魔獣のめざめ
今回は1話です
取り敢えず、子犬のゴワちゃんが走って行ったと言う方向へ向かう。石畳の街路には、掃除をする住人達がちらほら残っている。鞄を抱えて出勤中の人々も、忙しそうに通って行く。
「すみません」
掃除の人に、声をかける。
「はい、なんでしょう」
青白縞のエプロンを掛けた、人の良さそうなおじさんが、手を止めて話を聞いてくれた。
「うーん、その時間は、外を見てないからなあ」
「なにか普段と変わったことは、ありませんでしたか?」
「何でもいいんです」
ジンニーナの質問に、ゴワちゃんのおばさんも付け加える。
「そうねえ」
そこへ、朝市帰りの食堂の主人が通りかかった。
朝市は、南広場で毎朝開催されている。南広場は、南にあるナーゲヤリの出口付近だ。
「おう、オヤジ、犬みなかった?」
お掃除おじさんは、気さくだが、かなり大雑把な性格のようだ。
「犬ぅ?迷子か?どんな」
おばさんの不安そうな様子で、食堂の主人は、迷子犬探しだと察する。
「どんなだっけ」
おじさんが、ジンニーナとおばさんの方を向く。
「茶色くて、ゴワゴワの短い毛です。体は縞模様の」
「そうだなあ」
「今朝、この道をあちらへ逃げちゃったみたいです」
「うーん、あっ、そう言えば」
食堂のオヤジさんが、何かを思い出した。聞いていた3人は、一斉に身を乗り出す。
「いや、でもなあ」
「何でも、いいんです」
「気になったことを」
オヤジさんが言い淀むと、女性2人が畳み掛けるように、先を促す。
「犬って言うか、瓜坊がよう」
おばさんは、あからさまにガッカリする。ジンニーナは、それだ、と思う。
「何だか、眼を血走らせて、走ってたな」
「何処で見ましたか?」
「ありゃあ、南広場の近くだったかな」
「いつ頃です?」
「ちょうど朝市が始まった頃だね」
おばさんは、ジンニーナの様子に不満そうだ。ゴワちゃんが、瓜坊に見える事は、解っているのだろう。そして、それを嫌がっているのだ。
普段は、気を使って、それを指摘しないジンニーナである。だが、今は、情報を得る方が先決だ。
「けどよう、おばちゃん、ありゃちっとやべぇよ」
「何が」
ゴワちゃんの飼い主が、気色ばむ。
「な、何って。眼が紫だったぜ」
「はっ?」
飼い主さんは、お怒りである。今にも立ち去りそうだ。
だが、ジンニーナは、この目撃談の瓜坊が、ゴワちゃんだと確信した。
「出来れば、正確な目撃場所を、教えて下さい」
赤毛の魔女が、声色を変える。愛らしい猫目が、キリリと吊り上がる。完全に、お仕事モードになった。
次回、ゴワちゃんママの涙
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