モーカル人の到着
魔獣の再来が、見逃せない規模になっている。遠方での大量発生といい、生態系に異変が起きているのは明らかだ。
近日開かれる国際会議の結果が待ち遠しい。
ジルベルト達一行は、大群を片付けた後も、数匹の魔獣に遭遇した。先を行く銀鬼と、後を守る鉄壁によって、居ないかのごとくあしらわれたが。商人は怯えながらも、何とか目隠しを外した状態で下山出来た。
ハズレの宿屋に到着する。商人と魔法守備隊員は、ここで宿をとる。ここしか、宿屋は無いのだ。
ナーゲヤリに来る旅人など、モーカル商人くらいなもの。年に1度くらいは、ナーゲヤリ住民が泊まることもあるが。
とはいえ、なければ困るので、普段は居酒屋をしながら、空き部屋の管理をしている。
モーカル魔法守備隊員と商人の2人連れは、ジルベルト達にお礼を言ってから、それぞれ部屋をとった。ジルベルトは、銀紐隊詰所に赴き、着替えることにした。
ジンニーナは、夫の荷物も預かって、一旦家に帰る。
「ハズレで待ち合わせな。熊シチューでも頼んだらいいよ」
「うん」
ジルベルトは、練兵場のシャワーに向かう時、訓練中の隊員に声をかけられた。
「お帰り、隊長」
「また派手にやりましたね」
「何が湧いてました?」
「後で話す。訓練しっかりしとけ」
シャワー室に消える背中を見送って、銀紐隊員達は、顔を見合わせた。普段から訓練ばかりしている隊員達に、わざわざ檄を飛ばして行った。異常事態である。
「山、やべえんじゃ」
「ゲオルクさん、なんか聞いてます?」
「いや、もっぱら遠方での広域発生が話題だな」
「ロベルトさんは?」
「俺も、おんなじ」
「急に来たか」
「備品チェックしてくるわ」
仕込み籠手遣いヴィルヘルム副隊長の特技は、からくり技師である。要するに、機械技術者だ。
山の討伐には使わないが、平原に出るときに使う車や、大型の飛び道具がある。
そうした備品の管理は、副隊長ヴィルヘルム・フッサールの仕事だ。不穏な状況になったので、死の平原遠征も視野にいれて、備えておこうと言うのだ。
「飯食ったら、俺も武器の手入れしとこ」
「見てやろうか」
「頼むわ」
「携帯食点検しよ」
「通信機材みとこー」
「装備品不安なやつ、回してくれ」
「おう、いつも悪ぃな」
各々、遠征準備体制に入ったようである。
ジルベルト以下15人の銀紐隊員は、1人一芸の特務隊。専門分野を活かした分業制で、城塞都市国家ナーゲヤリを支えている。
隊長が、着替えて出てくる頃には、練兵場がほぼ無人になっていた。
次回、モーカル商人と話す
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