第20話 サイドチェンジ4 舞い降りた黒き翼 《マリアベル》 後編
大聖堂に着くとナイトウイングスのメンバーが集まっている。ざっと4、50人はいた。こんなに多くのメンバーが来ていたのか!私はキサラギの背中を追いライトの元まで行った。
「光斗、どうなっているんだ?」
キサラギの質問に私も興味を持つ。
「もう少しで楠木君達が到着する。そうしたら説明するよ」
私は黒板の数字を見る。青114、黄64、黒46。あれから100人近く救助出来た。
「姫様。各学校の子供達は全員救助出来ましたよ」
ライトが微笑みで話し掛けてきてくれた。私はライトの手を取り両手で握り締めた。
「感謝する。子供達を、国の未来を救ってくれて」
私の頬を涙が濡らす。
「でも、まだ60人以上の要救助者がいます。ここで撤退は悔しいですが、メンバーの命を最優先で此処に来ました。後の事はお願いします」
ライトが私に頭を下げお願いする。違う。此れは私達の問題だ。軍が救助活動に加わっていればもっと多くの人を救えたはずだ。しかも其の軍はナイトウイングスを捕らえに来るなど狂気の沙汰だ。国民の命より他国の脅威に力を注ぐ愚王。
(此のままで良いのか?)
「光斗君!遅くなったゴメン!」
「楠木君、お疲れ様~。おかげで学校の子供達を全員救助出来たよ。よし!全員揃ったので状況を説明する」
ライトの声に彼等だけではなく、僧侶達、街の人達も耳を傾けていた。
「現在迄の死亡した人の数は46人。救助出来た人は114人、まだ瓦礫の下にいる要救助者の数は64人だ。しかし国王に俺達の事が知られたようだ。間も無く軍隊が此の大聖堂に到着する。俺達は其の前に此処を撤収する!」
「いいのかよ光斗!」「まだ助けないといけない人達が沢山いるのよ」「瓦礫の下で苦しんでるんだぞ」
暖かい涙が私の頬を濡らした。敵も味方も関係ない。彼等は純粋に人助けをしている。我が国民を憂いている。
しかし我が国の対応はどうだ。国民も助けず、救助に来た者を捕らえようとする。
(此のままで良いのか?)
「みんなありがとう。でも作戦開始時に言ったようにメンバーの命が最優先だ。口惜しいけど撤退する!」
其の言葉に街の人々は肩を落とす。救いの手が去ってしまうから。彼等を引き留める資格が我が国に無いから。そして其れを作ったのは私達王家だ。
(其れで良いのか?)
「彩月、岡本さん。帰り支度をお願い。5班から順に帰宅。裏メイド隊は殿をお願いする」
「「「了解」」」
「マリアベル様。少しいいかな。地震発生から6時間が経過しています。人命救助の目標時間は48時間。74時間を過ぎると死亡率が上がっていくと言われてます。取り残されている人達を、一刻も早く救助して下さい。お願いします」
彼等は知っていた。瓦礫の下敷きになっている人達の命の時間を。だから彼等は迅速に行動を起こした。敵国である我が国民の為に……。
「マリアベル様、もう1つお願いがあります。サツキサン。下水道のマップを出してくれ」
「イエス、マスター」
「高山さん。転写をお願い」
ライトは黒板を裏にし其処には下水道の地図が一瞬にして描かれた。リコが持っていたスマホも風景を切り取る魔法を持っていたが此れも同じ魔法なのか?
「マリアベル様、此れは此の街の下水道地図です。そして……」
ライトは幾つかの場所に×印を付けていく。
「此の×印の場所は水路が崩れて汚水溜まりが出来ています。街の復興は此の下水道修復を優先して下さい」
其れを見て聖下様がライトに頭を下げた。
「感謝致しますライト様。此れでまた街の民が何百人と救われました」
「どういう事ですか聖下様?」
「疫病です姫様。汚物が溜まり異臭を放ち始めるとペストや黒死病等の疫病が発生する場合が有るのです。街の営みが回復する前に修繕しておく必要が有るのですよ」
「俺達は此処までしか出来ません。後は頼みましたマリアベル様」
涙が出て来た……。ライト達ナイトウイングスに対する敬意の涙だ……。人はこんなにも優しくなれる。ライトの言った言葉を私は一生忘れないだろう。人を救う気持ちに国境など無いのだ。
(此のままで良いのか?)
私の胸の中に響く声がある。
誰?
此のままでいいはずが無い。しかし私は……。
大聖堂の門の方で街の人々が騒いでいる。私達は大聖堂から庭先に出る。門の前迄来た軍を、街の人々が人垣で門を塞ぎ睨みあいをしていた。
「帰れ軍隊!」「絶対中に入れさせるな!」「救世主様達を守るぞ!」
国民が軍に立ち向かっている。今までこんな事は無かった。重い税を課せられても、餓えの年に食べ物を徴収されても、我慢して耐えてきた人々が、ライト達を守る為に軍に立ち向かっている。
「貴様ら其処をどけー!貴様らは誰を匿っているか分かっているのか!敵国ラグナドラグーンのナイトウイングスだぞ!」
「ふざけるな!救世主様達は俺の子を瓦礫の中から救い出してくれたんだ!」「あたしの子もアイザワ様が助けてくれた!」「うちの子もクスノキ様が助けてくれた!」「大怪我をしたオヤジをハルカ様が治してくれた!」「帰れ軍隊!」
「「「帰れ!、帰れ!、帰れ!、帰れ!、帰れ!」」」
「黙れ!」
な!軍を引き連れて来た将軍が剣を振るい、前にいた男性を切りつけた。
ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!
