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春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~マラッサ炎上~

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第0部 3章 1節 18話

その日の夜。

おんぼろ宿の部屋に一つしかないベッドは、

ウルスとセリアの2人が占有していた。

ピックルはドアの横で立ったまま、ルーパはソファに座っている。

色んなところを歩きまわったせいだろうか、セリアはベッドに入ると

すぐさまその可愛らしい寝顔で睡眠にはいったが、

ウルスは眠れないでいた。

眠れない。というと語弊がある。

寝たくないのだ。

寝てしまって、この貴重な冒険譚が終ってしまうのが、

嫌なのだ。

非日常のこの時間を少しでも感じていたい。

狸寝入りをしていても、このまま起きていても、

何も起きないのはわかっていたが、

それでもこの12歳の少年は寝ることができなかった。


宇宙暦980年5月26日午後10時45分。


激しい爆音と地鳴りがマラッサの街を襲う。

地鳴りが収まる前に、ルーパが窓際に潜み外を見る。

遅れて立ち上がったウルスも窓際に近付いた。

セリナが寝ぼけ眼を擦りながら起きようとしていたが、

上半身を起こしただけである。

ベットの横には既にピックルが待機していた。

ウルスはピックルの姿を確認すると、妹を任せベッドを飛び降りたのである。


マラッサの街は、岩石だけの中惑星ノーデルの内部をくり抜いて出来た

人工街である。従って通常の惑星のような地殻変動は起きない。

幼いウルスでもその事は小等部で習っていた。

と、すれば爆発音と地鳴りは、人工的に起こされたと推測できるのである。

それがわかっていたからルーパもウルスも窓から外の様子を確かめようとしたのである。

ただ、ウルスに至ってはほとんど反射的にルーパの行動を真似ただけであったが。


「今のは?」


ウルスの声にルーパは反応しなかった。

しかし、最初は隠れるように外の様子を覗いていたルーパだったが、

安全を確認したのか窓の正面に立ち、外の様子を伺う。

連れてウルスも窓の正面に立った。

人工的に作られた街であったが、昼夜の区別はあった。

昼は人工太陽の光が降り注ぎ、夜は薄暗い月明かりで覆われる。

その街の中心部が、赤く燃えていた。

町外れの安宿からでもハッキリと見える炎である。

厳密に言えば炎が見えるのではなく、赤く照らされた空間が見えるのであるが、

それは炎による明るさだとわかるぐらいである。

大気が揺らいでいるのがわかった。

そしてその上空に無数の影が動いていた。

ウルスにもそれが何かわかった。

つい先日、目撃したばかりのものだったからである。


「エアバイク・・・。」


ウルスは呟く。

火災現場の周りを飛ぶエアバイクは、それが消火活動をしているとは思えない。

何故なら、爆発音と地鳴りを感じてより未だ1分も経っていないのだ。

何かあって駆けつけたものでないのは明白だった。

これは、爆発音と火災のそもそもの原因であると感じられた。

そして、ルーパにはそのエアバイクの意味がわかる。


「グランベリーの野郎。何をしようってんだ?」


その独語に、ウルスは怯む。

疑問系を投げかけたルーパだったが、ルーパは回答がわかっていた。

この光景をルーパは何度か目にした事があった。

エアバイクで滑空し、街の上空を飛びまわる。

それは海賊が街を襲うときの常套手段だった。

遠距離からの砲撃で建物を破壊し、混乱に乗じて

上空からエアバイクで金品や若い女をさらう。

先ほどの爆発音は、砲撃の着弾音であり、

その爆発の振動が、街に広がったのである。

恐らくターゲットは治安を維持する自警団の詰め所だろう。

マラッサの街は海賊を貿易相手にしているだけあって、

宇宙港などの外壁の防衛力は高い。

外敵の侵入には強いが、街の内部には昔ながらの自警団しか存在していなかった。

しかし、グランベリー海賊団は友好的な相手として

この街に入ってきたのである。

外の強固な防衛を突破し、中に入ってきたのである。


海賊が入港した時点で通常は船の周りをがっちり警備兵が固め、

何かあった際には、船を拿捕する仕組みになっている。

従って中で何か不祥事が起こる事はない。

しかし、グランベリー海賊団が今こうしてマラッサの街を襲うという事は、

宇宙港がグランベリー海賊団の手に落ちたか、それとも・・・。


「ルーパさん!あれ!」


ウルスの声で、ルーパは全てを悟った。

ウルスが指を指した先には、マラッサの東側にある大きな人工海がある。

人工の街に海があるのは、海水浴などの娯楽のためもあったが、

実用的な使い方もされていた。

大量の物資を宇宙からこの街の内部に運ぶ場合、港で積荷を降ろすのではなく、

港からこの人工の海までそのまま宇宙船で侵入し、直接街に積荷を降ろすことができた。

宇宙港から海に繋がっているのである。

そうする事によって、大量の積荷を一気に街の内部へ

運搬することができるのであるが、

その海に今浮かんでいるのは、輸送船ではなかった。

悪名高きグランベリー海賊団の旗艦。

「ノーライフデス」

宇宙戦艦並みの装甲と、火力を有すると噂される巨大な船が、

人工海の真ん中に浮かんでいたのである。

漆黒の闇に中に浮かび上がるシルエットは、不気味で

多くの人間に恐怖を感じさせるに十分だった。

そしてその恐怖を裏付けるかのように、

ノーライフデスから発射されたミサイルが

街の至るところに着弾し、爆音と地鳴りを誘発する。

着地地点では、巨大な炎が一瞬にして天に伸び、

周りを赤く染める。

まるで夕日の光に照らされているように赤く色づいた

ウルスの頬は、幻想的に美しかったのだった。

次は24日(水)更新予定です( ゜д゜)ノ

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