目覚めと気付き
勤め人a
いつかの帰路の話である。
気付くと、見知らぬ所にいた。周りに日の光はなく、冷たい街灯か、月かが光る空気はどこか薄寒い。
「……やー、此処はどこなんだか……」
暗い雰囲気に耐えかねて独り言を洩らす。すると同時に何かの存在感を感じて注視すると、薄い人形がみえた。その人形は奇妙で、気持ち悪くなり目を背け歩き出す。
私は無神論者で、怪奇現象もみたことはない。きっと、目を塞いで蹲っていても何も起きないだろう。ただ、雰囲気は怖いし、場所がわからないのは奇妙だ。とにかく動かねば。此処から出て、家を目指すのだ。
薄く金属音が聞こえる。それは断続的であり連続的だ。いつまでも反響していき、大きくなっている。
それは、音源が近付いてくる様だ。独り言でも呟いて気を紛らわせたいのだが、人形をみた後で声を出す勇気はなかった。
ただ粛々と歩く。
──リィーーーンン──
ハッとした。ここは、線路の上だ。何故、こんなところに?反射的にホームを目で探し、乗り込もうとする。しかし、ホームは遠くにあるようで、見回す限り線路ばかりだ。気付くと電車は目の前で、ガタゴトと駆動音が聞こえる程だ。咄嗟に、避けようとはしたのだけれど、怯え、縮こまって歩いていた私は急に動くことができなかった。全身を硬直させ、電車を直向きにおいてただ轢かれることを待つのみ。
だったのだけれど、違和感があった。電車に触れまいとした時には、既に違和感を言い表すことさえできただろう。
とにもかくにも、私は生きていた。助かったのだ。生の実感は、とみに私を疲れさせて、心音とともに全身が血を寄越せと訴える。
「あぁ」
直ぐに、線路から出よう。此処では、生きた心地がしない。喉も渇いたし、誰もいないのだから。早く出なければ。疲れて動けなくなるか、鉄道営業違反で書類送検されて前科犯になってしまう。
ご容赦ください。
初長編