崖の調査に備える
賛成多数で、銀紐隊に崖の調査が割り振られた。
「嫁さん連れてけよ」
団長が言うと、副団長も頷く。
「安全度が段違いだ」
ジルベルトは、いつものことだが、一応は抵抗を見せる。
「外注扱いですよね」
「何を言ってるんだ」
「妻にも仕事がありますから」
いくら国民には魔獣討伐義務があると言っても、こう頻繁に寸志だけで駆り出されていては、生活が立ち行かない。
「それに、世界最高峰の大魔法使いをこき使っては、諸外国から批判が殺到しますよ」
赤毛の天才魔法使いジンニーナを、ただで使うなど、他国に知られたら大騒ぎだ。
彼女は旅する魔女だったので、依頼するには、偶然やってくるのを待たねばならなかった。
それが、定住した途端にタダ働きばかりとは、他国から引っ越し誘致されるかも知れない。
「こき使ってなどいない」
団長は、確信を持って答える。団長基準では、単なる善意の協力者なのだ。
「もう説得はしませんよ」
モーカルの時は、説得にだいぶ苦労した。そんな事を繰り返しては、夫婦の間がぎくしゃくしてしまいそうだ。
まだまだ新婚のジルベルトにとって、そんな事は願い下げだ。
「2、3日うちに人選して団長に報告したら良いだろう」
膠着状態に陥りそうなので、副団長レオンハルト・ハイネが、助け船を出す。
「そうだな」
「解りました」
ハインツ団長も、ここで言い合っても仕方がないと思ったようだ。ジルベルトの方も、無駄な意地は張らずに引き下がる。
他の隊を預かる隊長達は、余計な面倒ごとが飛び火しないように、口を噤んだ。
隊長会議が終わると、ジルベルトは副隊長2名を呼んだ。
「隊長みんな集めといて、結局ウチかよ」
ヴィルヘルム・フッサールが不満を露にする。
「何人で行きます?」
フリードリヒ・ブレンターノは、初手から諦めモードだ。
「そうだなあ、留守番も考えると、やっぱり5人ずつ3班に分けて、何回か短期調査に行こう」
「やっぱ、継続的に行かないとダメっすよね」
初回の様子見だけでは、たいした判断材料にならないだろう。巣があるかどうかの偵察程度だ。
「最初の班はどうしますか」
「崖登りのヴォルフガング・シューマン。こいつは決定だな」
「ティル」
正確で情報量豊富な地図を作る、ティル・シュトラウス。彼は、自在に操る愛用の鞭で、樹や壁を登ることが出来る。
勿論、精密な調査地図が、第1の選抜理由だ。
「ゲルハルト連れてって、空から攻めるか」
「いっすね」
ゲルハルト・コールは、あらゆる乗り物を乗りこなす。今回は、からくり技師のヴィルヘルムが作った、投石装置付き飛空籠と言う物に乗せる予定である。
ゲルハルトの魔法を纏った投石で、万が一堅塩鷗が襲ってきても逃げ切れる構造だった。
次回、第一次堅塩鷗調査班
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