山中の血戦
R15 血糊少なめ 閲覧注意
今回は、2話です。
R2/9/11 23:00, 9/12 0:00
山の中で、立ち往生している中年男が居た。どうやら、肉や山菜を採りすぎて、上手く進めなくなったようだ。
「おーい、何やってんだ、おっさん」
「荷物減らせよ」
「騎士さん、ちょうどよかった!」
「持たねぇぞ」
聞けば、彼は最近婿入りした居酒屋付きの宿屋で、仕入れを任されたのだと言う。言い付け通りの量を採ったら、動けなくなったらしかった。
「親爺さん、ここは危険です」
ジルベルトが、丁寧に説明した。
「光線眼熊が出たんですよ」
「そんなあ、じゃ、騎士さん、麓まで手伝って下さいよ」
「持たねぇからな」
フリードリヒ・ブレンターノは、釘を刺した。
ざくざくと重たい音がして、振り向けば、熊が居た。普通の熊より一回り大きいが、目立った特徴はなかった。
熊の眼が、微かに光った。
その時であった。若き日のジルベルト・タンツは、咄嗟に投げた拘束鎖分銅バインドで、魔獣である熊の光線眼を潰し、首を閉めたのである。
「ひいっ」
光線眼熊は、目線に横一文字の血を流して、首を閉める銀色の鎖から千条の赤を滴らす。その光景に、宿屋の婿は、腰を抜かした。
タンツの騎士靴が、足元の枯れ葉を蹴る。と、思う間もなく、溶解魔剣メルトの燃える刃が、魔獣の首を落としていた。手元には、鎖分銅バインドが戻った。
倒れかかる光線眼熊を、風裂魔剣カットが襲った。
「おぉ」
「えげつねぇ」
「おっさん、大丈夫か」
ゲオルクが、宿屋の男に手を貸して引き起こしたとき、
「ゲオルク、走れっ」
叫んだ若きジルベルトは、双剣を手に、光線眼熊の残骸を飛び越えた。
その気迫に、俊足ゲオルクは咄嗟に男を担ぎ上げて、山道を駆け降った。毒矢遣いフリードリヒが、弓を手にジルベルトを追う。ヴィルヘルムも、戸惑いながら後に続いた。
周囲には、普通の熊どころか、鹿や卯すら見えない。小鳥の声が止んでいた。ジルベルトは、巨体を感じさせること無く、しなやかに木々を縫う。従う2人も、軽やかに落ち葉を蹴立てて、斜面を降りて行った。
ジルベルトの殺気が消えた。続く2人も気配を消した。
前を走るジルベルトが、手を軽く上げて合図を送った。ジルベルト、ヴィルヘルム、フリードリヒの3人は、速度を落として木の幹に隠れた。
山のこの場所には、3人とも初めて来た。目の前に、巨大な岩穴があった。獣よりも濃い、魔獣の臭いがした。
新人2人が息を飲んだ。
ジルベルトは、その酷薄な薄紫の瞳で、大穴を睨んでいた。やがて、のそりと大熊が姿を現した。
続いて、同じくらいの大熊が、数頭出て来た。みな、ただの熊ではない。
ジルベルトは、長剣を振って熱風を送った。熊の先頭集団が、眼を潰されて怒り狂った。閉じた瞼から血の涙を流して、光線眼熊どもが、一斉に立ち上がった。
「眼を潰せっ来るぞ!」
ジルベルトが怒鳴った。大木の幹がビリビリと震えた。
次回、熊はご馳走
よろしくお願い致します




