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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第三章・銀紐隊の仲間達
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街の鷗

 第三次堅塩鷗調査班が、ナーゲヤリの街へと帰り着いた時、空には星が瞬いていた。いつも通る宿屋兼居酒屋・通称ハズレの前で、ジンニーナが佇んでいる。

 緩くうねる赤毛を束ねて、大きな体を心配そうに強ばらせている。愛する夫の魔力に、不審な揺れを感じ取って、街外れまで来たのだ。



「ジル!お帰りなさい。どうかしたの?大丈夫?」


 魔女は、大好きな夫に駆け寄ると、魔法で全身を確認してゆく。


「怪我は……無いのね」


 外傷が無いと解った。けれども、それだけでは安心出来ない。


「内蔵も……大丈夫そうね」


 肉体的な損傷は、ひとつもない。それでも、魔力には乱れが感じられるのだ。ジンニーナの不安は、残ってしまう。


「ジン、大丈夫だ。不安にさせて悪かった」


 ジルベルトは、ばつが悪そうに妻の肩を抱いて歩き出す。


「隊長~、解散でいいすかねえ」


 後ろから、優男ヴィルヘルムの気が抜けた声が追う。


「ああ。今日は流れ解散だ。明日、報告会をする。以上」

「うっす」

「はい」

「了解~」



 むさ苦しい男達は、そのままハズレの酒場に雪崩れ込む。宿屋なので、風呂を借りる事も出来た。


 1階の酒場には、遅くまで酒を楽しんでいたナーゲヤリ国民が、なん組かいた。彼らは、がやがやと入ってきた調査隊の騎士達にぎょっとして腰を浮かす。


 土と汗と、その上魔獣の血とにまみれた一団である。堅塩鷗との攻防に疲れた顔をしている。加えて、隊長の苛立ちと夫婦問題にげんなりした調査班は、やや殺気立っていた。

 いくら魔獣防衛を義務付けられた、城塞都市国家の住民とは言え、精鋭の銀紐隊に所属する騎士達の荒れた雰囲気には恐怖する。



 一方、隊長ジルベルト・タンツとその妻ジンニーナは、星空の下を寄り添いながら家に向かう。

 夜道を進みながら、ジンニーナは、ちらりちらりと夫の顔を仰ぎ見た。ジルベルトは、口を固く引き結んで、眉間に深い皺を寄せている。


「ジン」


 ようやく声を発した夫に、ジンニーナは、真剣な眼差しを送る。


「うん」


 ジルベルトが、冷酷とも取られる鋭い視線で妻を捉える。


「街で、堅塩鷗(カタシオカモメ)を見たことは?」

「ある。最近、依頼が増えてる」


 やっと、夫の魔力が乱れた原因を知ることが出来て、ジンニーナはほっとする。


「魔獣討伐本舗の仕事を、いい加減にしてごめんな」

「えっ?そんなこと無いのに」


 銀鬼と恐れられる隊長の謝罪は、子供が見たら怒っているように見えただろう。だが、睨んでいるのではなく、単に真剣なのだ。もちろん、ジンニーナには伝わっている。



「いや、2人の事務所なのに。俺は騎士団ばかりに心を砕いて、ジンの話を上の空で聞いていた」


 ジルベルトが妻を抱く腕に力が入る。妻は、嬉しそうに夫の脇腹にくっつく。


「何言ってんの。未曾有の危機かもしれないって時に、本職優先で当たり前でしょう」


 赤毛の大女は、女々しい夫を一笑に付す。


「街のことは、任せて」

「ジン」


 妻の頼もしさに、ジルベルトは感激して口付けた。


「魔獣が増えそうなら、ちゃんと言えよ?」

「そうする。ありがとう」


 緑の愛らしい円目玉が、月明かりに神秘的な輝きを見せる。未だ堅塩鷗の血に濡れた大男は、もう一度愛妻に唇を寄せると、急いで自宅に帰るのだった。

次回、ヴィルヘルム副隊長と山道整備


よろしくお願いいたします

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