見守る3人組
今回は、1話投稿です。
「はー、ひでぇ目にあった」
愛妻家ヴィルヘルムが、膝を曲げて腰を落とす。
「なんなんだ、本当に」
ゲオルクが、その隣に逞しい足を投げ出し、天を仰ぐ。
「モーカル魔法守備隊の皆さんは、壊滅だな」
ゲオルクと反対側の隣で、胡座をかいたフリードリヒが、山腹で踞っているモーカルの討伐隊員達を眺めた。けっこうな人数が居るようだ。
彼等も、腕に赤い布を巻いている。今回の共同作戦に、正式な隊員として参加している筈だ。小規模な日常の魔獣討伐なら、経験していると思われる。多少の流血耐性はあるだろうに。
「これで、まだ魔獣がいたら驚きだよ」
ヴィルヘルムが、ぼやく。
解除された守りの壁の付近は、新しく掘り返された跡が、そこかしこに見える。
死屍累々の大惨状を、独り元気だった銀紐隊長ジルベルト・タンツが、溶解魔剣メルトで焼き払った。そのあとフリードリヒが、消毒薬を散布して、銀紐精鋭3人組と銀鬼の4人で埋めた。
作業中も、隊長はチラチラと壁があったあたりを振り返って落ち着かない。総てが片付く頃に、やっと山頂まで登ってきた城塞都市国家ナーゲヤリ魔獣討伐隊から、数人が様子を見に作業現場まで降りてきた。
「げっ、タンツ?!どうした」
偵察に来たうちの1人は、ナーゲヤリ城塞騎士団長ハインリッヒ・ハインツ。一面に見える、穴を埋めた跡の新しい土よりも、ジルベルトの腑抜けた顔に驚愕を表す。
「あー、団長。隊長、今、見てないし聞いてないっすよ」
小男の薬品マスター・フリードリヒがげんなりと見上げる。団長自ら降りてきたと言うのに、3人は動こうともしない。
魔獣の惨殺死体を埋め終わって、だらしなく地べたに座る3人は、運命の恋人達が、互いに突進し合うのを眺めていた。
「ナーゲヤリ城塞騎士団、銀紐隊長、ジルベルト・タンツです」
「うわぁ、あいつ、どっから声だしてんだ」
普段からは考えられない、上ずって高い声で、銀鬼隊長が名乗り、団長が、呆れた様子で呟く。
「ジンニーナ・ロッソです!旅の魔法使いです!」
歓喜に顔を輝かせた、赤毛の大女も名乗る。
「お会い出来て光栄です」
銀髪の大男が鎖頭巾を脱いで、大女の手を優しく包む。女は、はにかんで俯いた。
「あたしも」
恥ずかしそうに、小さな声で答えるジンニーナ。感極まったジルベルトは、涙も流さんばかりに顔を歪める。
「ああ、ジンニーナさん!ジンとお呼びしてもいいでしょうか」
「まあ、ジルベルトさん、では、あたしも、ジルと?」
「ジン!」
「ジル!」
「おいこら、報告しろ、ジルベルト・タンツ!」
銀鬼と似たような体格の、ハインリッヒ・ハインツ団長が襟首を掴む。ジルベルトは、まだジンニーナの手を握ったまま、不服そうに振り向いた。
次回、ジルベルトの報告