韋駄天ゲオルク
今回は、2話です。
R2/9/12 23:00,9/13 0:00
剛剣遣いゲオルクは、城塞都市国家ナーゲヤリの入り組んだ街路を走っている。巡回担当騎士からの連絡で、死の平原側から侵入した魔獣の討伐に参加するのだ。
魔獣は高速旋回で翻弄してくる、『熱嘴鷹』である。綺麗に鷹班の入った小型の鷹だ。眼が毒々しい紫色。嘴は鼻の辺りが緑で、全体は灰色である。攻撃するときは、嘴と爪が灼赤に熱せられる。
スピード勝負の討伐に、俊足ゲオルクが呼ばれた。巡回騎士直々のご指名なので、ジルベルトに押し付けられる事はなかった。何でも屋呼ばわりされている銀紐隊長は、久しぶりに、本来の隊長職を全う出来そうだと、嬉しそうだ。
「ひょ~はえぇー」
「ゲオルク気合い入ってんな」
「愛しのシャルロッテちゃんからの、呼び出しだからね」
そう、巡回騎士とは、ゲオルクを我が手に収めんと狙っている、情報特化の緑紐隊員シャルロッテ・ハイムである。互いに素知らぬ風をしているが、ゲオルクもまた、シャルロッテの心を掴もうと苦労しているのだ。
「なんつーか、意味ねぇ駆け引きしてんよな」
「駆け引きっつうか、どっちも仕掛けられてる事、気付いてねぇよな」
「めんどくせぇな」
「ゲオルクらしくねぇよな」
副隊長室で、コーヒー休憩中の既婚者達は、これでも一応、ゲオルクの心配をしているのだ。窓から見えた、風のように走る剛剣遣いの残像に向かって、溜め息を吐く。
だが、今日のゲオルクには、希望があった。スピードスター『熱嘴鷹』の嘴から、シャルロッテを救うのは、勿論である。しかし、そのあとに、気遣う言葉のひとつでも掛けてやって、反応を見る腹積もりだ。
ゲオルクが突然積極的になったのには、理由がある。先日、音波雀から逃げ出した時の事だ。
(あれは、可愛かった)
ゲオルクはあの時、魔獣の出す超音波の囀から、鼓膜を守ってやる為に、シャルロッテの耳を塞がせた。シャルロッテ・ハイムの両手を掴み、彼女の耳に当ててやったのである。
ゲオルクとしては、咄嗟の行動であった。目の前にいた相手がシャルロッテではなかったとしても、同じことをしただろう。
しかし、急な行動であったが故に、予想外の好反応を得られた。シャルロッテは、小さく
「きゃっ」
と叫んで、顔を赤らめたのである。頬が色着いたのは、ほんの一瞬であった。直後に、魔獣による危機を告げたゲオルクの大声で、キリリと顔を引き締めたからだ。
あの反応は、突然、大男の武骨な手に捕まれた驚きではなかった。可愛らしく照れた様子を見せていた。
ヴィルヘルムやフリードリヒの妻が、夫に見せる表情だ。赤毛の大女ジンニーナですらも、しおらしく見えてしまう、恋する女性の顔付きである。
次回、狭路の血痕
よろしくお願いします




