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春風戦争 外伝 ~王太子誘拐事件~  作者: ゆうはん
~ノーデル星マラッサ~

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第0部 2章 1節 11話

ウルスら一行は飲み屋を後にし、次の場所に向かっていた。


「次はウツだっ!」


少しお酒が入ったルーパのテンションが上がっている。

連れて来られたのは、競馬場だった。


「ウツって何の事ですか?」


ウルスもお酒が入っていたが、グラスの半分ほどしか飲んでいないため、

そこまで陽気にはなっていない。


「ウツってのはなぁ。ギャンブルよ!賭け事!わかる?」


ルーパの顔がウルスに近付く。

今や、完全にダメ中年親父と化したルーパを止めるものは何もない。


「ギャンブルですか。ギャンブルは良くないと伯に聞いています。」


ウルスのその台詞に、ルーパはしかめっ面で返した。


「人生そのものがギャンブルなんだ。それを否定するってのは、

人生を否定するようなもんだぜ。」


そんな大げさな。とウルスは思ったが、ルーパの次の言葉に息を飲む。


「お前と、さっき出会ったガキ、リュカとお前の違いはなんだ?

王様の子どもと貧民街で産まれたリュカとの違いはなんだと思う?

生まれてくる時点で、もうギャンブルは始まってるんだ。

生まれギャンブルで当たりを引いた奴が、

当然のようにギャンブルを否定してんじゃーねーよ。

お前は既に当たりを引いているんだぜ?」


ウルスは黙っていた。王の息子に生まれることを、ウルス自身が望んだわけではない。

だが、学校にも通えず、若くして働いているリュカと比べると、

自分が恵まれている事を実感していた。

いや、学校に通う通わないの問題ではない。

彼らが生活のために海賊になるのだとしたら、

若くして命を落とす危険性は高まる。

果たしてウルスに、生活のために命をかける事は出来るのだろうか。

否、むしろ王族こそが国民のために

命をかけるべきではないのか?

庶民が命をかけているのに、王族がぬくぬくと暮らしているのは

間違っているのではないのか。

彼らピュッセル海賊団と出会ってから、ウルスの中にあったわだかまりが

急に言語化してくるのを感じていた。

ウルスとセリアは、メイザー公爵の主催するパーティに向かっていた。

気が進まないパーティだった。

王族だから仕方ないと思っていた。

だが、彼らが向かっていたのはパーティである。

戦場でもなければ、労働の場でもない。

ウルスは文字通り命がけで輸送機に突入してきたルーパらを嫌いにはなれなかった。

それは単純に、かっこいいと感じたのが始まりであったが、

生死をかける行動に、尊敬の念さえ生まれ始めていたのだった。


「お馬さーん!」


セリアの間の抜けた声が響く。

競馬場。20頭近い馬を走らせ、1着を当てるギャンブルの場である。

対象が人間ではない生物というところがミソである。

人はいつになっても、馬が走る姿にドラマを感じるのであった。


「本物の馬を見るのは、初めてです。」


ウルスは言った。

人類は母なる地球を飛び出し、宇宙に出たが、

人間以外の生物は地球に取り残されたままである。

犬や猫、小鳥の数種類はペットとして多くが宇宙へと輸出されたが、

大型の哺乳類が宇宙に出る事はなかった。

その唯一の例外が馬である。

舗装されていない道の移動手段として、動力のいらない工作車として、

未開拓惑星での馬の需要は、地球で人間と共存していた時と同じである。

だが、半永久的に動く新技術、スパルスエンジンの開発と共に、

馬が惑星開発の主役から遠ざかって久しい。

今や生の馬を目にする事は、ほとんどなかった。


競走馬が走る姿をウルスらは眺めている。

ルーパやドルパはもちろん馬券を購入し、賭け事をしていたが、

ウルスとセリアは純粋に、馬の走る姿を眺めていた。


「可哀相と思うか?」


ふと、ルーパがウルスに話しかける。

競走馬を喜んでみているセリアとは対照的に、

ウルスが沈んだ表情でターフの上を走る馬たちを見ていたからである。


「ええ、生き物は大切です。みんな生きています。

とくに地球発祥の生き物は、この宇宙では貴重な生命です。

こんなことに使われるために生まれてきたんじゃない。」


ウルスは答えた。


「だがなぁ。」


ルーパはため息をつきながら話を続ける。


「あいつらは、競走馬として生まれてきた。

だったら、走るしかないんだよ。

食料を輸入しているこの街で、人間以外の生物に食わせる食料なんてねぇ。

走ることを止めたら、あいつらは存在意義がなくなっちまうんだよ。

走れない競走馬は処分するしかねぇんだ。」


「そんな・・・。」


絶句するウルスを他所に、ルーパは話を続けた。


「しかぁし、競走馬は走るしか存在価値がねぇが、

人間は違う。

人には、得意・不得意があっからな。苦手ならやめちまえばいい。

好きな道を選んだっていいんだぜ?」


「でも僕は・・・。」


ウルスの言葉をルーパは手で遮った。


「王子なんか、やめちまえ!お前は正直すぎる。

向いてねぇ。」


カカカッと笑いながらルーパは言い放った。


「王子を、辞める?」


あまりにも突拍子もない言葉に、ウルスは動揺した。

もちろん、ルーパの発言に大きな意味があるわけではない。

理由があるとすれば、王族や貴族への嫉妬であったが、

権謀策謀渦巻く権力闘争の世界に、ウルスが向いてないと

思った事は事実である。

だが、本当に軽い気持ちで言った台詞だったが、

12歳の王子の胸に深く突き刺さった。

「王子をやめる?そんな生き方があるのか?」と。

ただ漠然と王の子として生まれ、王の子として教育を受けているウルスは、

王子をやめるという発想自体がなかった。

作られたレールを外れる生き方を想像したこともなかった。


「よし!次は、げへへ。カウだな。」


頭の中を新しい考えがぐるぐる回るウルスを他所に、

ルーパが話題を逸らす。

次から次へと目まぐるしく変わる状況にウルスは

付いていけていなかった。


「何を買ってくれるの~!?」


カウの言葉にセリアが反応する。


「ひゃはは!お嬢ちゃんには関係ねーかな!」


といいつつ、ルーパは前かがみになりウルスの肩を抱いた。


「カウ!って言ったら、女だよな!?」


耳元で囁く。

呆気にとられるウルスを尻目に、ルーパとドルパはノリノリであった。



次は2/8(月)更新予定です( ゜д゜)ノ

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