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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第三章・銀紐隊の仲間達
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断崖の銀紐隊

 旅立ちの朝、ジンニーナは、なにか言いたそうにもじもじしていた。


「心配するな。俺達銀紐隊は、死の平原でだって夜営してきたんだ」

「そうなんでしょうけど」


 赤毛の魔女は、玄関口で、最早日課となった守りの壁を夫にかける。そして、少し逡巡したジンニーナは、夫の冷酷に見える奥まった瞳をしっかりと見据えた。


「調査班のみんなにも、守りの壁をかけておくわ」

「助かる」


 ジルベルトは、妻の大柄な体を嬉しそうに抱き締めた。



 2人仲良く銀紐隊の詰所にやってくると、まだ薄暗い修練場で、7人程のむさ苦しい男たちが、思い思いに鍛練をしていた。


「断崖班!来てるか」


 ジルベルトは、そこそこに広い修練場を、ぐるりと見回しながら大声で呼ばわる。


 走っていた短い赤毛の男が、向こう側から修練場を横切って駆けてくる。こちら側につくと、片隅に寄せてあった荷物を背負い、大小のブーメランを腰に刺す。

 焦茶の瞳を鋭く光らせる、厳格な雰囲気の若者である。彼は、崖登りのヴォルフガング・シューマンだ。


 柔軟をしていた、麦藁色のお河童頭が、緑の目玉をきょろりと動かし、銀鬼隊長を視認する。


「はい」


 威勢良く返事をしたお河童頭も、荷物を背負う。腰に帯びるのは、3本の鞭。ずんぐりむっくりな、地図作りのティル・シュトラウスだ。


 修練場の真ん中あたりで、飛空籠(ヒクウロウ)の練習をしていた2人も、走って近づく。

 優男ヴィルヘルム副隊長と、何でも乗りこなす天才パイロット、ゲルハルト・コールだ。ゲルハルトは、ガッチリと山賊のような髭男だが、人懐こそうな菫色の瞳をしている。



「よし、揃ってるな」


 集まってきた、第一次堅塩鷗(カタシオカモメ)調査班の4名の顔を確かめ、ジルベルトは、満足そうに頷く。

 4人は、期待に満ちた眼差しで、隊長婦人を見つめる。


「今回、ジンは同行出来ないが」


 4対の眼が落胆の色を宿す。


「守りの壁を張って貰う。こちらから攻撃が可能な、弱い壁だが、ただの防具よりずっと効果的だ」


 途端に、4人の顔は輝く。


「ジンニーナさん、ありがてえっす」


 ヴィルヘルム副隊長が体を2つに折って、お礼を述べれば、パイロット・ゲルハルトは、


「ありがとうっす」


 と、短く言って頭を下げる。ブーメラン遣いのヴォルフガングが、落ち着いた声で、


「安心です」


 とお辞儀をし、地図作りのティルは、


「お願いします」


 と、几帳面に挨拶をする。


 こうして、第一次堅塩鷗調査班は、未明の街を出発した。



 ナーゲヤリ城塞騎士団銀紐隊は、精鋭部隊である。山中の移動速度も驚くほど速い。崖に向かう道では、魔獣も少く、地面には新しい芽が顔を出し始めていた。


 モーカルへの山道と違って、断崖への道は無い。ティル・シュトラウスの先導で、木々の間を抜けて行く。

 ドラゴンの羽ばたきが残した傷跡は、まだ生々しく残されている。山の崖側には、復興班の手が付けられていなかった。こちら側に来る者は、普通いないからである。


 不規則に掘り返された大岩は、よじ登って越える。ぐらぐらするものは、迂回して行く。引き裂かれた大木を、ジルベルトの溶解魔剣メルトで焼きながら、5人は進む。


 生き残りの蔦を分け、男達は無言で進む。湿った落ち葉や滑るキノコで危うい足元に注意しつつも、驚異的なスピードで、悪路を踏破する。


 やがて、唐突に開けた眼前は、騒がしい堅塩鷗の白い翼で埋め尽くされた。

次回、白い翼を朱に染めて


よろしくお願い致します

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