川
ジルベルト・タンツ率いる銀紐隊は、15人欠けることなく森に沿って進む。皆が皆、元気一杯である。
死の平原への遠征がたまにあったとは言っても、これまでは精々3日程度だった。しかも、今までの増殖だの大量発生などとは比べ物にならない程に魔獣が襲いかかってくる。
そんな中でも銀紐隊の15人は、常と変わらず暮らしている。
雑用隊とか、吹き溜まりとか、事情を知らない騎士団員やナーゲヤリ国民は、銀紐隊を揶揄する。
彼らの技術に統一性は無いし、皆が皆自由人に近い。
ちょっと目を離すと、勤務時間内に死の平原へ個人で出掛けてしまうような連中だ。キリリとしたナーゲヤリ城塞騎士団の他の隊とは、随分と雰囲気が違う。
周囲から見れば、不真面目にサボっているようにしか見えない。だから、どの隊にも頼まないような雑用を回されるのだと言われていた。
ジルベルト隊長だけは、真面目である。それが恐らく彼を隊長に据えた最大の理由であった。
彼は典型的な堅物ではあるが、その並外れた身体能力によって、やはり一般人とは感覚がずれていた。
団長の思惑とは違って、ジルベルトもやはり、銀紐隊に来るべくして来た男なのである。
さて、散歩でもするような調子で、彼等むさ苦しい男達は死の平原を行く。ジンニーナの遠隔魔法で守りに隙がない今、彼等は殺到する魔獣を作業のように打ち倒す。
「いや~。風景変わんないっすねー」
曲げた肘を軸にして籠手を外側に振り下ろしながら、副隊長ヴィルヘルム・フッサールが言う。機械のように腕を上げたり下げたりする間に、森から飛び出す様々な魔獣が、再び森へと打ち返されてゆく。
進化したヴィルヘルムの仕込み籠手は、ただ打ち返すだけではなく、毒の刺を刺しながら叩いていた。
「案外大したことないすね」
もう一人の副隊長フリードリヒ・ブレンターノは、そう言ってだるそうに魔獣避けを噴霧しながら、たまに弓を取り出す。
3人組の最後、銀紐隊ナンバー4のゲオルク・カントは、せっせと大剣を振り回している。
「お前らもうちょっと緊張感を持て」
ジルベルト隊長が、呆れた声を出しながら、長短の双剣と愛用の鎖分銅を操る。
後に続くその他の11名は、最早引率されて移動中の、遠足している子供達のようだった。
「はー、やっと登り終わった」
わざとらしく大きく息を吐きながら、優男ヴィルヘルムが足を止めた。だらだら続いた登り坂は、かれこれ2日も続いていたのだ。
それでも銀紐隊は、建物内の階段でも登るように平然と魔獣蔓延る丘を登った。
上り坂が終わると、眼下に川が見えた。流れる水は清らかで、毒々しい色合いは見られない。川は、森から流れ出て平原を横ばいにのたくっていた。
川を越えてなおしばらく進めば、遠くに見える砦に辿り着けるだろう。
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