私は人々を掻き分け前に進む。
(此のままで良いのか?)
良いはずがないだろう!
(マリー、国とはいったい何だ?)
国とは……。
私が小さかった頃、父が私に言った。
『マリー。国とは国民が幸せになる為に有るんだよ』
そうだ!国とは国民の為に有る!其の国民が苦しんでいるのだ!国民を助ける国、私が其れを創る!
私はついに将軍の前に出た。
「此れは、此れは前国王姫マリアベル様。其処を退いてはくれませんか?ナイトウイングスを捕らえる事は王命ですギャギュャァー!」
固く固く握り締めた拳で将軍の顔を渾身の力で殴りつけた。将軍は砕けた歯と共に兵士達の中に吹き飛んでいった。
「お前ら此処で何をしている!」
私は叫んだ!
「今がどういう時か分かっているのか!地震で多くの人達が被災しているのだぞ!瓦礫の下で助けを待っている人達がいるのだぞ!」
私の声に兵士達が皆俯いている。
「……助けたい」
1人の兵士が囁いた。
「助けたい!」「俺だって助けたい!」「指示が出ないんだ!」「本当は助けたいんだ!」
皆が口々に言い出した。
「私もそうだ!国民を、街の人々を助けたい!皆、協力してくれ!」
「「「オーーーーーーッ!」」」
「大聖堂の中に聖下様がいる。聖下様とナイトウイングスの指示をもらい救助活動を手伝ってくれ」
そして私は更に歩みを進める。
「道を通してくれ」
きっと私は鬼の形相をしているのだろう。兵士達は恐れ戦き私に道を譲る。
「ひ、姫様はどちらへ」
私は…………。
「お前達には此の国の今を救って欲しい。私は……私は此の国の未来を救う!」
私は城を目指して歩き始めた。
◆
城内は散乱している床の物を、兵士や侍従が片付けをしている。私は其れを横見に国王の部屋へと向かった。
「国王!お話しが有ります!」
国王の部屋の扉を大きく開け、私は部屋へと入った。
「マリアベル!謁見など許してはおらん。無礼であろう!」
突然の私の訪問に国王は怒りの声で答えた。部屋の中には国王が一人でいた。妃と息子のダニエルの姿は見えない。
「国王!何卒軍を街の救助に向かわせて下さい。街にはまだ救わなければならない人々が数多くいます」
「また其の話か!軍は出さん!軍隊を出すだけで何れ程の国費を使うか分かっているのか!国民を助けて儂に何の得が有る!」
「か、金の話しなど……。ましてや国民の命に損得をつけるなど……」
ライトは言った。人命救助にメリットなど関係無いと。
「国とは国民の為に有るべきです!」
「馬鹿を言うな!国民は儂の為に有るのだ!いま建造中の黄金宮に何れ程の金が掛かると思っておる。国民の救助、街の復興などに使う金など有るものか!そうじゃ、もっと税金を上げて金を取り立てよう」
ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!!!
「き、貴様ーーーッ!国民が苦しんでいる此の時に、ふざけた事を言うなーーーッ!」
私の怒りは怒髪天をついた。右手が腰の剣を強く握り締める。
「国王に向かった貴様とは何足る無礼!ましてや剣の柄を握るなど言語道断!今まで生かしてやった恩も忘れおって!」
顔を真っ赤に紅潮させて国王が吠えた。
「ち、父が生きて冴えいれば、この様な無様な国に成り下がる事も無かった」
「フン!崖に馬車事落ちた間抜けな国王に何が出来る!」
私は遂に剣を抜いた。
「貴様が父を殺したのだろうがーッ!」
「その様な証拠も無い戯れ言に耳など貸さぬわ!」
其の時だ。国王の部屋に入って来た者がいる。
「失礼します。話しは廊下の向こうからでも聞こえていました」
金の刺繍を施した黒服の青年。
「貴様は何者だ!」
「初めまして国王様。私はラグナドラグーン国ナイトウイングスの団長、ライト・サクライです。先日は良い返事を頂きありがとうございました」
「き、貴様がライト・サクライ……」
「証拠、証拠とお話し声が聞こえましたので僭越ながらお話をしに参りました」
「な、何を……」
国王の顔に動揺の色が浮かんだ。
「昔ある御者がいました。彼は僅かばかりの借金をしていた筈が、知らぬ間に莫大な借金へと変わっていました。金貸しは言いました。此のままでは家族揃って首を吊る事になる。借金を帳消しにするから手を貸せと。
御者は黙って金貸しの言う事を聞きました。金貸しが裏で手を回し、御者は国王の巡幸のお伴に選ばれました。国王の暗殺が金貸しの指示でした。道中の谷の道で御者は馬車ごと谷に落ち、国王の暗殺を実施したのです」
「な、な、なんじゃ!其の作り話しは!」
