第0部 2章 1節 10話
ウルス、セリア、ルーパ、クックルの4人はマラッサの街に出て、
洋服屋でドルパと合流している。
余所行きの王族の服から下町の子ども達の服に着替えたウルスらは、
店を出てこれからどう時間を潰すか思案中であった。
軟禁状態であったウルスたちにとって、久々の開放感である。
「クックル!肩車して!肩車!」
セリアが大柄の男にせがみだしていた。
「セリア!彼は君の部下じゃない!」
ウルスの語気が荒らぐ。
周りの大人たちはこの幼い王女に弱く、
セリアは歳相応に甘やかされていた。
必然、きつく言う役割は兄のウルスになるのだが、
セリアはウルスの事を怖い兄だとは思っていなかった。
「いーえ!クックルは私を抱いて、飛行機から飛び降りた
大罪人ですのよ!罪滅ぼしにこの位は当然です!」
言葉だけ聞くと、とんでもない発言だった。
クックルは少し顔を赤らめながら、彼女を抱きかかえ、
右肩に乗せた。
大柄で肩幅が広いこの大男にとって、セリアの小さな身体を担ぐのは
右肩だけで十分であった。
あまりにも目線が変わったからであろうか、セリアは一瞬びっくりしたような
表情になったが、すぐに冷静さを取り戻す。
「たかーい!」
怖がってもいい年頃だったが、ピックルに全幅の信頼があるのであろう。
セリアは直ぐに慣れた様子であった。
逆にピックルのほうが、恥ずかしそうである。
「で、どこに行くの?おじちゃん!」
おじちゃんと呼ばれたルーパである。
明らかにピックルと待遇に差があるのが、不満そうなルーパだった。
「そうだなぁ、ウル。男ならまず、ノム・ウツ・カウだな!」
ルーパはあえてセリアを無視した。
ウルスは笑顔を我慢しながら、ウルと呼ばれた事に戸惑いを感じていた。
「あー。お前らは、ウルとセリだから。
いいな!?」
ルーパは2人を指さししながら説明した。
確かに、変装までして街に出るのである。
ウルスやセリアと呼ばれたら、流石に気付く人間も出てくる可能性があったが、
全く捻りのない偽名を付ける辺りがルーパの性格を物語っていた。
「わかりました。で、ノム・ウツ・カウって何ですか?」
ウルスの質問に、またしてもルーパはニヤァといやらしい笑いを見せる。
「ふっ。ウルはまだまだおこちゃまだなぁ。」
12歳の男子に言う台詞ではないとウルスは思ったが、
ルーパの機嫌が良さそうなので訂正しなかった。
「まずはノムだー!行くぞっ野郎ども!!!」
「ノムダー!」
セリアが片手を上げる。きっと何もわかってない。
「うぴょー!」
ドルパも奇声を上げた。
このノリに付いていけないウルスであったが、
でも、嫌な気分はしなかった。
むしろ、楽しかったのである。
5人は街の中心部へと向かった。
旧式な街並みであったが、活気がある。
主に宇宙海賊を相手に商売しているとあって、
お洒落には程遠いが、高級な宝石を扱う店から、
食品を扱う八百屋などごちゃっまぜにしたような街であった。
5人は一軒の飲み屋に足を運ぶ。
そこはドアなどなく開放的に開かれた店で、
テーブル席もあったが、カウンターには椅子がない。
立ち飲み屋と書かれた看板から、安くお酒を飲む場所なのだと
ウルスにもわかった、
「兄貴ぃ。酒飲んだら、お嬢に怒られちまうんじゃねーか?」
ドルパの言葉とは裏腹に、彼の視線はカウンター奥に並べてある
酒瓶へと注がれていた。
「なんだ?俺が酒でヘマをしたことがあったかよ?」
ルーパが返す。
「ヘマしたことがなくっても、今回の仕事は失敗は許されねぇんじゃねーかな。」
ドルパは、ウルスとセリアを見た。
そう、彼らは今、国の重要人物を連れているのである。
何かあったでは、済まないのは全員が理解していた。
「ちっ。おめーは変なところは真面目だからなぁ。」
ルーパも理解したようである。
「ま、今回はウルの飲酒記念だ。
酒の味を知らねぇと、本物の男とは言えねぇ。
おっちゃん、カラミティを5つ、いや4つ。
後、ジュースくれ。」
しっかり自分達の分もお酒を注文するルーパだった。
「ウル、俺たち海賊は、お前の歳の頃から、酒を飲めなきゃいけねぇ。
何故だかわかるか?」
ルーパの問いにウルスは首を振った。
「金を持ってるのは大人たちだからな。大人達と対等に付き合えるように
ならなきゃいけねぇ。それには酒の場が一番手っ取りはやいんだ。」
店員が持ってきたグラスをそれぞれに回す。
もちろんセリアだけは、オレンジジュースだったが。
「お嬢・・・カエデと仲良くなりたいなら、酒の味は覚えておいたほうがいい。」
「カエデさんと交渉しているのはブレイク伯でっ!僕は別に・・・。」
ウルスの言葉に動揺が見える。
そんなウルスを見て、ルーパはニヤッと笑う。
子どもをからかって楽しそうだった。
「そーよ!ウルス兄さまったら、あの女性に見蕩れちゃって。
困ったものだわっ!」
セリアが反応した。その言葉を聴いたドルパはへぇ・・・とこちらも笑う。
「そんな僕は、別に!?」
「いいんだぜ?それが男ってもんだ。お嬢は美人だからな。
惚れたとしても何の問題もない!むしろ惚れなきゃ男じゃねぇ!
へへへ。ウルの初恋にかんぱーい!」
ルーパはグラスを高々と掲げると、ドルパとクックルがそれに続く。
「かんぱ~いっ!」
「違いますってば・・・。」
そう言いながら、ウルスは目の前にあるグラスの中の酒をグイッと一気に飲み干した。
喉が焼けるように熱い。
苦いような、辛いような味。
初めて飲む酒の味は、ご多分に漏れずほろ苦い味だった。
ストックが溜まってるので、次は
2/6(土)更新予定です( ゜д゜)ノ




