夫婦でハイキング
そこへ、副団長レオンハルト・ハイネが入ってきた。
「騒がしいな。その件は、タンツの魔獣討伐本舗に正式に依頼するのが妥当じゃないか」
「勝手な事を」
「国外派遣は、団長の独断で行えるのだったかな?」
「しかし」
「まして、民間に国外視察の協力要請など、無理だぞ」
団長が、ベテランの正論で無言になった。
「緑紐に依頼してはいかがでしょうか」
ジルベルトは、ここぞとばかりに口をだす。そもそも、情報収集は、緑紐隊の仕事なのだ。シャルロッテ・ハイムのような分析専門官ならいざ知らず、だいたいは、単独で国外派遣もこなす連中だ。
「緑紐は、今は人手が足りなすぎる。もし、依頼を受けて貰えるのなら、感謝するよ」
「例の広域発生は、そんなに差し迫っているのですか」
「いや、情報を翻訳に回すのが遅れたからね。現状調査が緊急になってしまったんだよ」
レオンハルト・ハイネ副団長は、じろりと団長を見る。団長は、まだ何か言いたそうではある。しかしハイネは、獅子のごときひと睨みで、ハインツ団長を黙らせた。
「ジル~、準備出来たぁ?」
ジンニーナは、かつて旅の大魔法使いであった。旅の準備はお手のもの。1泊程度の旅行なら、朝食の後片づけをしながらでも出来る。
『鉄壁の魔女』である赤毛の大女にとって、魔獣が復活していたとしても、山越えなど、軽いハイキングでしかない。
一方のジルベルトは、魔獣討伐遠征なら経験が豊富だ。しかし、調査任務は、慣れていない。まして情報収集など、専門外も良いところだ。
はっきり言って、何をどう準備したらよいのか、解らない。
とりあえずは、着替えを鞄に詰めた。防具の準備もした。あれこれ悩んで、かなりの時間を費やした。その後は、武器の手入れをしていた。
山の状況が解らないため、どの程度の備えをすればよいか、なかなか決めることが出来なかったのである。
「うん、まあ、こんなもんだろ」
ジルベルトは、騎士団の仕事で派遣される。その為、モーカルに着いたら、宿で騎士団の制服に着替えなければならない。だが、道中は、共同討伐の時と同様に、身軽な服装を選ぶ。
「守りの壁があるから、そこまで厳重な装備は要らないんじゃないの」
革の胸当てやら脛当やらを着けた夫に、ジンニーナが声をかける。守りの壁は、簡易版でも、何もなければ3日は持つ。出掛けにかければ、帰宅までかけ直さなくてよい。
「まあ、念のためだ」
万が一、光線眼熊だの、毒牙兎の群れだのが出た場合、一瞬、守りの壁が切れる危険性も否定出来ないのだ。
「ふうん、相変わらず慎重ね」
「だから、生きてる」
次回、いざ山道へ
よろしくお願い致します
 




