ジルベルトの報告
今回は、1話です。
団長に襟首を掴まれて引き摺られたジルベルトは、申し訳程度に姿勢を正す。
「ほら、さっさと報告!」
「報告します」
団長は、ギッとジルベルトを睨む。
「こちらのジンニーナ・ロッソさんに」
ハインリッヒ・ハインツ団長の太い眉が、上がる。
「ちょ、たいちょ、何言うつもり」
ヴィルヘルムが、慌てて立ち上がる。だが、間に合わない。
「求婚させていただく所存です」
「はあっ?んなこと聞いてねえ」
団長が青筋を立てる。
「いや、団長には、随分とご心配をお掛け致しましたので」
「今言う事かよっ。仕事の報告しろ、仕事のぉ!」
すぐ後ろでは、大女が顔を赤らめてもじもじしている。
「早すぎね?」
既婚者のヴィルヘルムが、小男のフリードリヒに同意を求める。フリードリヒは、肩を竦める。フリードリヒも、所帯持ちだ。既に3人の子供が居る。
「そこじゃねぇよな」
と、剛剣遣いのゲオルクが太い首を捻って、億劫そうに口を出す。彼は独身だ。恋人もいない。絶賛アプローチ中だ。相手は情報特化の『緑紐』隊員なので、苦戦している。
「代わりに報告すれば?ヴィル副隊長だろ」
「ゲオルクてめぇ」
「ありじゃね?あれ、使い物にならんでしょ」
フリードリヒもゲオルクの意見に賛成のようだ。
「フリッツ行けよ。お前も副隊長だろ」
イライラが限界に近づいている団長の後ろで、3人がこそこそ押し付け合っている。それがまた、ハインツ団長の神経を逆撫でする。
「お前達は、黙ってろ!」
団長は、振り返らずに怒鳴る。3人は、仕方なく大人しくなった。
「それで?作戦を無視して、4人が先行した言い訳を聞こうか」
ハインリッヒ・ハインツ団長は、ブリュネットのゲジゲジ眉毛をくっつく程に寄せた。
「はい、ジンニーナさんの魔力が」
銀鬼ジルベルト・タンツが、その深い眼窩の底で、冷徹と言われる薄紫の瞳を光らせ、嬉々として語り出す。
「暖かく、愛おしく、すぐにでも抱き締めたく」
「おい、こら、俺は何を聴かされているんだ」
ハインツ団長が、ジルベルトを睨み付ける。
「銀紐隊長ジルベルト・タンツ!」
「はいっ」
「いい加減、まともな報告をしないか!!」
団長が、腰に下げた細身の剣の鞘を払う。
「おぉっ?!」
「うぇっ」
「団長!」
後ろで見守っていた3人が、思わず一歩踏み出した。
ジルベルトは冷静に向き合う。
「ですから、ジンニーナさんの魔力に導かれて、最前線に駆けつけた次第です」
「隊長ぉぉ」
ヴィルヘルムが、嘆く。
「まあ、事実なんだろうな」
ゲオルクは、諦めた。
「あーあ、どうすんだ」
成り行きを見守る、フリードリヒ。
と、そこへ、緑のマントを羽織った壮年の男性がやって来た。
「お話中すみません、団長さん、」
柔らかな語り口で、にこやかに語りかけてくる。
「わたくし、モーカル魔法守備隊長ユリウス・デ・シーカと申します」
次回、ジル&ジン城塞都市国家へ




