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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第四章・死の平原を越えろ
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森を出る花嫁

 アイニは、ナーゲヤリ城塞騎士団緑紐の騎士に送られて、無事コカゲーに帰った。


「手紙書くよ。住所教えて」

「うん。薬草も送るね」


 2人の特殊な子供は、しっかりと今後の交流について約束を交わした。フリードリヒの両親は、微笑ましいというよりは、むしろ呆れたように、その様子を眺めていた。


 コカゲーとナーゲヤリは、国交がないので、手紙はモーカル経由である。到着するまでに、それなりに時間がかかる。

 それでも2人は、頻繁に手紙やサンプルを送りあった。



 その上、アイニは、懲りずに山にやって来た。フリードリヒと相談し、万全の対策をして、山の素材を採集に訪れる。モーカル行きの商人一行に着いてきたり、特殊な獣避け薬草をコカゲーの香炉で燻したり、様々な工夫をしていた。


 思春期を迎えた2人は、いつの間にか恋人同士になっていた。特に、どちらかが積極的な行動を取ったわけではない。ごく自然に、友達から恋人へ、恋人から夫婦になった。

 アイニの両親も、いずれそうなるだろうと諦めていたそうだ。


 コカゲーは、閉鎖的な国家である。外からの移住者は認めない。時折、アイニのような変わり者が、森を出ていく事はある。しかし、よそ者が国に入ることは許さない。



 結婚の挨拶に出掛けた時も、嫁入りの日も、アイニの家族は、森の縁で軽く挨拶を交わしただけ。すぐにコカゲーへと戻って行ってしまった。

 森には、様々な習慣がある。花嫁の装いや、婚姻の儀式も細かく決まっている。森の加護を受けるためだという。


 しかし、森を出る者は、森の加護を期待してはいけない。だから、伝統の花嫁衣装も儀式も無い。コカゲーを出るということは、森の加護から離れるという意味なのだ。



「これからは、もう家族でも国民でもない」

「自分で決めた道を信じて、幸せにね」


 突き放すように言いながらも、一族はみな、涙ぐんでいた。


「手紙書くね」

「たまには、モーカルで会おう」

「そうね」


 抜け道もあるのだ。国を出た者が、コカゲーに帰ることは出来ないが、手紙や贈り物は出来る。コカゲー住民も、別の町まで観光や行商に出かけられる。そこで国外の人や、国を出た人に会うのは、禁止されていない。



 城塞都市国家ナーゲヤリに移住してきたアイニは、フリードリヒと2人で薬屋を開店した。薬屋が軌道に乗った頃、第一子を授かった。

 一方、前々から、ナーゲヤリ屈指の魔獣討伐技術を誇っていたフリードリヒは、城塞騎士団にスカウトされた。


「やってみたら?向くかも知れないわよ」

「うん、やりがいはありそうだな」


 卓越した弓の腕、豊富な薬品知識。小柄で小回りの利く体格。山どころか、死の平原にまで素材を採りに行くたくましさ。

 これだけの逸材だ。

 フリードリヒ・ブレンターノは、最初から銀紐隊に配属されることが決まっていた。

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