死の平原にある物は
銀紐隊の隊員達は、ナーゲヤリ城塞騎士団切っての精鋭揃い。街の背に控える山にも、魔獣蔓延る死の平原へも、平気で立ち入る猛者達だ。
考え無しな訳ではないが、多少常識はずれな連中である。
中でも、現在のトップフォーは、入隊するなり頭角を現した。
4人とは、即ち、先に入隊したジルベルト・“銀鬼”・タンツと、同期の3人ヴィルヘルム・フッサール、フリードリヒ・ブレンターノ、そしてゲオルク・カントの事である。
ジルベルトは、堅物だ。規則やぶりの勤務中狩猟はしない。現在でも、部下たちが訓練と称して、山の獣を狩りに行く度に小言を述べている。
しかし、弟分の3人は、そうではない。山どころか、死の平原にまで出ていってしまう。勤務中に。
鍛練時間も勤務の内だ。だからこそ、訓練業務と称して、皆食糧確保に出掛けてしまう。騎士達は食べ盛りの若者である。しかも、薄給の下級公務員だ。
肉が足りない。隙あらば、採りに行く。
挙げ句の果てには、鞭遣いの地図職人ティル・シュトラウスを中心に、野営訓練と称して修練場で料理をはじめてしまう。
だが、それはまだましな方なのだ。
フリードリヒとヴィルヘルムは、死の平原へ素材を採りに行く。
後に岸壁で活躍した水空籠の素材となった浮遊木も、ヴィルヘルムが発見した。
最初は、多少こそこそとしていた2人である。それぞれ別々に活動していた。
そんなある日、フリードリヒが、死の平原に特有の竜巻草を採取に出掛けた。
竜巻草は、地を這うように生えている。群生はせず、点在する赤茶けた草だ。
一見すると枯れ草のように見える。
しかし、動くものがその草に近づくと、竜巻が発生するのだ。
竜巻草を煎じた汁を矢じりに塗っておくと、刺さってから魔獣の魔力に反応して竜巻を起こす。傷が内部で抉れて行く。普通の獣では、この効果が得られない。魔獣に対してだけ起こる現象だ。
それを発見したのは、フリードリヒ本人である。
実験に付き合ったのは、愛妻のアイニだ。
アイニは今や三児の母だが、その性質は大して変わっていなかった。流石に、単独で死の平原へと採集に出掛ける事はしない。だが、夫が集めてきた怪しげな草や木、魔獣の骨等を、積極的に調べている。
さて、フリードリヒは、いつものように暴風対策をして、死の平原に足を踏み入れる。
「ん?人か?騎士っぽい服だな」
遠くで、竜巻に巻き上げられた人間が見えた。驚いたことに、竜巻を器用に乗りこなしている。両手には、籠手を嵌めていて、何やら木の枝を操っているようだ。
「なんだ、ありゃ。ほんとに人間か?」




