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水晶石のブレイブハーツ  作者: 時雨 波輝
2/7

唐突な出会い

本文は主人公リスキ・アレクシブとメインヒロインの出会いの文章となっています

そして主人公が抱える因縁のも少し垣間見得るようにしてみました

背景となる国や学園の設定もわかりやすいように書いてみました

楽しんで読んでいただければ幸いです!

 その時、俺の思考は完全にストップしていた。目の前に広がっている光景があまりにも特殊な状況だったからだ。

 後ろには壁に空いた大きな穴、周りには大量のがれき、そして俺を取り巻く土煙。

 それだけでも普通でないのに、煙の合間から見えるものはさらに異質であるといえる。

 緑の壁に映える肌色が見える。一部が淡い水色に覆われている肌色だ。

 いや、率直に言おう。下着だけを来た半裸の少女が目を丸くしてこちらを見ていた。

 雪のように白い肌、人の理想を体現したかのようなスラリとした手足と均整の取れたスタイル、腰まで伸びた赤褐色のつややかな長髪、そして芸術作品のような美貌。

 すべてが完璧だった。一切の欠陥がない完璧な少女だった。

 俺は茫然として、口をぽかんと開けたまま固まっていた。決して半裸の少女を見入っていたわけではない。頭の中で状況の整理がつかなかったのだ。

 それは少女も同じなようで、その大きな瞳をより丸くしたままこちらを眺めていた。

 だが一瞬早く少女が正気に戻ったようで、その人離れした美貌を真っ赤に染めて大きく息を吸い込んだのがわかった。

 俺も一拍遅れて正気に戻ると、必死に言い訳を取り繕うとして口を開きかけた。

 その瞬間、

「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 少女は声にならないほどの悲鳴を上げていた。

 その悲鳴に乗じて室外や屋外から何人もの足音が足早に近寄ってくるのが聞こえる。

 それと同時にこの先の展開を悟った俺は、どうしてこうなったのか思考を数刻前に戻し大きなためため息をつくのだった。


 

 春の暖かい夕焼けが瞼にあたり、俺は長いまどろみから目覚めた。

 頭を左右に振り眠気を頭から吹き飛ばす。

 ズボンのポケットに手を入れ、中から片手サイズのデバイスを取り出して電源を入れる。

 その液晶画面に映った時刻を見ると、夕方の6時を回ったところだった。

 改めて周りを見渡すと長く続くフェンスと出入口、いくつかの換気口や給水タンクが見える。

 間違いなく俺がいつも昼寝をしている校舎の屋上だった。

 俺は立ち上がり大きく伸びをする。

 そして、フェンス越しに地上を見下ろした。

 眼下には広大なグラウンドと闘技場が見える。

 そこでは幾人もの生徒たちが戦闘訓練を行っている。

 しかし、その戦闘は人間の領分をはるかに超えていた。

 ある者が手から炎を出せばある者は手から水を放射し相殺する。別の者が風の塊を放とうものならまた別の者が上空を旋回しかわす。

 もちろん、彼らはドーピングを行ったり、兵器を隠し持っているわけではない。

 「魔法」

 かつてはおとぎ話や物語の中にしか出てこない非現実的なものであった。

 しかし1世紀ほど前、魔力を宿した鉱物である付加石エンチャントストーンが世界各地で見つかったのをきっかけに、世界の情勢は一変した。

 エンチャントストーンは文字通り人体に付加エンチャントすることができ、付加対象は魔法を使うための魔力を体内に宿すことができるようになった。

 エンチャントに成功した者は付加者ウィザードと呼ばれ、魔法を自在に操れる新人類となった。

 初めのうちは皆がその人知を超えた力に酔いしれていた。

 だが、邪な考えをもつ権力者がその力に目をつけるのは遅くはなかった。

 ある国がウィザードを兵士として戦争に投入したのである。

 その力は圧倒的で、それまでに戦争の主力であった科学兵器はウィザードの軍勢を前に手も足も出ず敗北した。

 これを機に、1つまた1つとウィザードを戦争の兵士として扱う国が増え、今ではかつての化学兵器の面影のない完全な魔法戦争と化している。

 近年では1人でも多くのウィザードを育成するのが世界各国の共通認識であり、この国アストルは世界でも5つしか存在しない「魔導大国」と評されるほどに勢力を拡大した国の1つである。

 ここ学園基地ヒュレインはアストルの所有するウィザード育成機関である。

 初等部3年、中等部3年、高等部4年の3過程に分かれており、年齢にして10~20歳、総勢10000人を超える生徒が在籍する国内最大規模の魔導学園である。

 街1つが巨大な学園となっているこの街は、基地と銘打つだけあって有事の際には街そのものが前線基地となり学生も兵士として戦場に赴く。

 初等部のうちは魔法の使い方や一般教養が主であるが学年が上がるにつれ魔法の実習科目が増え、高等部にもなると生徒同士で小隊を組みその小隊同士で実技演習をするのが主流になる。

 放課後であるこの時間帯は様々な小隊が自主訓練に励んでおり、それぞれの小隊で連携の見直しや実戦を見据えた戦闘訓練をしている。

 眼下に広がっている光景はまさにそれである。

 そんな様子を俺は無感情な視線で見降ろしていた。

 数分して、俺は帰路に就くために屋上を後にした。



 1階の昇降口にあるロッカーで帰り支度を整えた俺は、特に寄り道をすることなくまっすぐ学内の寮に帰っていた。

 ヒュレインは中等部以上の生徒全員に全寮制を敷いている。初等部の3年間は街の居住区に家族とともに住んでいるのだが中等部に上がるとともに家族と離れ、生徒は寮に入り家族は首都ブランテードや地方の地元に帰るのが決まりになっている。俺に至っては例外なので、初等部から寮生活なのだが。

