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水晶石のブレイブハーツ  作者: 時雨 波輝
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贖罪のために

こんにちは、時雨波輝です!

今回は少し長めになっていますが、それぞれの人柄がよく分かるように書いてみました!

そして、リスキの才能の一端も垣間見える…?

どうぞお楽しみください(^^)

王女の発言に俺はおろかシドベルやミナルですら目を丸くしていた。

一拍置いて思考を回転させ直した俺はスピカに率直すぎる疑問をぶつける。

「俺が君の師匠って…、一体全体どうゆうこと!?」

「そのままの意味です。リスキ・アレクシブ、私はあなたに王女として命令します。あなたは私の師匠となり、体術と剣術の指南をしてください」

あまりに突拍子もない発言に、俺はぽかんと口を開けるしかない。

「おい、人質君。相手は王女殿下だぞ。もっと気を使った言葉使いをしたらどうだ?」

すると、正気に戻っらしいシドベルがそんなことを言ってくる。いや、今ツッコむところがそこかよ。

しかし、それを制したのは他ならぬスピカだった。

「いいのです。彼は私の師匠になるのですから」

「王女殿下、気は確かですか?彼は他ならぬ人質ですよ!?」

いつになく気を動転させたシドベルが王女に詰め寄るが、

「皆さん、少し落ち着いてください」

ここで年長者のミナルが柔らかく諭すようなトーンで口を開いた。

「確認しますね、王女殿下。あなたがリスキ君に果たしてもらいたい責務は、リスキ君があなたの師匠となり体術と剣術の指南を施す。それで間違いないですね?」

スピカは首を縦に降る。

「しかし、ご存知ですよね。彼、リスキ・アレクシブ君には付加(エンチャント)の適正がまったくありません。つまり一切の魔法を使えないのです。それに彼は7年前に滅びたエルドラドからの難民であり、その時に大怪我を負った妹を助けるために彼自身がこの国の人質となる契約を交わしています。妹を助けてもらう代わりにこの国の所有物になるという契約を」

「つまりあなたはこう言いたいのですか、学園長。リスキは既に滅びた国からの難民であり、人質。さらに一切魔法が使えない。立場的にも実力的にも不相応だと」

ミナルの俺の事情の説明にスピカは少し声のトーンを下げて返す。

「そうです。それに国がそれで今回の事件を終わらせることを許可してくれるかどうか」

続けられたミナルの疑問はもっともだ。仮に王女が許したとしても国が納得しなければ根本的な解決にならない。

「それについては問題ありません。昨日父上に連絡し、許可を頂いています。今回の事件は私の納得する形で終わらせればそれでいいと」

「…なんですって……?」

スピカの口から飛び出した言葉に、ミナルは表情に明らかな驚嘆の文字が浮かぶ。シドベルも想定外なのか空いた口を塞ぐことが出来ないようだった。無論、俺も同じである。

王女であるスピカの父親、それはつまりこの国アストルの国王にして最高権力者である。その国王が王女に一任したとあっては誰も口出しをすることはできない。たとえこの学園を管理する国の機関であっても例外は存在しない。

「そういうわけなので心配は無用です。破壊事件そのものは主犯である男子学生5人に処罰を与え、リスキの覗きの件に関しては私の師匠になってもらうことが贖罪のための責務。これでこの事件は解決です」

涼しい顔で淡々と言い放つスピカの言葉に誰も異を唱えることができないでいた。スピカの言葉が国王の後ろ盾を得てのものだったと知って、誰も何も言えなくなっているのは明々白々であった。

しかし、

「お待ちください、王女殿下!」

今まで黙っていたシドベルが最後の抵抗とばかりに口を開く。

「今回の事件に関してはそれで解決でいいかもしれません、他ならぬ国王陛下があなた様に解決を一任するとおっしゃっているのですから。ですが、なぜ彼を、その人質を自らの師匠とするのですか?その者にはウィザードとしての素質は一切ないのですよ?」

シドベルはかなり必死になってスピカを説得する。実際その通りなので何も言い返せない俺なのだが、俺を人質としか呼ばないこの生徒会長にはどうにか痛い目にあってほしいものだ。

