間が入れるシェルターだったので、

必然、人々の多くは郊外を目指した。

ましてや街の中心部ほどグランベリー海賊団のエアバイクが

空中を周回しており、炎の勢いも、ミサイルの着弾率も跳ね上がる。

人々はまるで小魚の群れのように大群をなし、

大通りを郊外へと流れるように列を作る。

民衆の多くは片手ほどの荷物しか持っておらず、

皆が皆、慌てて家を出た事が察せられた。


「ウル。はぐれるなよ。」


ルーパたちはその群集の中を逆行するように、

人々を搔き分けて進む。

ルーパがまず道を作り、その後にウルスが続く。

その間、2人は無言だった。

ウルスの脳裏に、周囲の人々の声が刷り込まれる。


「ばあちゃんは無事かなぁ。」

「痛いよぉ。」

「何であいつらが襲ってくるんだよ!?」

「通信は?無事?」

「王国は何やってるんだ!」

「さぁ、歩いて。」

「どうして私がこんな目に合わなきゃいけないのよぉ!」

「生き延びたら、結婚しよう。」

「どうしてあなたは、いつもいつも!」

「終わりだ・・・。」


ウルスは耳をすませた。

聴覚だけではなく、視覚も嗅覚も。

肌で感じる全てに神経を集中させる。

多くの人間が、出来る事なら忘れたいと感じる情景を、

彼は記憶することに集中していた。

まるで旅行先で素晴らしい景色に出会ったときのように、

少年は今のこの時を記憶しようとしていた。


「軍は!?軍は出動していないのか?」

「軍が動くわけないだろうが!やつらにとっちゃ、内輪揉めみたいなもんだ。

期待できるかよ!」


その会話に反応しそうになる。

軍はすぐ側まで来ている。

ウルスはその事実を伝えたくなるが、考えを振り切った。

今、ウルスがその事実を伝えたところで、何か変わるわけではない。

信じてもらえないのがオチだ。

少年はルーパを見失わないように、後に付いていくだけである。


雑踏の中、それでも周囲に神経を張り巡らせていたウルスの耳に、

異音が流れ込んできた。

ひゅるるるーと間の抜けたか細い音が脳を刺激する。

音の大きさ的に位置は遠い。

だが、その異音にウルスは視線を空に向けた。

同時にルーパがウルスの手を掴み、引っ張る。


「うわっ。」


ウルスの身体がルーパに引き寄せられると、彼はルーパを見た。

ルーパも何かを感じ、空を見上げていた。

この時点でウルスもその異音の正体が何なのか悟る。

今、空を見上げるとしたら、理由は二つしかないからだ。

一つはグランベリー海賊団のエアバイクの襲撃。

一つは、海賊船からのミサイル攻撃である。

慌ててルーパの視線の先をウルスも追う。

空に小さな点が見えた。

それはどんどん大きくなり、対象の姿がハッキリとしてくる。


「ウルっ!」


ルーパがウルスの手を更に強引に引っ張る。

空の点は次第に大きくなり、軌道がウルスらのいる場所から

50m後方付近に落ちると予測できた瞬間、

バゥ!という鼓膜に響く音と共に、

空気の振動が肌を襲った。

続いて、ドゥ!という重い音と共に、爆発と爆風が人々の列の中心で

破裂する。

人々の悲鳴は爆音でかき消され、土煙で視界も失われる。

気圧の変化でキーンという耳鳴りが脳裏を支配する。

激しい爆風で目を開ける事も出来ない。


「・・・ル!ウル!聞こえるか?」


ようやくウルスは周りの声を識別できるようになると、

ルーパを見た。

同時に、周囲から悲鳴や叫びが聞こえてくると、ウルスはようやく

周りの惨状を目視する。

ミサイルが落ちたのはウルスらからは50mほど離れた大路地の中央。

そこまで長い隊列が続いており、隊列を途切れさせるように

真っ赤な炎が路地の中央で壁を作っていた。

その周囲には立っているものはいない。

しゃがみこんでいる者と、倒れているものと、

後は、小さな肉塊がところどころに見えた。

50mほどの距離で小さな点でしかないはずであったが、

