捨て身の求婚
今回も2話投稿です。
R2/9/5 2:10,3:00
R15 微かな血糊。閲覧注意。
ジルベルトは、もう若くない。中年に手が届く歳である。流石に多少は、恋愛経験がある。しかし、堅物仕事人間で、すぐ振られるか、自然消滅。
失恋すれば、人並みに落ち込みもした。だが、仕事に没頭して、直ぐに忘れた。そんなふうなので、別れたところで意に介さないように見えた。
銀鬼と呼ばれる外見も手伝って、冷淡な男とされた。それで、ますます恋愛沙汰から遠ざかるのだ。
彼は、ほとんど無意識に山道を突き進む。隊員は慌てて追いかける。前に居た筈の討伐隊全参加者を追い抜く。
山を覆う強大な守りの壁が完全に消える頃には、既に山頂に着いていた。
(何だ?)
何やら凄い衝突音がする。どすん、べちゃっ、と言う音を辿って反対側に少し降りる。
何とか着いて来ていたのは、やはりトップの3人。丸太のように太い腕をした剛剣遣いの、ゲオルク・カント。籠手遣いの優男で愛妻家は、ヴィルヘルム・フッサール。小男が、薬品マスター、毒矢の遣い手フリードリヒ・ブレンターノ。
さて、ナーゲヤリ側で殿を勤めた4人が見たものは。
「うおっ」
魔法の壁に突撃して果てる、魔獣の群れだった。
「あっ、隊長、やばいって」
小男フリードリヒが留めようとして伸ばした手は、空を掴む。
ジルベルトは、壁の向こうに愛しくて堪らない魔力を感じ、ふらふらと惨殺現場に近づく。
魔法使いは、魔力の相性が良くないと、好意を生理的に受付ない。好意を持たれた瞬間に、その相手から距離を取ってしまう。
ほとんどの魔法使いは、魔法使い同士で尚且つ初恋同士の夫婦。
ジンニーナ・ロッソは強大な魔力の持ち主だ。もうすぐ中年と呼ばれる今まで、独りも相手はいない。強大過ぎて、少しでも合う魔力が無いのだと諦めていた。
(まさか、出会えるなんて)
ジンニーナは、山頂を目指して、守りの壁をブルドーザーのように押して行く。べしゃべしゃと守りの壁に追突しては潰れて行く、魔獣達の向こうに、凄い勢いで接近する大男が見えた。
「ああっ!あの方はっ!」
赤毛の大女ジンニーナ・ロッソは、嬉しさのあまり、いつもより多めに魔力を解放した。
魔物が壁に誘引される。
壁の内側に居る、モーカル守備隊と認可魔法使い達は、顔を押さえて踞っている。
壁の外側に到着した、ナーゲヤリ城塞騎士団『銀紐隊』3人組と銀鬼隊長は、押し寄せる魔獣の波を掻き分けて、壁を目指す。
3人は目指したくないのだが、隊長が止まらないので、心配して続く。
「隊長ぉ~、やめましょってぇ」
愛妻家ヴィルヘルムは半泣きだ。
勿論、壁が両側に分ける運命の2人は、構わずどんどん距離を縮めるのだった。
次回、主人公夫婦、ようやく会話を交わします