表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~ノーデル星マラッサ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/51

第0部 2章 2節 17話

ウルスたちは町の中心部にあった高級ホテルから、

町外れの安宿へと移動していた。

ルーパが安宿のカウンターに向かうと、宿の親父が

ニコニコとした顔でウルスらを向かいいれる。


「ルーパ。久しぶりだな。

また何か問題を起こしたのか?

んー?」


親父はそう言いながら、ウルスとセリアを見た。


「遂に、所帯を持つ身になったか?」


「ちげぇわ!」


ルーパが即答する。


「だが、ちょっとやっかいになるぜ。おっさん。」


親父はクククッと笑った。


「お前がここに来る時は、大体、問題を起こしたときだからな。

慣れっこだよ。んで、今回は、何か注文は?」


台帳にルーパの名前を記入しながら、親父は上機嫌そうだった。


「そうだな・・・。

グランベリー海賊団が入港しているらしい。

あいつらの動向を探ってくれ。」


ピュー!と親父は口笛を吹いた。

何か楽しんでいるようである。


彼は4人を部屋まで案内すると、ルーパに任せとけという

合図を送って、カウンターに戻っていった。

町外れの安宿ではあるが、ここは宇宙に出る港に近い。

民間用の港であるAゲート付近にある宿だった。

だから何かあれば即座に宇宙に脱出できる。

ウルスは忘れていたが、彼は今誘拐されている身分であって、

この街に観光にきたのではなかった。

ルーパは何かが起きても直ぐに対処できるようにこの宿を選んだのである。

また、ここに移動してきたことは、

カエデにも連絡していない。

ルーパの独断であったが、彼は長年の海賊家業において

培った危機察知能力に従ったのだった。


「やばいんですか?」


部屋の中でウルスがルーパに尋ねる。

ウルスはグランベリー海賊団のことを何も知らなかったが、

ルーパの真剣な表情が、物事の緊迫さを物語っていた。


「賢しいガキは、嫌われっぞ?」


ルーパはウルスに言う。


「どうして・・・。」


ウルスは何かに背中を押されるように、ルーパに疑問をぶつける。


「どうして、ルーパさんは僕らに優しいのですか?

僕は王の息子で、あなたがたを攻撃しようとしています。」


「あー。」


めんどくさそうにルーパはウルスの言葉を遮った。


「お前には何の罪もないだろ?

俺らが憎いのはメイザー公爵。

やつに潰された惑星カンドは、俺らの拠点でもあった。

うちの船員の3割はそこの出身者だ。

要は、お前は巻き込まれたんだよ。

俺らとメイザーの喧嘩にさ。」


「喧嘩・・・ですか・・・。」


「そう、喧嘩にだ。

奴の思い通りにはさせない。

そのためにお前を利用している。

そこに巻き込まれただけだからな。

すまないって思ってるわけよ。」


ルーパは、胸ポケットからタバコを取り出し、口に咥えた。

表情を、動作を隠すためであったが、ウルスはそれに気付かない。


「でも、それでも、誘拐した僕らを自由にして。

街の観光とか、今も話を聞いてくれたりして。」


「あー。」


またしてもルーパはウルスの言葉を遮った。

フー。とタバコの煙を吐き出す。


「お嬢がよ・・・。

お嬢がお前さんに、マラッサの街を見せたいって言ったんだ。

いい街だろ?

貧しいが活気がある。

そりゃ、俺ら海賊を相手に商売しているような街だ。

でも、いい街なんだ。

いい街なんだよ。ここは。」


そう言うと、ルーパはタバコを灰皿に押し付けた。

ルーパやカエデが、ウルスにこの街を見せ、

ウルスに何を期待しているのか?それは今の子どもの王太子には

わからない。

わからないでも、この男が言うように、マラッサの街が

いい街なのは、ウルスも肌で感じていた。

なのにこの街を、王国は、軍は、住人を強制退去させようとしている。

この街を無くそうとしている。


彼が、この王太子が今のまま仮に20歳を越えた成人男性であったならば、

彼は例えマラッサの街を知っていたとしても、

いい街だと感じていたとしても、

海賊の拠点・温床になっているこの街を断罪したであろう。

ここから海賊は生まれ、その海賊によって損害を受ける一般市民は

存在するのである。

海賊の襲撃で命を落とす善良な市民も少なくない。

だが、今のウルスは12歳と多感な年頃だった。

正義を正義と割り切るには、まだ幼すぎた。

彼は、ルーパやカエデに好意を持ったと同じように、

このマラッサの街にも好意を持った。

反抗期を迎える年頃というのも手伝ったのかも知れない。

ワルという生き様に憧れを抱いたのかも知れない。

一つ確かなことは、王太子であるウルスは、

このマラッサの街を肌で感じ取ってしまったのである。

生きる息吹を、その躍動感を。

自分が将来治めるべく王国の領内に、

マラッサのような街があることを知ってしまったのである。

誘拐事件の主犯であるカエデがどこまで狙ったのかは定かではないが、

ウルスはそのカエデの思いを受け取ってしまったのである。

悪だから断罪する。そう簡単に割り切れない事を

理解してしまったのである。


この後、王道を進むこの王太子の性格形成に、王太子誘拐事件が

多大な影響を与えたという認識は、後世の歴史家の一般的な共通認識である。

この事件がなければ、この後のウルスは存在せず、

歴史は大きく変わっていただろうと言われている。

歴史の分岐点であったが、当時の彼らはそれを知る由もなかった。



次は2/22(月)更新予定です( ゜д゜)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