第0部 1章 1節 2話
「それはそうと、ブレイク伯。
この辺りは軍用地で民間の居住はおろか、立ち入りも禁止だと聞いていましたが?」
ウルスが窓の外を眺めながら、ブレイクに尋ねた。
「その通りですが、どうかしましたか?王子。」
ブレイク伯爵も、ウルスの言葉が気になり、窓の外を見た。
外は一面、ジャングル地帯である。大河が2本ほど見えるが、
樹の海しか存在しない。
だが、その川辺に違和感を感じる。
「エアバイク!?」
ブレイク伯は独語した。
エアバイクとは文字通り、空中を飛ぶバイクである。
原理は原始的なもので、電波干渉を受けにくい。
従って、このエリシア地方を飛行するのにうってつけの乗り物の一つではあるが、
ここは軍用地であって、民間の乗り物が侵入してくるところではない。
そして、軍機であるならば、ブレイク伯たちが知らないという事はありえない。
伯爵はコックピットに通信を繋いだ。
ボタンを押せば、すぐにコックピットに繋がる仕様である。
「ダイナ少佐。左翼にアンノウン。確認出来ているか?」
すぐさま、返答がある。
「30秒ほど前に、地上から4機のエアバイクの発進を確認。
当機後方に1機、左翼に3機。5機6機目の地上から発進を確認。」
機械音と共に、ダイナ少佐の報告が入る。
恐らく、忙しく情報分析をしているのであろう。
先ほどウルスとブレイクが確認したのは、5機目か6機目のエアバイクぽかった。
「狙われた。と考えて間違いなさそうです。」
一呼吸をいれて、ダイナが重大な報告をした。
相手がエアバイクであれば、急上昇して逃げ切れなくもないが、
エリシア地方独特の電波干渉がそれを不可能にしていた。
危険を犯して、電波干渉地帯に踏み入れるのは、王子と王女を乗せた
輸送機としては、決断しにくい場面である。
最悪、操作不能に陥り、墜落の危険性があった。
従って、ダイナは即時に危険をブレイクに知らせたのである。
ブレイク伯であれば、その権限で判断を決する事ができた。
判断の丸投げであったが、この場面でこの判断は正しい。
しかし。
ピッ!ピッ!ピッ!
マイク越しにも聞こえる警告音が、ウルスらの耳にも届いた。
「チッ!!!」
ダイナの舌打ちが聞こえる。
「ロックオン信号。YTM弾のロックオン信号を確認。逃げ切れません!」
その言葉に反応したのは、ブレイク伯だった。
「YTM弾だと…。輸送機では逃げ切れないか。」
YTM弾とは対航空機用、誘導兵器である。
その誘導は目視による有線誘導で、エアバイクで追尾しながらであれば、
大型のワルワラガイドに当てるのは容易い。
「打ち落とす気であれば、既に打っているはず。
何が目的なんだ?何者なんだ?王子と王女が搭乗しているのを知っているのか?」
複数の疑問がブレイク伯の頭の中を駆け巡る。
ウルス王子とセリア王女の今回の外遊は、王国のトップシークレットであって
知る者は少ない。
もし狙われたとするのであれば、内部からのリークも危惧しなければならなかった。
ブレイクは正しい判断を下せず、ただ時間だけが過ぎていくのであった。
次は2021年1月18日(月)更新予定です