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水晶石のブレイブハーツ  作者: 時雨 波輝
4/7

人質の責務

こんにちは、時雨波輝です(^^)

今回は3話、ついに物語が動き出します!

その転換点となるお話です。

少し長めになっていますが、楽しんでいただけると幸いです。

「お久しぶりですね、リスキ・アレクシブ君。それではこちらへ来ていただけますか?」

エレベーターが開くと同時に部屋の奥にある重厚そうなデスクから声が聞こえた。見ると、金髪を肩口で切りそろえた碧眼の女性が微笑を浮かべていた。

ミナル・プラグマ

わずか20代後半にしてこの学園基地のトップに登りつめた国内でも有数の付加者(ウィザード)である。

その実力は火属性の魔法に長けているだけでなく、彼女の頭脳にもある。その頭脳は駆け引きにたけており、常に柔らかい表情浮かべた温和な雰囲気でそれを隠している。

その実力を認められ、国から直々にアストル国内最大の学園基地の最高指導者に任命されたわけだ。

また、彼女だけは俺の名前を覚えている。学園で長という立場上、生徒の名前を覚えるのは義務らしい。

言われた通りにデスクの前まで来ると、

「そのままで少し待ってください」

ミナルが声のトーンを変えずに言ってくる。

そう言えば、生徒会長と王女の姿がない。

どうゆうことなのかミナルに声をかけようとした時、1度閉まったはずのエレベーターが再び開き2人の男女が姿を現した。

「久しぶりだね、いつ以来かな」

そのうち長めの茶髪の男が感情の篭っていない声を俺にかけてきた。

シドベル・グレイザー

この学園基地の生徒会長であり高等部4年。アストル3大貴族の一角であるグレイザー家の長男である。

グレイザー家は高い付加(エンチャント)適正をもつ実力主義の一族であり、強い付加者(ウィザード)ほど優遇し付加の適正がない者ほど冷遇するといった典型的な魔法におけるウィザード至上主義の家系である。

シドベルもそれに漏れない実力主義であり、なぜこんな男が生徒会長なのか何度疑問に思ったか分からない。実際、その圧倒的な魔法の実力がなければ下ろされているのだろうが。

「昔からおかしなやつだとは思っていたけど、ついに覗き魔にまで落ちたのかい人質君。まぁ、所詮人質だしね」

相変わらず、とんでもない悪口をどこからともなく思いつく最悪の皮肉やろうだと付け加えておこう。

「王女殿下、御足労ありがとうございます。ではこちらへ」

すると、一転して態度を変えたシドベルは隣にいる少女へと声をかける。

そちらに視線を向けると、そこには昨日見かけた並外れた美貌を持つ少女が俺に視線を向けていた。

スピカ・アストル

ヒュレイン高等部3年の首席にして、世界でも5大魔導大国と言われるアストルの第1王女。

火属性の魔法を得意とするアストル国内でも群を抜く強力な炎を操り、知略と行動力にも長け絶対的なカリスマまで備えている。まさに非の打ち所がない。

その証拠にヒュレインでもたった3人のXランクの称号を与えられている。さらにその王女という立場と完璧な容姿も相まって完全に学園アイドルとなっている才女。

そんな少女が俺に向ける視線はとにかく静かで感情が感じられない。

昨日の件に関しては彼女は完全な被害者であるわけだから、相当怒らせてしまったのかもしれない。

「全員揃ったようですね。それでは始めましょうか」

ミナルの一声で全員がデスクの前に集まる。

「まずは昨日起こったことの確認です。リスキ君はケンカ早くて有名なダスタ君率いる5人組に目をつけられ闘技場のそばで襲われた。その時放たれた魔法の規模が強大で闘技場の壁を破壊してしまった。リスキ君は逃げるためにその破壊された壁の中に飛び込んだ。しかし不幸にもそこは女子更衣室で偶然スピカ王女の着替えを覗いてしまった。というのが昨日リスキ君本人から聞いた話です。間違いないですか?」

淡々と紡がれたミナルの言葉に俺は無言で頷く。

ちなみにダスタとは俺に話しかけてきた大柄の男で、5人組のリーダーである。俺も昔からそこだけは嫌々ながら記憶している。

昨日、事件後に風紀員に拘束された俺はそのまま闘技場の事務室に連れていかれ、そこで事情聴取を受けた。嘘偽りなく答えると、その5人組にもそれぞれ確認を取ることと明日(昨日から見て明日なので、つまり今日)もう一度呼び出されることを伝えられ、そこで解放された。

