ハインツ団長の行動原理
今回は1話です
ナーゲヤリ城塞騎士団長ハインリッヒ・ハインツは、心が狭い。周囲も薄々気づいてはいた。だが、一見、決断力があり気配りも出来る、よいリーダーであり続けていたのである。
ハインツ団長には、長年の婚約者がいた。しかし、いざ結婚となる時に、決まって大きな討伐が組まれてしまう。
団長は、ギリギリまで粘って出撃回避を試みる。だが、毎回、願い虚しく、討伐は実行されてしまう。
帰還すれば、暫くは後始末もある。
そもそもハインリッヒにとっては、婚約者以外、どうでもよかった。
婚約者クララ・シュタインベルクを守る事が、唯一の行動原理だ。勤勉で面倒見が良いのは、総てクララを守る力を育てているに過ぎない。
そんな団長の鼻先で、さっさと結婚してしまったジルベルトを、ハインリッヒは、苦々しく思っていた。
そこを、勘違いした女性がいた。
仲睦まじいタンツ夫妻を見て、団長が不機嫌になるのは、婚約者と上手く行っていないからだと考えたのだ。
「団長、お可哀想に。なかなか婚約解消出来ないのね」
女騎士アンナは、夕食の席で同僚に話す。
「えっ、そうなの」
「そう言えば、婚約してから長いよな」
噂はたちまち広がった。
ハインリッヒ・ハインツ団長は、むしろ、早く結婚したいのである。
度重なる結婚延期にも関わらず、静かに待っていてくれる。クララは得難い女性なのだ。
「団長~、なんか変なことになってますけど?」
情報部隊である緑紐隊の隊長、フランツ・プファルツが、心配そうに顔を出す。
「何の事だ」
「最近、会議のお供、いつもアンナ騎士でしょ」
「そのようだな」
「まずくねぇですか?」
「何がだ。補佐のローテーションは、副官どもに言え」
団長は、興味無さそうだ。
「ずいぶんアンナ騎士が、かいがいしいって噂んなってます」
「仕事出来なきゃ、副官の意味がない」
「そうじゃなくて」
団長は、意に介さない。煩そうに、書類を繰り始めた。
「用がないなら帰れ」
「噂を何とかしないと、本当に婚約破棄されちゃいますよ」
「何?下らん」
ハインツ団長にとっては、どうでも良いことだ。クララが離れて行くなんて、あり得ないと思っている。
「副官室の連中が、一丸となって動いてますぜ」
「好きにさせておけ」
「あいつら、中央議会の偉いさん達も抱き込んでます」
「は?」
「クララさんのご両親のお耳に、そろそろ届きそうですぜ」
さすが、緑紐の隊長。情報の動きは、常に最先端を掴んでいるようだ。
ハインツ団長は、不機嫌に唸る。
これまで築いてきた信頼関係も、悪意を持って突かれたら、案外脆く崩れてしまう。
クララは、大丈夫だ。だが、その両親は?
例え噂は嘘だったとしても、娘の不名誉な評判を放置した男を、許すだろうか?
団長は、手を止めて、対策を練る。
次回、とばっちりは回避したい
よろしくお願いします




