飢え
承
勤め人a
この人は、私を外に連れ出してくれた様だ。
「ここから駅を出られますね。もう遅い時間ですが」
「ええ、そうですね。本当にありがとうございました」
ようやく自由になった。笑みが深まる。もう、抑えられない!
まあ、少し話を聞いておこう。
「ところで、あなたはこれからどうするのですか?」
「家に帰りますよ。あなたはどうしますか。未だ迷子のままならもう少し私についてきますかね?少しお酒でも飲みませんか?寝床くらい貸しますよ?」
「では、お言葉に甘えさせて貰います。未だに迷子なんですから。本当にどうしようもなくて」
後、少しだけ。
少し歩く。雲が漂っていて、暗くも明るい夜道は、冷やりとも、温いとも感じる。
行ったり来たりな気温と、後少し届かないその時とがなんとも心地好い。
まだ遠いのだろうか。少し焦れてきた。
「ここからどの程度歩くのですか?」
「まぁ、あと数分といったところですよ」
「よかった。少し疲れてきてしまって」
「そうですか。あと少しですから」
あともう少し、かぁ。
「ここですよ」
まじですか。
「立派なお家ですね」
冷や汗をかいてきた。この人は悪い人だと思っていたのに....いや、慎重に油断させてきてから襲う性分かもしれない。しかし、それならそこらの悪人を探すべきだったか。仕方ない、抜け出さねば。善人を襲う前に。
「お邪魔します」
「はいはーい(笑)」
何とも軽妙な返事を聞く。線路に侵入したことを除けば、どこか明るく、なんとも楽しげに生きているこの人がどんどん悪人には見えなくなってきた。
「こっちに来てよ」
「あ、はい!」
何かフランクになってないか?
「こんな缶のしかないけど、乾杯しよ?」
どうしよ?
「頂きます(笑)」
「口上はいいよね。それでは、乾杯!」
「乾杯」
上手く笑えていただろうか。もう、飢えが近い。
相手をみると、妙に白く、また妙に紅い顔で缶酒を呷っている。このペースだと、はやくに酒が尽きてお開きになるかもしれない。
「月が綺麗なんだから、風に当たりながら月見酒にする?お猪口も出すから」
「月が好きなんですね(笑)。いいですね。行きましょう!」
私も酔ってきたのか他のことを考えていても会話ができる様だ。気付くと、月を見上げて、私に目を向けて、酒の缶を目で探す相手が横にいた。
「お酒、足りるかな?」
「(笑)」
いや、お猪口を出してもいないし、気付くと空いていない缶も増えている。逃げるなら、一缶飲んでお手洗いを借りることができればいいだろう。
「綺麗なまるい月だね」
....?
「今日、満月でしたっけ」
「綺麗な満月だよね。およそ1ヵ月振りの満月だ。あぁ、君は夜の怪だからいつも満月をみてるのかい?大変だなあ。この希少性を、満月という価値がない世界に生きるなんて」
なんと、私が厳密には人間でないことに気付いていた様だ。
とりあえず、どうしたものか。
「どうし」
「とりあえず飲もうか(笑)」
気付くと、彼の明るさはどこか暗くなっている。
それから、缶を口に宛がわれた。
「これはね、君達のための飲み物だから。知ってるかい。夜の怪はアルコールに酔えないんだぜ」
頭はどんどん上の空を加速させる。空回りしている気もする。
「ここで休むといいよ、新人さん(笑)」
フッと気が落ちる前に急に見え始めた周りには、悦ばしげな人と一般的な部屋があった。直ぐに暗くなった。
一度内容が消えると、同じ書き方ができなくなってしまいました。
なんだか、展開が私の想定を外れていきます。収拾をつけなければ。
因みに、今の一人称は種族的に吸血鬼の様な何かです。