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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第二章・交易都市国家モーカル
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愛妻を説得

 モーカルと共同で、海上調査隊が組まれることになり、鉄壁の魔女ジンニーナ・タンツに協力要請が出された。


「モーカルの仕事は、受けないの」


 モーカル魔法守備隊受付で、追い払われた事が、余程腹に据えかねたらしい。宿を追い出されたのも、根に持っている。あの時、2度とモーカルでは魔獣討伐を手伝わない、と決めた。一時の腹立ちでは無かったようだ。



「ナーゲヤリ城塞騎士団からの、正式な要請だよ」

「それでもよ」


 ジルベルトが説明しても、完全拒否の体勢である。


「山で一緒になった隊員さんとは、食事までしたじゃないか」

「あれは、騎士団の情報収集に付き合っただけよ」

「ユリウス・デ・シーカ隊長は、出来る魔法使いだろ」

「そりゃそうだけど」


 未知の魔獣を相手にするのだ。ジンニーナが展開する『守りの壁』があれば、相当安心出来る。ジルベルトは、妻を海上調査隊に勧誘しようと必死だ。


「隊長さんの顔をたてようぜ?」

「なんでよ。私、関係ないんだけど」


 彼が愛する大女のほうは、不機嫌を増してゆく。



「なあ、頼むよ」

「嫌」

「ジンが来てくれると、助かるんだけどな」

「居なくても大丈夫でしょ」


 取りつく島もない。


「一緒に居たいんだよ」


 ジルベルトは、戦法を変える。公私混同である。銀紐隊長としての職務だと言うのに。


「そりゃあ、あたしだって」


 2人は、だいぶ落ち着いたとはいえ、新婚さんなのだ。まだまだ、離れたくない時期だった。


「じゃあ」


 ジルベルトは、冷淡に見える薄紫の瞳を、期待に光らせる。


「でも、やだ」

「そんな事言わずに」

「ダメです」

「頼むよ」


 夫は、妻の腰を抱き寄せて懇願する。最早、何のお願いなのか解らなくなってきた。



 ますます頑なになる愛妻を見て、銀鬼(シルバーデビル)と呼ばれる銀紐隊長は、溜め息を吐く。


「渡り鳥の魔獣だって、居るかもしれない」

「ありうるわね」

「こっちまで来て、大繁殖されたら困る」

「そうね」


 魔女は、相槌を打っているが、同意ではない。


「死の平原に居る鳥と変なハイブリッドが出来たら、最悪だ」

「まあね」

「海の事だけじゃないんだよ」

「確かに」


 銀鬼の妻は、生返事を始める。



「これ以上忙しくなったら、2人きりの時間が無くなるじゃないか」


 ジルベルトは、再び新婚戦法に切り替える。方便でもあるが、本音でもあった。

 普段は、騎士団の無茶な要請にも、喜んで応えるジンニーナ。本来お人好しな魔女なのだが。引っ込みがつかなくなったのだろうか。


「ジン」


 ジルベルトは、不満そうな妻の赤毛を優しく撫でる。


「死の平原に遠征中は、私語は禁止だ」

「今度は何の話?」


 ジンニーナが、反応を見せた。


「海の魔獣が増えて、それを食べる渡り鳥の魔獣も増殖して、死の平原に住み着くかも知れない」

「そしたら、あたしだって討伐に出るわよ」

「そこに来るまでの被害を防ぐ為、騎士団は出ずっぱりだろうな」


 ジルベルトは、ナーゲヤリ城塞騎士団精鋭部隊である銀紐隊を束ねる男だ。騎士団が遠征続きになれば、当然家には帰れない。

 妻の円くて愛らしい緑色をした瞳を覗き込みながら、隊長は根気よく勧誘する。



「いつまで会えなくなるのか、見当もつかない」

「え」

「ジン、なるべく早く食い止めよう」


 ジンニーナの瞳が揺れる。


「お願いだ」


 2人の視線が絡む。


「はあ、仕方ないわね」


 ついに、ジンニーナが折れる。モーカルとナーゲヤリの、海上調査共同部隊は、めでたく鉄壁の守りを手に入れた。

 ジルベルトは、感謝のあまり、無言で最愛の人に口付けるのだった。

次回、モーカル港の情景


よろしくお願い致します

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