爆発で大路地の中心部からは人が退避し、炎とウルスの間の

視界を遮るものがない状態であったので、

ウルスにはそれが何かハッキリと何かわかった。

単語で言うならば、手、足、半身、頭・・・。

そして、赤い鮮血・・・。

通常であれば、即座に目を背けたくなる惨状であったが、

ウルスはまるでそれに魅入られるように、目を逸らすことが出来なかった。

無意識にこの光景も記憶しようとしているかのようである。

12歳のウルスが、人の死を感じるのはこれが初めてである。

祖父はウルスが産まれたときには亡くなっており、

葬式というものにも出たことがなかった。

死という存在は知っていたが、実感したのは初めてだったのである。

まるで固まったかのようなウルスの手を、ルーパはもう一度引いた。


「ウル。行くぞ。」


ウルスは視線を炎の中心地から離せないまま、コクリと頷く。

だが、動こうとしなかった。


「行くぞっ!」


ルーパは強引にウルスの身体を自分の隣に引っ張り、

ウルスの視界を自身の身体で塞いだ。

視界が閉ざされたウルスは、視線を上げルーパの顔を見る。

その瞳からは光が消えているかのようにルーパには見えた。


「行くぞ・・・。」


力なくルーパはウルスに再度同じ言葉をかけた。

ウルスはゆっくりと、半信半疑のような感じで頷く。

頷いたというよりも、視線を落としたように見えた。


2人は混乱している周囲を他所に、再び街の中心部に向かって走り出した。

大通りが炎に包まれた事で、先に進めなくなった住人たちの列は、

バラバラに路地へと別れはじめている。

大路地から人が退避しているのでウルスらの歩むスピードも速くなったが、

同時に隊列から逆走している彼らが目立つようになってきている。


「俺らも路地に入るぞ!?」


ルーパはそう言うと、大路地から小さな路地へと進路を変えた。

ウルスは黙って付いていく。

付いてきた事を後悔しているのだろうか?

ルーパは後方を付いてくるウルスを確認しながら、

ふとそう考えた。

連れてきたのは失敗だったか?

そんな疑問が沸いて来る。

だが、今はもう遅い。

彼は街の中心部へと向かっていたが、

最終目的地はカエデたちのいるBゲートだった。

ウルスをカエデたちの下へと連れて行くことが目的である。

宿からシェルターに避難させるよりも、

カエデたちと合流させるほうが良いと判断したのであった。

だから、連れて来た事に後悔はない。

それが目的なのだから。

だが・・・とも思う。

ウルスがこの強烈な出来事で「壊れてしまわないか?」心配になった。

否、壊れかけている気がした。

しかし、ルーパはその考えを封印する。

彼にとって、ウルスが壊れるか壊れないかは大きな問題ではなかった。

彼にとって優先事項は、ピュッセル海賊団の利益である。

それは、ウルスの生存が第一であって、

生きていれば後はどうにでもなると判断していた。

もしここでウルスが死んでしまえば、

その責任はピュッセル海賊団に向けられ、

王国による海賊殲滅作戦は勢いを増すであろう。

それでは本末転倒なのである。

ウルスやブレイク伯を生きて返す事が、この誘拐作戦の肝であり、

最優先事項である。

それは誘拐劇を立案したカエデからも厳命された必須項目なのであった。

そこにウルスの個という要素はない。

あるのは生命の無事だけである。

そしてピュッセル海賊団で次期エースと目されるこの男は、

任務に忠実に行動できる男だった。

切り捨てる事が出来る男だった。

ルーパの中に、ウルスに対する思いやりは、この場面では一切なかったのである。

( ゜д゜)ノ 次は21時 更新予定です!


ここまで読んでくださってる方!

いらっしゃいましたら、感想なりブックマークがあると

書き手は喜びます!

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