 今夜は何を食べようか、のんきにそんなことを考えながら人通りのない薄暗い小道を歩いて行く。この道は闘技場の脇道で、知る人しか知らない寮へは近道なのだ。この道は緑が多く、自然と心が安らぐのでいつしか俺のお気に入りの帰路になっていた。

「おい、ちょっと待てよ」

 急に呼び止められて俺はそちらを振り向く。ガラの悪そうな5人の男がタチの悪い笑みを浮かべながら俺の後をついてきていた。そのうちでもっとも大柄な男が言葉を続ける。

「久しぶりだなぁ、元気してたのかよぉ」

 俺はそちらを振り向いただけで無言を決め込んでいる。

 当然俺はこいつらを知っている。だが、返事をする気は毛頭ない。こいつらには借りがある。絶対に払ってもらわなけらばならないほどの大きな借りが。

「おい、なにか言ったらどうなんだよ。まさか俺たちを忘れたわけじゃないよなぁ?」

 無反応な俺にしびれを切らしたのか、威圧的な口調になった大柄の男が俺に詰め寄ってくる。

 もちろん覚えているさ。だからこそ口を開く気すらないんだ。借りを返してもらおうとは思えども、金輪際かかわりたいとも思わなかったんだ。

 男の声を聴くことさえ嫌になった俺は、踵を返し帰路に就こうとした。

「無視してんじゃねぇ!」

 男が怒声を上げるとともに、俺の左肩を火球がかすめていった。

 さすがに目を疑った俺は再び男の集団を振り返る。

 当然だが、闘技場やグラウンド以外の場所、授業や修練以外を目的とした魔法の使用は校則によって禁じられている。魔法の威力はすさまじく、誤って一般人にぶつかれば普通に死人が出る。魔力による身体強化を行えるウィザード同士の修練でもけがを負うのが日常茶飯事だ。

(こいつらには正気というものがないのか…)

 声にはださず、心の中で悪態をつく。

 振り向きはしてもとことん無言を貫く俺のことがよほど気に食わなかったのか、5人の男全員が手を掲げたかと思うと一斉に火球を展開した。

「久しぶりに稽古つけてやるよ、昔のようになぁ!」

 沸点が頂点に達した大柄な男の怒声ともに5つの火球が同時に放たれる。

 一瞬にして視界が火球に覆われる。当たれば大火傷は免れない。 

 俺は全力で闘技場に向かって走り出した。

 1つは室内に入れば放てる魔法は制限されるから。もう1つは火球の着弾によって植物が燃やされてしまうのを防ぐため。お気に入りの帰路を焼け野原にされるわけにはいかないのだ。

「逃げんじゃねぇ!」

 俺の逃げ道を予測した男たちがその先に火球を放ってくる。

 それと同時に取り巻きたちが俺を包囲する形で続けざまに火球を放ってくる。闘技場の壁伝いに逃げようとしていた俺は必然的に壁に貼り付けにされた。

「お前は昔から稽古つけてやろうとするたびにちょこまか逃げ回ってやがったからなぁ、せっかくの人の好意を無下にしやがって」

 何が無下だ。俺をいたぶるのを心底楽しんでいたくせに。

「久しぶりに会った記念に面白いものを見せてやるよ」

 それと同時に全員が再び火球を展開する。

 しかし大きさが先ほどとは桁違いだ。俺の身長よりも大きい。全員の火球を1つにして力を倍増させているのだ。

 俺の額から冷や汗が垂れる。

(あんなのをまともに食らえば下手をすれば死ぬ!)

 男たちの顔がゆがんだ笑顔に染まる。それが発射の合図だった。

 俺は全力でその場を飛びのく。その瞬間巨大な火球が闘技場の壁に直撃する。

 その威力に闘技場の壁が爆ぜた。闘技場は相当に強い鉱物で作られているが、ここまで大規模な魔法には耐えられない。

 その証拠に壁に大きな穴が開く。

 しかしこれを好機とばかりに俺はその穴に飛び込んだ。煙がもうもうと上がるその穴に入れば煙に紛れて逃げれると思ったのだ。

「クソッ、待ちやがれ!」 

 その目論見は成功したらしい。背後から男の怒声が聞こえるが知ったことか。こっちは1歩間違えば死んでたんだ。

 転がり込んだ穴の中で、俺は体を起こして周りを確認する。



 どうやらあの馬鹿ども(5人の男たち)が破壊したのは女子更衣室の壁だったらしい。さらに運の悪いことに、中には修練を終えて着替えていた少女がいたというわけである。

 と、ここまで考えていた間に周りは完全に野次馬でいっぱいだった。

 半裸の少女と煙で汚れた男が1人、そしてそれを囲う野次馬といった状況が出来上がる。どう見ても怪しいのは俺である。

 男たちは野次馬が集まってくる前に逃げたようで、どうやらこの場での弁明はできなさそうだ。

 後から駆けつけてきた生徒会の役員によって、俺はあえなくお縄となった。

 去り際に、せっかくの美貌をこれでもかとゆがめた恨みがましい少女の顔が脳裏に焼き付いていた。

 

 

 

 


 

 


投稿が遅れて申し訳ありませんでしたm(_ _)m

5月の後半から日常が忙しくなってしまって、なかなか執筆する時間が取れなかったのが原因です。

現在は少し落ち着いたので次の話は来週中には出したいと思います!

今回は主人公のリスキとメインヒロインの出会いの話となっています。

少しお決まりの出会い方かも知れません(笑)

そして、主人公が抱える因縁のようなものも少し垣間見得るように表現してみました。

次回はこの事件の翌日が舞台です。

楽しみに待っていただければ幸いです(^^)

ではまた次回お会いしましょう!

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