城塞騎士団の使命
今回も1話です
ジルベルト隊長以下、銀紐隊員5名は、団長室に押し掛けた。
「なんだ、お前ら、血相変えて」
精鋭5名の殺気に、歴戦の猛者ハインリッヒ・ハインツ団長も、やや気圧される。
「われわれナーゲヤリ城塞騎士団の、使命は何ですか」
ジルベルトが、団長に厳しく問いかける。
「魔獣防衛の最前線を担うことだが、どうした」
団長は、不機嫌を露にする。
「国外の大発生は、見逃してもよいのですか」
「何の話だ」
ハインリッヒは、興味を示す。
「ロベルト、報告」
「はい、隊長」
ロベルトは、遠方で広範囲に、魔獣が大発生する可能性を知らせる。ついでに、副官室で、翻訳必須資料が止まっていた件も告げる。危険が発覚する迄に、かなりの時間が経っていることを、忘れずに話す。
「見過ごせんな。任せる」
銀紐隊員5名の纏う空気が、急激に硬化する。
騎士団には、エリート意識が強い団員も多くいる。そんな中、銀紐は、雑用や汚れ仕事でバカにされている。しかし、隊員15名は、揃って本来の使命に忠実だ。
人類の危機に繋がるかも知れない情報を、会議にもかけず丸投げとは。ジルベルトは、我慢ならない。
「団長、副官室の総入替えを直訴します」
「貴様、反乱でも起こすつもりか」
ジルベルトの怒りに、ハインリッヒは、不機嫌に返す。
「感情で人事は動かん」
「なっ」
ヴィルヘルムが、思わず声を上げた。
「誰かが私欲で動かしている皺寄せが、来てるんですがね」
ジルベルトは、冷静に続ける。
「騎士団の使命の前には、色恋など、二の次ですよね」
団長は、急に毒気を抜かれた。
「どの口が言う」
討伐中に運命の出会いを果たしたジルベルト・タンツ隊長は、薄紫の瞳をギラギラさせる。
「おっしゃる意味が解りかねます」
目撃者ヴィルヘルム、フリードリヒ、ゲオルクの3人は、苦笑いしている。ロベルトは、状況に追い付けない。
「俺は、現場に何の迷惑もかけてませんが」
堂々と言い放つジルベルト。
「まあ、そうだよな」
諦めモードのヴィルヘルム。
「むしろ、多いに貢献しております」
畳み掛ける銀鬼。
「確かにな」
同意するフリードリヒ。
「あまつさえ、搾取されております」
ここぞとばかりに訴えるタンツ銀紐隊長。
「事実だな」
ゲオルクも、納得する。
「銀紐隊の待遇改善の為、城塞騎士団々長副官室人事、総入替えを、提案いたします」
あくまでも声をあらげず、淡々と言いきった。
「情報遅延は、命に関わります」
ジルベルト隊長は、ハインツ団長の眼をぐぐっと覗き込む。団長は、思わず後ずさる。
「ぜ、善処しよう」
「期待しております。失礼します」
後日、アンナ騎士の息がかかったエリート騎士達は、厳しい適正テストを受けさせられた。副官室に限らず、炙り出された不満分子が、篩にかけられた。
鍛練を怠らない者でも、不正を行っていれば、アウトだ。
根こそぎ粛清出来たのは、プファルツ隊長率いる緑紐隊のお手柄である。勿論、ゲオルクの恋人シャルロッテ・ハイムも、暗躍した。
ジルベルト達は、くれぐれもゲオルクと喧嘩しないようにしよう、と思った。
そんなこんなで、騎士団は今日も忙しい。結局、ハインツ団長は、クララ・シュタインベルクと、まだ結婚できないのだった。
次回、国の外までお使いに