「それは先ほどから聞いていますし、自分でも調べました。彼がどういった人なのかを」

「ならば、なぜ?」

シドベルは一切譲る気は無いらしい。

「ですが、それがどうしたというのですか?」

「……はい?」

スピカのその思いがけない言葉にシドベルが素っ頓狂な声を上げる。

「彼の立場については私が王女である以上、それなりに融通をきかせることができます。それに私はリスキにウィザードとしての師匠になって欲しいわけではありません。あくまで体術と剣術の師匠になって欲しいのです。実際、純粋な体術の剣術に関しての彼の成績はずば抜けている。それはあなたが一番よく知っているのではないですか、ミナル学園長」

その言葉にミナルは無言を返す。しかし、その表情からはさっきまでの温和な雰囲気は見て取れない。それは紛れもなく、ミナルの言葉が真実であることを表していた。

人間(ヒューマン)は戦闘においてウィザードには勝てません。それは魔法を使える使えないだけではなく、魔力による身体能力の強化や傷を負った時の自然治癒速度の違いなどにも起因しています。ですが、リスキは完全な人間でありながら体術と剣術の分野において、上から二番目のAという成績を取っています。これは過去1度だけ記録された成績ですが、ウィザードを相手にこの成績を残せるのは異常ではないかと思いませんか?」

スピカの言葉を聞き、俺はスピカの鋭さに内心舌を巻いた。

俺が実技授業に参加したのはこの学園に入学させられてすぐのこと、6年も前の話だ。当時、俺は難民という立場を少しでも周りに認めてもらおうと必死だった。そのために幼い頃から祖父に指導され続けた体術と剣術をウィザードである教師相手に本気で披露したのだ。しかしウィザードでないという点で差別を受けた俺は周りには認めてもらえず、むしろ好成績を取ってしまったことによって多くの生徒の恨みを買うようになってしまった。ヒューマンのくせに好成績など生意気だといった典型的な逆恨みである。一切認めてもらえなかった俺は、それ以降のウィザードの実技授業には一回も出席していない。なので俺の実技成績はその時の一回しか存在しないわけだ。

まさか、そんなに昔の俺の成績にまで目を通していたとは。俺のことを調べたと言っていたのは本当らしい。師匠になってほしいというのも本当なのだろう。

 でも、

「いや、ちょっと待って王女様」

 今度は俺自身が待ったをかけた。相変わらずシドベルが恨みがましい視線鵜を向けてくるが無視だ。

「そっちの言い分は分かったけど、なんで俺なんだ?俺にはウィザードを指南できる技量なんてないし、そもそも学園トップの成績を誇るあんたに師匠なんて必要なのか?」

 俺は率直すぎる疑問をぶつけた。あまりにも正論過ぎたのか、ミナルも首を縦に振りシドベルに関しては「まさしくその通り」と懲りずに王女に詰め寄っている。

「勿論です。私は魔法には多少の自信はあっても、体術や剣術を本気で特訓したことはありません。現在の私の体術や剣術はすべて授業の一環で習ったものであり、それ以上を学んだことはないのです。」

 俺の疑問にスピカは笑顔で返し、その笑顔の圧力で一瞬にしてシドベルを黙らせる。単純だが説得力のある言葉に俺とミナルはぐうの音も出ず、シドベルは頭を抱えてうつむいてしまう。

「ですから、あなたに一から教わりたいのです。引き受けてくれますか、リスキ」

 とどめと言わんばかりに満面の笑みを向けてくるスピカ。どうやら俺には他に選択肢はないようだ。

「贖罪のためでもあるしな…。可能な限り頑張るよ。でも、俺の体術は全く参考にならないと思うけど」

 最後に皮肉を混ぜながらも、俺はしぶしぶうなずいた。ミナルはため息交じりに苦笑しており、シドベルに至っては「何かの間違いだ」とブツブツ言っている。この生徒会長はかなり根暗だったらしい。

「ありがとうございます。では、行きましょうか」

「行くってどこへ?」

「決まっています。闘技場の私の部屋です」

「…はぁっ?」

 柔らかいトーンでまた信じられない葉が聞こえた。

 一拍おいて声を裏返らせた俺の手を引っ張って学長室を出ていこうとするスピカ。去り際に茫然とこちらを見つめるミナルとシドベルの顔が俺の視界に収まっていた。


ご愛読ありがとうございます!

今回は人間性が裏テーマになっています。

スピカの明るい本性、根暗なシドベル、いつでも冷静なミナル、僕なりに分かりやすく簡潔に書いてみました!

そしてミナルさえ認めるリスキの体術と剣術とは?

次回もお楽しみに(^^)

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