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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第一章・魔獣防衛都市ナーゲヤリの人々
24/110

韋駄天ゲオルク

今回は、2話です。

R2/9/12 23:00,9/13 0:00

 剛剣遣いゲオルクは、城塞都市国家ナーゲヤリの入り組んだ街路を走っている。巡回担当騎士からの連絡で、死の平原側から侵入した魔獣の討伐に参加するのだ。


 魔獣は高速旋回で翻弄してくる、『熱嘴鷹(ねっしよう)』である。綺麗に鷹班の入った小型の鷹だ。眼が毒々しい紫色。嘴は鼻の辺りが緑で、全体は灰色である。攻撃するときは、嘴と爪が灼赤(しゃくせき)に熱せられる。


 スピード勝負の討伐に、俊足ゲオルクが呼ばれた。巡回騎士直々のご指名なので、ジルベルトに押し付けられる事はなかった。何でも屋呼ばわりされている銀紐隊長は、久しぶりに、本来の隊長職を全う出来そうだと、嬉しそうだ。



「ひょ~はえぇー」

「ゲオルク気合い入ってんな」

「愛しのシャルロッテちゃんからの、呼び出しだからね」


 そう、巡回騎士とは、ゲオルクを我が手に収めんと狙っている、情報特化の緑紐隊員シャルロッテ・ハイムである。互いに素知らぬ風をしているが、ゲオルクもまた、シャルロッテの心を掴もうと苦労しているのだ。


「なんつーか、意味ねぇ駆け引きしてんよな」

「駆け引きっつうか、どっちも仕掛けられてる事、気付いてねぇよな」

「めんどくせぇな」

「ゲオルクらしくねぇよな」



 副隊長室で、コーヒー休憩中の既婚者達は、これでも一応、ゲオルクの心配をしているのだ。窓から見えた、風のように走る剛剣遣いの残像に向かって、溜め息を吐く。



 だが、今日のゲオルクには、希望があった。スピードスター『熱嘴鷹(ねっしよう)』の嘴から、シャルロッテを救うのは、勿論である。しかし、そのあとに、気遣う言葉のひとつでも掛けてやって、反応を見る腹積もりだ。


 ゲオルクが突然積極的になったのには、理由がある。先日、音波雀(オンパジャク)から逃げ出した時の事だ。


(あれは、可愛かった)


 ゲオルクはあの時、魔獣の出す超音波の(さえずり)から、鼓膜を守ってやる為に、シャルロッテの耳を塞がせた。シャルロッテ・ハイムの両手を掴み、彼女の耳に当ててやったのである。


 ゲオルクとしては、咄嗟の行動であった。目の前にいた相手がシャルロッテではなかったとしても、同じことをしただろう。



 しかし、急な行動であったが故に、予想外の好反応を得られた。シャルロッテは、小さく


「きゃっ」


 と叫んで、顔を赤らめたのである。頬が色着いたのは、ほんの一瞬であった。直後に、魔獣による危機を告げたゲオルクの大声で、キリリと顔を引き締めたからだ。


 あの反応は、突然、大男の武骨な手に捕まれた驚きではなかった。可愛らしく照れた様子を見せていた。


 ヴィルヘルムやフリードリヒの妻が、夫に見せる表情だ。赤毛の大女ジンニーナですらも、しおらしく見えてしまう、恋する女性の顔付きである。

次回、狭路の血痕


よろしくお願いします

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