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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第四章・死の平原を越えろ
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死の平原を進む

 絶句するジルベルトに、ハインツ団長は淡々と告げる。


「お前ら15人でかかれば、死の平原なんか、すぐ調べ尽くせるだろ」

「広さも解らないのに?」


 思わず反抗するジルベルト・タンツを、団長は鼻で笑う。


「お前らにとっちゃ、遊びみたいなもんじゃないのか」

「そんな」


 銀紐総員で死の平原を完全踏破する。これは、ハインリヒ・ハインツナーゲヤリ城塞騎士団長の中では、既に決定事項だ。当然、ジルベルト以下15名は、快く引き受ける脳内設定である。そして、彼らナーゲヤリの精鋭部隊は、易々と任務をこなす予定だ。



「騎士団本部との通信はどうするのです」


 15人とも遠征に出てしまったら、通信の受け手がいなくなってしまう。


「ナーゲヤリ駐在の通信員は緑紐から出す」


 ジルベルトの眉間に皺が寄る。


「ハイム隊員が適任だろう。素晴らしい分析官だ。これで戦闘適性があればな」


 ゲオルクの恋人、シャルロット・ハイムも、実は銀紐隊員として狙われていたらしい。


「緑紐には言っておく。明日にでもミーティングをしておけ」

「明日?」

「一刻を争う事態だって解ってるだろ」

「それはそうですが」



 ジルベルトは、もう何を言っても無駄だと解った。

 せめて、今はまだ話題に出ていない愛妻ジンニーナの遠征協力が要請される前に、さりげなく退出することにした。


「では、頼んだ」


 ジルベルト銀紐隊長は、団長が手渡す命令書を渋々受け取り、黙って頭を下げる。

 ジルベルトが団長に背を向けて扉に向かう頃には、団長の興味は既に次の書類に移っていた。


(ジンニーナのことを、団長が思い出さなくて良かった)


 ジンニーナ・タンツは、世界一の大魔法使いである。しかし、ジルベルトの大切な妻なのだ。実力は申し分ないとしても、危険な仕事に駆り出したくはない。

 ナーゲヤリの街だとて、現状、安全とは思えないが、死の平原よりはマシである。



 その日、ジルベルトは、ジンニーナの好物を買って帰った。ハズレの熊シチューである。通称ハズレと呼ばれる宿屋兼居酒屋は、テイクアウトもやっているのだ。



「何かあったの?」


 好物の熊シチューを受け取りながら、ジンニーナはジルベルトの様子を伺った。心配そうな妻を宥めるように、ジルベルト隊長は、無理に笑う。

 ただでさえ冷酷そうな顔に、ひきつった笑顔が張り付く。


「大丈夫?」


 シチューをテーブルに置いて振り返った妻を、ジルベルトは強く抱き締めた。銀鬼と呼ばれた大男が、小さく震えている。


「ジン。暫く会えない」

「遠征ね?」

「ああ。死の平原を完全制覇する」


 ジルベルトは、妻の赤毛に顔を埋めながら、悲痛な声で宣言した。

次回、魔女は待つ


よろしくお願い致します

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