とばっちりは回避したい
今回は1話です
銀紐隊員ロベルト・ヘンデルは、華麗なる短槍使いである。槍なのに短いとは何事か、等と言ってはいけない。短いと言っても身の丈以上はあるのだし、取り回しの身軽さは、技術の高さを示している。
先の共同討伐などの、山中での乱戦では、変幻自在の活躍をした。突進する鉄爪猪に、身を低くして滑り込み、急所を突く。牙を立てんと狙う毒牙兎を払う。
速さに任せた尾羽の動きで、周囲を凍らせる氷尾長を、地面に叩きつける。刃の角を振るう刃角鹿は、脚を掬って引き倒す。
だが、そんなのは、たいして重要ではない。何故なら彼は、『雑用部隊』銀紐隊の隊員だからである。
銀紐隊の例に漏れず、彼にも立派な特技があった。人呼んで多言語マスター。
魔獣対策の国際会議が、彼の仕事場なのだ。最前線の現場に居ないと、この役は務まらない。まさしく、天職。
さて彼は、世界魔獣討伐会議定例会への、参加要請を受けていた。いつものように、資料翻訳と通訳を担当することになったのだ。
200年ぶりの大討伐を終えた、城塞都市国家ナーゲヤリと交易都市国家モーカルが、今回のメインパネラーである。普段より、彼の仕事は多い。
新しい辞書の購入申請も通り、準備は順調に進んでいた。メインメンバーとの打ち合わせは、通常より頻繁に行っている。
団長はその度に、同じ女騎士を補佐官に連れている。今までには無かった事だ。
当然噂になっている。打ち合わせに出席している、中央議会の議員は、噂を真実だと思っているような態度を取る。
婚約者しか眼中にないハインツ団長は、すこぶる不機嫌だ。
「隊長、ちょっと、いいすか」
ロベルトは、銀紐隊長室に来た。そこで勤勉に仕事をしている、残忍な眼をした大男に声をかける。彼は、部屋の主、ジルベルト・タンツ隊長その人である。
「何かあったか」
ジルベルトは、その風貌に似合わぬ気遣いを見せる。
「いやあ、ハインツ騎士団長のことなんすけど」
「ああ」
ジルベルトが、地獄の底から響くような音を出す。最早、声とも言えないような、怨念の籠った響きである。
「ご存知でしたか。流石っすね」
「いや、団長の機嫌が悪すぎてな」
「理由、ご存知で?」
「ゲオルクに聞いた」
ゲオルク・カントは、事情通である。本人は意図していないので、質が悪いと言えなくもない。
まして、最近上手くいった恋人は、情報分析が専門の緑紐隊員だ。基本性格からして、人より色々と真実に近づくのである。
「どうします?」
「これ以上、団長の雑用を押し付けられたくないしな」
団長が荒れると、銀紐に皺寄せがくる。クララ・シュタインベルクを守る以外に、関心が無い男だ。そこに専念するため、何かあれば、振れる限りの仕事は銀紐に振る。
「はあー、めんどくさいなあ」
「とばっちり喰らう前に、潰すか」
「そっすねー」
※短槍の長さは、国や流派によってまちまちのようです。
次回、ロベルトの不安
よろしくお願いします
下書き1話ぶんが、毎回3~4話に増えてしまい、目次が見にくくなりました。前回から、章分けすることにしました。
章分けが解りにくい、見辛い、等のご意見がございましたら、教えて下されば幸いです。




