妹の人質
こんにちは、時雨波輝です。
前回からまた2週間ほど空いてしまいすみませんm(_ _)m
今回は前回より短めに、読みやすくしてみました。
前回の事件がことの他大きな事件だったことがテーマです。
また、主人公の立場も少し垣間見えるようになっています。
楽しんで読んでいただけると幸いです!
ジリリリリ!
枕元で盛大な鳴き声をあげる目覚ましの頭を殴打して俺は現実に意識を覚醒させた。
時刻は午前8時半、日付は4月の最後の土曜日。
とにかく寝ることが好きな俺なら、休日である土曜日は昼まで寝ているのが定石なのだが、今日ばかりはそうはいかない。
慣れない休日の早起きに半開きのまぶたを擦りつつ、周りを見渡す。
あるのは、クローゼットや机といった必要最低限の家具とベランダに続くカーテンのかかった大きめな窓のみ。
うん、寮の俺の部屋だ。
非常に簡素で味気ないが、俺にはこれくらいが丁度いい。実際は、俺が必要ないものはとことんいらない主義のためこうなっているだけなのだが。
意識が完全に覚醒した俺は、1人サイズのこれまた簡易なベッドから降りてベッド脇に設置された小さな箱を開ける。
これは小型の冷蔵庫で寮のすべての部屋にひとつずつ設置されている。
学生達は食事を寮に併設された食堂でとるのが一般的で、冷蔵庫の役割は主に飲み物の保存である。
冷蔵庫から缶コーヒーを取り出した俺は、蓋を開けそれを一気に飲み干す。
「ふぅっ」
小さく息をつき、今度はクローゼットに向かう。
扉を開け、その中のハンガーにかかっている学園の制服を取り出して着替える。
白いワイシャツに紺のズボンとブレザー、そして学園基地ヒュレインの頭文字HとYを模した校章の入ったネクタイを順当に身に付けていく。
本来、休日にかしこまった制服など絶対に着ない俺なのだが、今日ばかりは例外だ。
心底気が進まないが、昨日の事件で生徒会室に呼び出されている以上、無理もないことである。
そんなことを考えながら身支度を終えた頃に玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けるとそこには生徒会の風紀員のメンバー3人が待ち構えていた。
「準備はできているか?」
真ん中の背の高い男の問いかけに俺は無言で頷く。
「ならば付いてこい。学園長に生徒会長、そして昨日の被害者がお待ちだ」
学園基地ヒュレインは初等部、中等部、高等部の校舎が生徒会室や理事長室のある総務館を中心に北、南東、南西の3方向に伸びた形をしており、それぞれの校舎を隔てて用途ごとに3エリアに分かれている。
グラウンドや闘技場を含む北西エリア、寮のある南エリア、魔法そのものの研究を行っている北東エリアとなっている。
現在、俺は風紀員に連れられて寮から真北の総務館を目指している。
寮の周りは緑豊かな公園となっていて、今日のようによく晴れた休日ともなれば日常の訓練の疲れを癒すためにのんびりしている学生の姿をよく見かける。
しかし、風紀員に連れられた俺といういかにも犯罪臭ただよう状況は、そののどかな風景には不相応すぎて周りの視線を必然的に集めてしまう。
視線が痛い…、心底帰りたい…。
そんな俺の感情など風紀員には伝わるはずもなく、公園を歩き続けること数分で総務館に辿り着いた。
ここは普通の学生なら屋外から入ることはできず、特に10階建てのうち6階より上の生徒会室や学長室があるフロアは、正式に話を通しておかないと校舎内からですら登れないほど厳重なセキュリティを施している。
例外として、教師を始めとした職員や来賓客、生徒会のメンバーには通行証が渡されており、それを入口やエレベーターにかざすことで屋外からの入場、または6階以上のフロアに足を運ぶことができる。
総務館の入口である大きめ(高さ3メートルほど)の金属ゲートの前に来ると、風紀員の3人はそろって通行証を取り出した。