一晩たった後にこんな大事になるなど、一切考えていなかったわけなのだが。

「ふむ。事件の起きた放課後の時間帯や闘技場の破壊跡から見ても、そのダスタ君を初めとした5人組が強力な魔法を行使したことは間違いないのですね?」

シドベルがミナルに確認を取る。こうして状況を正確に把握しようとするあたり、腐っても生徒会長ということらしい。

「それは間違いありません。それぞれが初級魔法のファイヤーボール、そして5人がかりで戦術魔法のメテオフレイムを使用したこと認めました。何よりリスキ君は魔法が使えませんからね、他に誰もいなかったあの時間帯の闘技場の側であれほど規模の魔法を撃てる人物は他にいません。彼らには厳正な処罰が与えられることになります」

アドベルの質問に対してミナルがそう結論付ける。

話を聞くかぎり、昨日起きた闘技場の壁の破壊なんて言う突拍子もない事件の方は終着を迎えそうだ。

そうすると疑問なのが、

「その話ぶりからして昨日の事件はそれなりに決着してるみたいだけど、ならなんで俺は学長室にまで呼び出されることになった?」

俺は思ったままの質問をミナルにぶつける。

本来ならその通りだ。事後処理が一晩でここまて進んでいるなら、学長室なんて仰々しいところに呼び出さず、生徒会室あたりでその結果だけ聞かせてくれても良かったはずだからだ。

すると唐突にもう1人が口を開いた。

「私が納得してないからに決まっていますよね?」

その透き通るような声に反応してそちらを向く。口を開いたのは紛れもなく王女だった。

目を丸くした俺に、今度はシドベルが呆れたように説明する。

「君はことの重大さを理解してないのかい、人質君。確かに昨日の破壊騒ぎそのものは既に決着していると言ってもいい。しかし、君はその過程で覗きを働いた」

「着替えを覗いてしまったのは事実だし、それに関しては謝る。本当に申し訳ない。でも俺が着替えを覗いてしまったのは、ヤツらから逃げようとした時の偶然。決して故意に覗きを働いたわけじゃない」

「故意か不本意かは問題じゃない。君が覗きを働いた相手は一国の王女だ。それは間違いなく王族に対する犯罪行為であり、普通なら投獄されても仕方ないレベルだ」

「…嘘だろ?覗き程度で投獄って……」

シドベルの返答に俺は一拍置いて表情を驚愕に歪める。

さらにミナルが会話を引き継ぐ。

「実際その通りなのです。昨日、ことの次第を国に報告しました。アストルという国自体が運営するこの学園で事件が起きたのですから、それは義務です。しかし、国はその事件の過程や結末よりもいち男子学生が王女の着替えを覗いてしまったことに何よりも腹を立てていました。下手をすれば、その男子学生の投獄せえ躊躇しないと」

冗談じゃない…

不本意の覗きで強制投獄なんて容認できるわけがない。俺は俯きながら心の中で悪態をつく。

すると、あからさまに歪んだ俺の顔を見てミナルが言葉を続ける。

「まだ話は終わってませんよ。私も流石にそれは度が過ぎていると思いました。それにその男子学生がリスキ・アレクシブだと伝えると国はあからさまに態度を変えました。あなたはすでに妹の人質という立場、国の監視下にいるという点で既に投獄されているのと同じです。それをもう一度投獄するなどできません」

ミナルと言葉を聞き、少しだけ安堵した俺は顔を上げる。

「ならどう落とし前を付けるべきだと思うかね?」

すると、シドベルがそんなことを言い出す。

「落とし前?」

「当たり前だろう。君は既に人質だ、これ以上の罰を与えるとすればそれは極刑レベルのものになる。だが、王族への犯罪だからといってそう簡単に極刑判決など出せない。つまり現状として、国が犯罪者である君を罰することができないんだ。だとしたら君自身が何かこの件に対して落とし前を付けるのは当たり前だろう。これは責務と言ってもいい。少しは頭を働かせたらどうだい?」

皮肉混じりに解説するシドベルに俺は目を細める。

まさか犯罪者呼ばわれされるとは、この男に対して心底不愉快でしょうがない。さらに国までその見解でいるとはもはやため息すら出ない。

「で、その責務とやらを果たすにはどうすればいいわけ?」

完全に気分を害された俺はぶっきらぼうにそう告げる。

「私の納得する形で、です」

答えたのはスピカだった。

俺がそちらに目を向けると、王女は先ほどとは違ったどこか興味を抱くような視線で俺を見据えていた。

「リスキ・アレクシブ、あなたには私の師匠になって頂きます!」

読んでいただきありがとうございます!

今回から物語が動き出しますが、王女の言う師匠とはいったい…?(笑)

今回はこれから物語でよく出てくる3人の名前やその特徴を事細かに書いてみてます。

ちなみに今作でヒロインは複数いるのですが、メインヒロインはスピカです。

僕が思う可愛いをこれでもかとつぎ込んだ子になってますので、今後ともお楽しみに(^^)

そしてミナルが言っていた、リスキは「魔法を使えない」、とはどういう事なのか…?

次回をお楽しみ!

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