表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第三章・銀紐隊の仲間達
74/110

ヴィルヘルムとマリーナ

当分は不定期投稿です

 青紐隊が山中整備に派遣された時、鉄爪猪(テッソーチョ)の討伐は、まだ続いていた。


「くそっ、キリがねえ」


 長身の優男が、真鍮色の籠手を構えて、魔獣の群れに突っ込んで行く。優男ヴィルヘルムの籠手は、魔法金属で出来ている。ある程度の衝撃耐性と、毒や魔法を防ぐ力があった。


 しかし、針が飛び出すからくり細工を施す為には、素人にも扱える素材でなければならなかった。その上、当時のヴィルヘルムは、泣く子も黙る銀紐隊の副隊長ではなく、一介の新人騎士だ。


 からくり技能を買われ、銀紐隊に配属されて、まだ一年目の若造だった。高級素材による安心防具など、到底望めない身分である。


 当時、ジンニーナはいない。隊員達は、魔獣の毒にやられないよう、さまざまな工夫をしていた。ゴーグルや顔面を覆う兜を身につける者、毒のある血を浴びたあと、すかさず解毒剤を使う者。弱くはあるが、防毒魔法を自らかけている者もいた。



 現場に到着した青紐隊土木班も、戦闘技術を身に付けてはいた。曲がりなりにも、魔獣防衛の最前線、ナーゲヤリ城塞騎士団員なのだから。


「整備するって言っても、まだそんな段階じゃないわよね?あの、クソ上司がっ」


 現場を一目見るなり、マリーナが悪態をつく。当時の青紐隊長は、現在は引退している短気な老人だった。前倒しで仕事をこなすまでは良いのだが、早すぎて受け入れ体制が整っていない事も、ままあった。



 3人の青紐隊員に向かって、鉄爪猪が突進する。三匹ほど来るようだ。マリーナは、咄嗟に土の杭で柵を作り、絡み合った樹の根の間から、土塊を飛ばして魔獣を威嚇する。


「おっ、凄いね!ナイスアシスト」


 ヴィルヘルムは、マリーナの土木魔法で暫時怯んだ一匹の魔獣に、籠手を使って止めを刺す。次いで、フリードリヒの矢が、別の一匹を仕留める。ヴィルヘルムが、残る一匹の喉元に、横から滑り込んで針を放つ。


 青紐隊の3人は、そのまま土の杭や土塊で援護した。大小の鉄爪猪を、銀紐隊若手の4人組と、少し先輩の3人が迎え撃つ。

 四人組は、現在隊長になっているジルベルトと、弟分のヴィルヘルム、フリードリヒ、ゲオルクである。


 先輩組も、隙無く動き回っていたが、若手4人は、この頃から凄まじかった。光線眼熊(コウセンガンユウ)の巣穴撲滅事件が、記憶に新しい時期だ。

 既に銀鬼(シルバー・デビル)と呼ばれていた、ジルベルト・タンツは、この日も返り血を滴らせながら、枝をすり抜けて双剣を振るっていた。



 日の暮れる少し前、漸く新手が来なくなった。


「銀紐は引き上げるか」


 鉄爪猪討伐班長が、撤退の合図を出す。

 青紐隊3人が、木の根や岩を掘り起こし始めた。辺りには、細切れの魔獣が流す血が、川となって流れていた。


 普段なら、魔獣の死骸を焼いて、毒消しを撒き、無毒化後に、埋める。しかし、今回は、土木班が迅速に動き出したので、邪魔にならないように、銀紐隊は、帰還を決めた。


 正確には、直ぐに作業を始めたのは、マリーナである。他の2人は、直視しないように離れた木陰から、地面を操っていた。

 マリーナだけは、サポートに回っている間も、持参の毒消しを散布しながら、後片付けの準備をしていたのだ。



「はー、すげえな、あのチビッ子」


 ヴィルヘルムが、感心する。

 マリーナは、ジルベルトの作った血みどろの肉塊に、割けて倒れた木などを被せ、強引に地ならしする。その豪快さに見惚れるヴィルヘルム。

 若き日の銀紐副隊長は、帰り際に、小柄な魔女へと急いで近寄り、話し掛けた。


「なんて豪気な女の子なんだ!君の事をもっと知りたい。街に帰ったら、一緒に食事に行ってくれませんか?」


 一方マリーナは、仕込み籠手で懐に突っ込んでは、針などの暗器も駆使して闘うスタイルの、柔軟なヴィルヘルムに感心していた。まだ恋ではなかったが、食事に誘われて、悪い気はしなかった。


「いいわよ。いつにする?」


 折れた生木を、いっそ痛快に魔法で持ち上げながら、マリーナは、未来の夫に笑顔を向けた。

お読みくださって、ありがとうございます。

完結まで、今しばらくお付き合い頂ければ、嬉しいことです。


当初の下書きから、現在の増加率(笑)を考えると、章をもうひとつ分で、終われる見込みです。

最終話まで、今のところ変更点は無いのに、増えるので、なかなか更新出来ません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〈i500805|29410〉 script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