それを1人1人ゲートの横の装置にかざすと、ゲートが開き中に入っていく。俺もそのあとについて行く。勿論、俺は通行証など持っていないので、普通ならこのゲートから入ることは出来ない。
総務館の中は1階がセキュリティ管理センターになっており、左右のガラスの向こう側で空中にディスプレイを映し出して忙しそうに手を動かしている職員が何人も見える。
風紀員たちはその真ん中の廊下を突き当りまであるき、再び通行証を掲げた。
すると、壁の一部が開き、エレベーターが現れる。
総務館の2階から5階はそれぞれの校舎を行き来するための分岐点として吹き抜けになっているのだが、このエレベーターは壁に埋め込まれる形で作られているため外から見ても中から見ても分からない構造になっているわけだ。
正直、どれだけ徹底したセキュリティを取り入れているのかと内心ため息をついてしまう。
「入れ」
背の高い風紀員に言われエレベーターに乗り込む。風紀員たちも続いて乗り込んできて、全員が中に入ると扉がしまりエレベーターが上昇を始めた。
エレベーターはなかなか速く、ものの十数秒で生徒会室がある6階に辿り着いた。
かと思うとエレベーターはまだ止まらない。
さらに上の階へと登っていく。
「ちょっと、待て。生徒会のフロアはもう過ぎたぞ?」
不思議に思った俺は風紀員に尋ねた。
すると、
「言っただろう、被害者や会長だけでなく学園長もお待ちだと。今向かっているのは生徒会室ではない。学長室だ」
は?
「え、ちょ、なんだよそれ!確かに昨日不本意ながら女子の着替えを覗いちゃったのは間違いないけど、学園長にまで呼び出されるほど学生生命に関わる問題なのかよ?」
俺は躍起なって声を張り上げながら風紀員に問い詰める。
「昨日、お前という覗き魔の標的となった女子」
「だから覗き魔じゃねーよ!不本意で見ちゃっただけだって言ってんだろ!」
「それは俺にとってどっちでもいいことだ」
こいつ…
「問題なのはお前が覗きを働いた女子がこの国の王女であったということだ」
…は?……はぁっ!?
「嘘だろ?なんだよそのマッチポンプ?」
「それはこちらのセリフだ。お前こそ気づかなかったのか?この国の王女だぞ?」
「人の顔を覚えるのがとにかく苦手だからなぁ…」
3人の風紀員はそろって大きすぎるため息をついた。
「この国の王女の顔すら知らないとは…、お前本当にアストルの国民なのか?」
そうだともいえるし、そうでないといえる。少なくとも俺はアストル生まれではないからだ。
「委員長、こいつ確か難民なんだよ。それも6、いや今年から7年前に滅んだ最後の科学国エルドラドからの」
背は低いが体格のいい風紀員が補足を入れる。
「なるほど、お前が。あぁ、思い出したぞ。エルドラドが崩壊した時にこの国に唯一助けられた2人のうちの1人にして、妹の人質」
最後の言葉に俺はあからさまに顔を曇らせる。やはり、誰も俺自身のことは何も知らず、俺が人質ということだけを覚え名前も顔も覚えようとはしない。
その瞬間、エレベーターの上昇が止まる。目的のフロア、学長室のある10階に着いたのだ。
「さぁ、降りろ。学園長と生徒会長、そして王女殿下がお待ちだ」
水晶石のブレイブハーツ2話読んでいただきありがとうございます!
今回で主人公の「人質」という立場に少しだけ触れられていましたが、これが何を意味するのか…?
前回、主人公リスキが起こした(というより巻き込まれた)事件がことの他大きすぎたことが判明して、いきなり学生生命の危機?的な話になっています(笑)
次回から今作のヒロインたちが本格的に参戦し、リスキがいきなりとんでもないことを突きつけられる話になることを予定しています。
よろしければ次回以降もお付き合い下さい(^^)
次回は3話、お楽しみに!
(このくらいの長さなら毎週投稿できるかな…?)