その手を伸ばして掴み取れ
今回は、2話
R2/9/13 23:00,R2/9/14 0:00
用意してきた後処理道具で、ゲオルクは、手早く熱嘴鷹の死骸を片付ける。
「大丈夫か」
ズボンの脇で手を拭い、ゲオルクは、緑紐隊員シャルロッテ・ハイムに、手を差し出す。へたりこんで居るわけではないが、熱嘴鷹が起こした真空によって、狭い露地には、瓦礫が山となっている。足元は危ないのである。
今回もゲオルクは、ごく自然に手を延べたのだ。運動能力の低い者には誰であろうと、瓦礫を越える手助けをしただろう。
「え、あ、はい」
シャルロッテは、気が抜けたのか、間抜けな顔をする。あんなに待ち望んでいたゲオルクの手が、目の前にある。それなのに、ただぼんやりと銀紐隊ナンバー4の男を、眺めていることしか出来ない。
ゲオルクは、がっかりした。
(あの時の反応は、思い過ごしだったか)
下心があっての事ではなかったが、いざ、差し出した手を不要とされると、幾分か傷付く。
(急に男に手を捕まれたら、戸惑うよな)
中央広場での出来事も、後ろ向きに納得する。ゲオルクは、気まずそうに、出した手を引っ込めた。
「ありがとうございました。報告は一緒に行きますか」
青紐隊員の色男が話しかけてくる。
「ああ、そうだな。本部に行こう」
その後、ゲオルクは、銀紐隊にも報告義務がある。私情にかまけている暇はない。
騎士団本部で報告が終わると、青紐隊員は、自分の隊に戻って行った。シャルロットは、立ち去らず、ゲオルクの持つ袋を見た。中には、熱嘴鷹の死骸が入っている。
「あの、それは、どこで処理するんですか」
「隊で灰にする」
銀鬼の雑用である。銀紐隊員は、隊長の愛剣、溶解魔剣メルトを、生ゴミ焼却道具か何かだと勘違いしている節がある。
「今日は、『お使い』無い筈だから、隊長居るだろうし」
「ああ、最近お忙しいみたいですね」
「留守が多くてな、副隊長2人に皺寄せが行ってる」
「団長に掛け合えないんでしょうか」
2人は内心、会話が続いて浮かれていた。巡回中も、多少の雑談はするが、警戒を怠れないので、会話が続く程の安心感はない。今は、報告だけを残して、仕事は終了している。
リラックスした状態で、共にいるのは初めてだった。2人は、心地よい空気を共有している。
「隊長、真面目だからなあ」
「言われた仕事は、受けちゃうんですかね」
「不満ではあるみたいなんだがな」
『何でも屋』等と茶化しながらも、ジルベルト隊長は、新婚なのに過労じゃないかと、ゲオルクは少し心配だ。
「銀紐のタンツ隊長は、優秀過ぎて、頼られますからねぇ」
シャルロッテが、ジルベルトを「雑用係」とは思っていないのを知り、出来る女だな、とゲオルクは感心する。
「上からも、下からも、便利に使われてんな」
ゲオルクだって手伝ってはいるのだが、やはり規格外の人物には、ついつい甘えてしまうのものだ。今だって、血の染みだした魔獣入りの袋を、処理して貰おうと思っている。
次回、赤い鎖は縁結び
よろしくお願い致します




