増殖を止める糸口を掴む
フリードリヒは、魔法で処理した特殊な保存容器に、目の前を流れる川の水を詰める。移動しながら実験する分の他に、きっちり梱包して荷物に収納する分も多く用意する。持ち帰って詳しく調べるためだ。
「まだ断言は出来ねえすけど、海の魔獣が増殖したのが今回の大量発生を生み出したっぽいですぜ」
各地からナーゲヤリに送られてくる情報は、死の平原縦断中もジークフリート・エルンストが受信している。受け取った情報は、ロベルトが翻訳する。必要に応じて、分析官シャルロット・ハイム緑紐隊員の意見を聞く。
死の平原で経験した事の記録も、貴重な判断材料となる。
「大元を浄化出来れば、緩やかにだが終息に向かう筈だな」
「はい、隊長。俺もそう思います」
フリードリヒが、ジルベルト・タンツに同意する。
「原因とおぼしき海域に、ここの水が撒けるといいんだが」
「必要な分量も検証しねえと」
「薬屋の出番だな」
「任しといて下さいっす」
「噴霧機巧を水空籠につけよう」
フリードリヒが実験に意欲をみせれば、ヴィルヘルムも海へ出る乗り物を改良する気概を語る。
「誰でも扱えるんじゃねえとな」
他国をも視野に入れて、副隊長2人の開発が始動する。
死の平原の真ん中で幾日も立ち止まるわけにはいかない。銀紐隊の15人は、目の前にある川を越える準備を始めた。
「ジーク、砦のほうはどうだ?」
「はい、ようやく手応えがあったっす」
世界一の通信技術者ジークフリートの技術と、多言語マスター・ロベルト・ヘンデルが協力して、遠くに見える砦へと通信を試みていたのだ。
川の彼方側に見える砦が、人間のものとは限らない。
今までジルベルト達が知り得た魔獣には、建造物を造るような種類は居なかった。しかし、世界中を旅してきた大魔法使いジンニーナによれば、遠い昔の記録には知性を持ち国を作る魔獣の記事があるという。
「古すぎて、記録というよりも伝説だけどね」
「敵国を比喩的に表現したんだろ」
「まあ、そうよね」
ある日のタンツ家の食卓では、そう言って片付けられた。
とは言え、まともな生き物が存在するかどうかも解らなかった、死の平原を越えた向こう側の砦である。安易に人だとも考えられないのが人情であった。
「海の向こうから来るスパイス商人達が話す方言が通じたっす」
「でかした、ロベルト」
ロベルトの報告に、フリードリヒが手放しで喜ぶ。
「ほんとかよ。人間いたかあ」
ヴイルヘルムは感慨深そうだ。
「また随分と癖の強い言葉が通じたな」
ジルベルトは、しみじみと言う。
「スパイス商人は、貪欲なんすよ」
ロベルトによれば、海の向こうに住むスパイス商人は、世界中で手広く商売をしているのだと言う。
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