主人公 かえで
あんなに綺麗な訳ない、広告は嘘ばっかり。揉みくちゃにされる満員電車で、ふと結婚相談書の広告が目についた。
何かをこれから初めてみようかな、と思っていそうな顔。でも決してゴリゴリと勢いよく大きなことをしでかそうとはしていない表情。そこがちょっと身近過ぎて鼻につく。
きっとそれが広告の狙いだろうとみちこなら言うだろう。
でも私はそんか彼女の表情よりも、その肌の綺麗さに目がいく。化粧の下にはまたニキビができた。多分、ストレスだ。
毎朝鏡を見ると憂鬱になるけれど、化粧台にある液体たちが私を素敵に変えてくれる、と信じてる。
元カレのだいちにスッピンも綺麗だね、って言われたことがある。なんだか苛つく。ご機嫌とりのようなその台詞。裏を返せば私は化粧が下手ってこと?
いくら頑張っても広告の彼女のように、シミひとつなく、化粧の感じを隠した綺麗な肌は作れない。
電車が地下に入った。
それまで夜景を写してた車窓が暗くなる。
すると目の前の多分50代くらいのおじさんのスマホが反射されていた。
私はこういうとき気づかれないように覗いてしまう癖がある。
まるでその人の、人間の本性を見ているようでホッとする。飾られた広告とは違った生の世界が好きだ。
きっとそのおじさんは部長クラスくらいだろと顔のシワから読み取れる。
メガネをかけ眉間にシワを寄せそそくさとスマホを操作していた。
ツムツムだった。