渇き②
前:喉が渇いた。
勤め人a
線路の上をそこそこ歩いた。切り立つコンクリートとフェンスが壁になっていて、どうやら駅をみつけるまでは線路から出られない様だ。
薄氷を踏みつける様な音がする。私の足音ではない。何か声を出せば反応が返ってくるかもしれない。しかし、声を出すには頭が重くて、無視して進む。見つかるか見つけられるかを待ち望む。
「こんばんは月も綺麗で素敵な夜ですね。して、あなたはどうしてここに?」
人を発見した。直ちに返答せよ。
「こんばんは。寝ぼけていたのか、見知らぬ所にいて。気付くと線路沿いを歩いていたんです」
「成る程、迷子ですかね?未だにここがどこだかわかりませんか?」
「はい。さっぱりです」
「そうですか。よければ私についてきますかね?もう電車もあまり通らないけれど、線路から出ないとやはり危ないし?迷子のままだからね」
「ありがとうございます」
ニコニコと笑っておく。何だか楽しくなってきた。線路の世界はどこも未知で、ちょっとした旅の様で。
「ところで、あなたはなぜこの線路の上にいるのですか?私の様にぼけていた訳でもなさそうですが」
「そうですねぇ、月に見惚れて迷いこんでしまったのですよ。いや、帽子が風に乗っていってしまってね。それで上を見上げると、まあ綺麗な月が燦然としていて。駅員も誰もいなかったものだから、つい入りこんでしまったのさ」
「成る程、確かに綺麗な月ですから」
でも、それだけではないのだろう。今日は満月でもない。だから、人を狂わせる力もあまりない筈だ。明らかにこの人のモラルが薄い。何を考えているのだろうか。
まあ、いっか。
「私にとって、気付くと見知らぬ所にいたことも、線路沿いを歩いたこともないのですが、ワクワクしますね」
「(笑)。それは、よかった」
「あなたのお陰様ですね。ところで、これからどれくらい歩くのでしょうか」
「そうですね。そこそこ歩きますね。おそらく15分はかかると思います」
「そっかぁ。結構歩くんですね?楽しい道程がありますね」
その後は、話が途切れたけれど、気まずい雰囲気を味わうことにはならなかった。
「(笑)」は、おかしいかもしれません。
少し文量の不足を覚えて長くしていたら、私が少し迷子になりました。
申し訳ありません。
これからも続きます。