国王は動揺した顔でライトに指を突き付ける。
「御者は谷に落ちる前に、同じ御者台にいた護衛の者に、事のあらましを話していました。護衛が御者を止めようとするも、馬車は谷底に転落したそうです。
しかし護衛は奇跡的に生き残る事が出来ました。更に国王も其の時は僅かばかりの命の火を残していました。国王は遺言書を書き終えた後に命を引き取りました。護衛は街に戻ると、国王殺しの罪で処刑されました。しかし彼は捕らわれた牢獄の中に、事の経緯を記した紙と国王の遺書を隠していたのです」
するとリコ・ヤマナシが部屋に入ってきて、私に古ぼけた箱を渡してくれた。
私は箱を開けると中には2通の封書が入っていた。1通は護衛の物でライトの言った事が書き連ねられていた。もう1通は父の遺言書であった。私は其の書を読み涙が出てきた。最後にはこう書いてあった。
『マリー。魔人国の未来をお前に託す』
「そ、其れが何だと言うのだ!儂には関係ないだ話だ!」
国王はまだ言い逃れをしていた。
「魔人国国王アルカラム!お前がやった事は丸っと全部お見通しだ!メイアさん、宰相を中へ!」
メイアに連れられ宰相が青い顔で中に入って来た。
「暗殺事件の裏は全部宰相から聞き出した。もう言い逃れは出来ないと思え!」
「か、神の目め~」
赤とも青とも取れる歪ついた顔で国王が口にした『神の目』。
そうか。ライトは神の目を持っている。だから地震直後に救助に来てくれた。苦しんでいる人々が見えたから。
そして私を助けに城まで来てくれた。今まで発見されなかった父の遺言書を探しあて……。
だから私は父とライトに誓う。この国の未来は私が守る事を!
「其の手紙を渡せ~マリアベルーーーッ!!!」
国王が私に飛びかかって来た。
私はもう決めたのだ。だから私に躊躇は無かった。ふと横目でライトを見る。ライトは優しい微笑みで頷いてくれた。
父と母の仇、国民の微笑みの為、未来の魔人国の為、私は剣を抜刀し横一閃で国王の首を刎ねた。
◆
その後は全軍をあげての救助活動となった。王都近郊の町や村にも軍を送り出し救助活動の支援を行った。
ライト達ナイトウイングスは翌日未明に、王都の要救助者全員を、救助したのを確認すると、来た時と同様に風の様に去って行った。街の人々は彼等救世主に熱いお礼の言葉をいい、全ての人々が涙ながらに見送った。
私は、我が国民は、彼等から受けた恩を一生忘れる事は無いだろう。
あの後、宰相は自ら命をたった。国王と宰相の死は病死として取り扱った。
妃はもともと穏やかな方で、アルカラムが妃の国を取り込む為に政略結婚で嫁いで来ていた。
妃はアルカラムを愛してはいなかった。また恐妻を演じていたのは国王が他の女性にむやみやたらに手を出させない為だ。私は其れらを知っていたこともあり、このままお城に留まる様にお願いした。
ダニエルは良い子だ。妃である母親の愛を素直に受け止めている。ダニエルが大きくなり真実を知った時に、私の事を認めてくれるか、仇として私に向かってくるか。私は前者に成るようダニエルと接して行きたい。
私には2つの夢が出来た。1つはこの国をラグナドラグーンに負けない良い国にする事だ。国民の為の国を作りたい。
もう1つはダニエルを後5年で立派な国王と成れるように導く事だ。そうしたら……。
「女王様。お顔がお赤いようですが、お熱でも出ましたか?(ニヤ)」
「せ、聖下様、其のような事はございません。至って元気です(汗)」
「先ほど侍女が手紙の支度が出来たと参りましたぞ」
「そ、そうであった。ラグナドラグーン国王に感謝の書状を送らねば。可能で有れば和平も結びたい(汗)」
「和平とは良い事ですね。手紙は2通分用意してあると言っておりましたが(ニヤニヤ)」
「は、早く書かねば。聖下様、失礼します」
私は慌ててその場を去った。ラグナドラグーン国王への書状は問題無いだろう。
もう1通は人生で初めて書く恋文……。
胸が熱い……。
後5年でダニエルに王位を譲れたら、私もまだ二十歳、其の頃には何番目の妻になるかは想像だに出来ないが其れでも良い。私は彼と共に人生を歩みたいのだから……(ポッ)。
【第21話 婚約披露パーティー 前編】
何者かがノワールの搭に侵入した形跡が見つかる。婚約披露パーティーの警戒体制を強化するナイトウイングス。
アレ?何此れ?暖かい温もりと柔らかいすべすべしたものが布団の中にあったよ?byライト
次回 第21話 前編は4月20日 夜8時頃にリリースします。
書き留めていたストックに大分追い付かれて来ました~(^^; 現在 27話執筆中です~(^^;